認知症の危険因子としての食後高血糖

私たちはなぜ空腹(断食)の状態で血液検査を受けるのだろうか?欧州動脈硬化学会と欧州臨床化学・臨床検査連盟は、通常の脂質検査(採血)は空腹時に行なう必要はないというコメントを発表した [Ref. 1] 。その推奨項目はきわめて簡潔な表にまとめられている(表1)。さらに血糖値についても、空腹時血糖よりも食後高血糖—いわゆる「血糖値スパイク」—の重要性(危険性)が指摘されている [注1] 。

 

久山町研究において、糖尿病と認知症の因果関係が報告されているが、この解析(多変量調節ハザード比)では糖負荷2時間後の血糖値—食後血糖に相当する—が認知症(全認知症アルツハイマー病、血管性認知症)と強力に関連していた [Ref. 2] 。空腹時血糖と認知症には有意な相関はなかった

 

高齢者の脳MRI健診では「朝食をとってきたことを確認」するようにしている。

 

注1:NHKスペシャル “血糖値スパイク” が危ない(放送:2016年10月8日)

 

Ref. 1: Nordestgaard BG, Langsted A, Mora S, Kolovou G, Baum H, Bruckert E, Watts GF, Sypniewska G, Wiklund O, Borén J, Chapman MJ, Cobbaert C, Descamps OS, von Eckardstein A, Kamstrup PR, Pulkki K, Kronenberg F, Remaley AT, Rifai N, Ros E, Langlois M; European Atherosclerosis Society (EAS) and the European Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine (EFLM) Joint Consensus Initiative. Fasting Is Not Routinely Required for Determination of a Lipid Profile: Clinical and Laboratory Implications Including Flagging at Desirable Concentration Cutpoints-A Joint Consensus Statement from the European Atherosclerosis Society and European Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine. Clin Chem 2016;62:930-946.

 

Ref.2: Ohara T, Doi Y, Ninomiya T, Hirakawa Y, Hata J, Iwaki T, Kanba S, Kiyohara Y. Glucose tolerance status and risk of dementia in the community: the Hisayama study. Neurology 2011;77:1126-1134.

 

表1 主要な推奨点 (Ref. 1より)
通常の血漿脂質検査は空腹時に行なう必要はない
非空腹時の中性脂肪が440 mg/dLを越えた場合は空腹時の再検査を考慮する
異常値は適切に報告されるべきである*
生命に関わるような、もしくはきわめて高い値を示した場合は専門医へ紹介する
* 非空腹時の異常値として、中性脂肪≧175 mg/dL(空腹時の基準は≧150 mg/dL)、
コレステロール≧190 mg/dL、LDLコレステロール≧115 mg/dL、
HDLコレステロール≦40 mg/dLを推奨している。

腎臓と脳と認知機能

腎臓は体内の老廃物を尿として排出する以外にも実に多彩な機能を持ち、「人体ネットワーク」の要の役割を果たしている [注1] 。最近、腎臓は脳の働きにも影響を及ぼすことが明らかとなり、注目されている。

 

一般住民560人(女性が60%、平均年齢72歳)の脳MRI健診において、慢性腎臓病と認知機能 [注2] の関係について検討した報告がある [Ref. 1] 。腎機能と潜在性脳梗塞と認知機能の複雑な関係性は共分散構造分析 [注3] という統計手法を用いて解析された。予想通り腎機能低下は潜在性脳梗塞を介して遂行機能障害と関連があったが、腎機能低下が遂行機能障害と直接(潜在性脳梗塞と独立して)関連する経路もあった。この独立した経路の機序は不明であるが、腎臓が脳に及ぼす影響にはいろいろと想定外のことが多い。

 

腎臓の働きの多様性を理解するには、我々の脳(力)では現時点で不十分であるように思える。

 

注1:NHKスペシャル「人体」 “腎臓” があなたの寿命を決める(2017年10月1日)

 

注2:もっとも一般的な認知機能のスクリーニング検査であるミニメンタルテストと遂行(前頭葉)機能検査の一つであるストループテストを用いて認知機能を評価した。

 

注3:複数の重回帰分析(多変量解析)をネットワークで結んで、各因子どうしの関係とモデル全体の適合度を判断する統計解析の方法。最近では構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling [SEM] )ともいう。

 

Yao H, Araki Y, Takashima Y, Uchino A, Yuzuriha T, Hashimoto M. Chronic Kidney Disease and Subclinical Brain Infarction Increase the Risk of Vascular Cognitive Impairment: The Sefuri Study. J Stroke Cerebrovasc Dis 2017;26:420-424.

