コーヒーはヒトの健康にどう影響するのか

  1. コーヒーには健康に良い面と悪い面の両方がある
  2. いくら健康に良い面があっても、飲み過ぎは体に毒
  3. どこからが飲み過ぎでどこまでが適量かは人ごとに異なる

この三カ条はコーヒーに限らず、健康を考えるときすべてに当てはまる原則 [注1] であろう。

 

ヨーロッパの10カ国で、健康—全死亡と疾患別死亡—に及ぼすコーヒーの影響について、451,743人を平均16.4年追跡調査した報告がある [Ref. 1] 。コーヒーを多く飲む群(多い方からの4分位)では、全死亡は減少した(ハザード比と95%信頼区間は、男性で0.88 [0.82-0.95]、女性で0.93 [0.87-0.98]) [注2] 。コーヒー飲用に伴う全死亡の減少は、通常のコーヒーでもカフェインレスコーヒーでも同様であった。疾患別死亡では、消化器疾患(肝疾患)と循環器疾患による死亡減少が顕著であった。脳卒中による死亡も、コーヒー多飲群(特に女性)で少なかった。

 

これまたランダム化比較試験はまず不可能であるが、コーヒーは(明らかに)健康に良い

 

注1:コーヒーの科学 (旦部幸博、ブルーバックス

 

注2:コックス比例ハザードモデル—体格指数、身体活動度、喫煙、教育、閉経、飲酒、カロリー摂取量、赤身もしくは加工した肉の摂取量、果物と野菜の摂取量を共変量として調整

 

Ref. 1: Gunter MJ, Murphy N, Cross AJ, Dossus L, Dartois L, Fagherazzi G, Kaaks R, Kühn T, Boeing H, Aleksandrova K, Tjønneland A, Olsen A, Overvad