認知機能低下に関与する睡眠障害

2日間徹夜すると「注意力」や「集中力」は急激に低下する。6時間くらい眠れば大丈夫だと思っていても、「6時間睡眠を2週間続けた脳は、2晩徹夜したのとほぼ同じ状態」であるという。わずかな睡眠不足が、まるで借金のようにじわじわ積み重なる「睡眠負債」は無視できない健康被害をもたらす [注1] 。

 

一般住民740名(平均年齢75歳、613名 [82.8%] が認知機能正常)の睡眠と認知機能との関連について調査し、3年間追跡した報告がある [Ref. 1] 。睡眠時間に加えて「寝つきが悪いか?」「夜中に目がさめるか?」「(睡眠障害のため)昼間眠たいか?」などについて質問した。教育歴で補正した認知機能検査の点数低下と関連していたのは、認知機能正常者で「夜中に目がさめる」という項目であった。単に睡眠時間だけの問題ではなく、睡眠の質が悪いと認知症になりやすいのだろうか?

 

“財産は睡眠中に創られる” “苦労は夢とともに消える” [注2]

 

注1:どうすれば返済? コワ〜イ睡眠負債(NHKあさイチ 2017年9月4日放送)

 

注2:夏への扉ロバート・A・ハインライン、福島正美 [訳]、ハヤカワ文庫)

 

Ref. 1: Johar H, Kawan R, Emeny RT, Ladwig KH. Impaired Sleep Predicts Cognitive Decline in Old People: Findings from the Prospective KORA Age Study. Sleep. 2016;39:217-226.

教育と脳

大島潜居となった西郷吉之助はこの機会に書物を読むことにした。書物を読みすぎると何事に対しても決断できず「迷ってばかりいる人間になる」のではないかと大久保一蔵は心配したが、大久保の父次右衛門は次のように述べた。「そげん人間は、もともとぐずなんじゃ。(中略)書物を読んだおかげで、阿呆になるだけは助かったのよ。すぐれた気象のある者は、書物を読むことによって判断が正確になるが、そのためにぐずなぞにはなりはせん。書物を読んでぐずになるような人間は、はじめからすぐれた気象などなかのよ」[注1] 。

 

11歳の時に知能テストを受け、その後高齢となってからMRI検査を受けた617例(平均年齢72.7歳、46.2%が女性)を対象として、教育期間が長いほど大脳皮質は厚かった(発達していた)という報告がある [Ref. 1] 。有意な相関のあった(両側の)側頭葉、内側前頭葉頭頂葉、感覚野、運動野のうち、11歳時の知能指数で補正すると、教育歴の長さと相関があったのは両側側頭葉上部のみであった。幼少時の知能指数を考慮してこなかったこれまでの報告では、(11歳以降の)教育効果を過大評価している可能性がある。

 

もともと頭の良かったヒトが教育を受けると「とても頭が良く」なる?

 

注1:西郷と大久保(海音寺潮五郎新潮文庫

 

Ref. 1: Cox SR, Dickie DA, Ritchie SJ, Karama S, Pattie A, Royle NA, Corley J, Aribisala BS, Valdés Hernández M, Muñoz Maniega S, Starr JM, Bastin ME, Evans AC, Wardlaw JM, Deary IJ. Associations between education and brain structure at age 73 years, adjusted for age 11 IQ. Neurology 2016;87:1820-1826.

ゆるやかな糖質制限によるダイエット

ダイエットとは(脂質を減らすことによる)カロリー制限のことと思い込んでいたが、それは「神話」でしかなかった。体重の適正化や糖尿病のコントロールには「糖質制限」がもっとも効果的であり、山田は「ゆるやかな糖質制限ロカボが人類を救う」と主張している [注1] 。要するに、(多くのヒトでは)糖質制限さえ適切に行なっておけば十分で、下手に脂質やタンパク質を制限すると何の効果もなく、逆に「低栄養」となるだけであると。

 

イスラエルで「どのような食事が肥満の解消に有効か?」というランダム化比較試験が行なわれた [Ref. 1] 。無作為に割り付けられた322名(86%は男性、平均年齢52歳、平均体重91.4 kg)の最終結果(2年後)は、低脂肪食で平均2.9 kg 、カロリー制限をした地中海食で平均4.4 kg、(わりと厳しい [注2] )炭水化物制限食で—総カロリー、タンパク、脂肪は制限しないにもかかわらず—平均4.7 kgの体重減少がみとめられた。初期の減量効果は糖質制限食で凄まじかったが、軽くリバウンドし、最終的には地中海食と大きな差はなかった。

 

「脂っこいものが悪い」「肉は食べるな」「リバウンドのためのダイエット」 無意味な努力

 

注1:糖質制限の真実 カロリー制限の大罪 (いずれも山田悟著、幻冬舎新書

 

注2:低炭水化物食群では、最初の2ヶ月は炭水化物を20 g/日とし、その後120 g/日としている。研究終了時に尿ケトン体が検出された例も同群に多かった(8.3%)。この食事はアトキンスダイエットに準じている。

 

Ref. 1:Shai I, Schwarzfuchs D, Henkin Y, Shahar DR, Witkow S, Greenberg I, Golan R, Fraser D, Bolotin A, Vardi H, Tangi-Rozental O, Zuk-Ramot R, Sarusi B, Brickner D, Schwartz Z, Sheiner E, Marko R, Katorza E, Thiery J, Fiedler GM, Blüher M, Stumvoll M, Stampfer MJ; Dietary Intervention Randomized Controlled Trial (DIRECT) Group. Weight loss with a low-carbohydrate, Mediterranean, or low-fat diet. N Engl J Med 2008;359:229-241.

地中海食は高齢者の認知機能を改善する

スペインで行われた研究 [注1] では、地中海食は有害事象の減少—特に脳卒中予防—に効果があった [Ref. 1] 。

 

この大規模研究の一部を用いて、地中海食の認知機能に及ぼす効果が検討された [Ref. 2] 。複数の血管危険因子をもつ「ハイリスク」の447名(55歳から80歳)をランダム化し、約5年間追跡した。エクストラバージンオリーブオイル(1週間で約1リットル)もしくはミックスナッツを毎日30グラム(くるみ15グラム、ヘーゼルナッツ7.5グラム、アーモンド7.5グラム)のいずれか(いずれも地中海食への指導を受けた)の介入を行ない、様々な認知機能検査を介入前後で行った。その結果、ナッツ群では記憶が、オリーブオイル群では前頭葉機能と全般的認知機能が改善していた(低脂肪食の教育を受けた対照群との比較)。予想通り介入群では(エクストラバージンオリーブオイルやミックスナッツに多く含まれる)フェノール酸やアルファリノレイン酸関連物質(脂肪酸=油の成分)が増加していた。

 

地中海食—良質の油(脂)の補給—は「脳を健康にする」!

 

[注1] The PREDIMED (Prevención con Dieta Mediterránea) trial

 

Ref. 1:Estruch R, Ros E, Salas-Salvadó J, Covas MI, Corella D, Arós F, Gómez-Gracia E, Ruiz-Gutiérrez V, Fiol M, Lapetra J, Lamuela-Raventos RM, Serra-Majem L, Pintó X, Basora J, Muñoz MA, Sorlí JV, Martínez JA, Martínez-González MA; PREDIMED Study Investigators. Primary prevention of cardiovascular disease with a Mediterranean diet. N Engl J Med 2013;368:1279-1290

 

Ref. 2:Valls-Pedret C, Sala-Vila A, Serra-Mir M, Corella D, de la Torre R, Martínez-González MÁ, Martínez-Lapiscina EH, Fitó M, Pérez-Heras A, Salas-Salvadó J, Estruch R, Ros E. Mediterranean Diet and Age-Related Cognitive Decline: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med 2015;175:1094-1103. 

最も健康に良いスポーツ種目は?

若い時(19から29歳ごろ)にテニスをしていたヒトは、その後の人生で心筋梗塞となることが少ない [Ref. 1] 。テニスは中年期以降も続けることが多く、比較的強度のある有酸素運動であることがその主な理由であろう。

 

どのスポーツ種目が健康に良いのか? 英国の一般住民80,306人(平均年齢52歳)を平均9.2年間追跡して、6つのスポーツ種目と死亡率の関係をみた報告がある [Ref. 2] 。水泳、エアロビクス、ラケットスポーツ(バドミントン、テニス、スカッシュなど)は全死亡および心血管系死亡の減少と—サイクリングは全死亡減少とのみ—有意な相関があった(様々な共変量で補正したコックス比例ハザードモデルによる)。ランニングとフットボールには死亡率(減少)との有意な相関はなかった。

 

「誰かテニスしない?」[注1]

 

Ref. 1: Houston TK, Meoni LA, Ford DE, Brancati FL, Cooper LA, Levine DM, Liang KY, Klag MJ. Sports ability in young men and the incidence of cardiovascular disease. Am J Med 2002;112:689-695.

 

Ref. 2: Oja P, Kelly P, Pedisic Z, Titze S, Bauman A, Foster C, Hamer M, Hillsdon M, Stamatakis E. Associations of specific types of sports and exercise with all-cause and cardiovascular-disease mortality: a cohort study of 80 306 British adults. Br J Sports Med 2017;51:812-817.

 

注1:Tennis, Anyone?—Ref. 1についたEditorials(編集後記=論評)から。

Jacobs DR Jr, Schmitz KH. Tennis, anyone? On the value of sustainable, vigorous physical activity and long-term studies. Am J Med 2002;112:733-734.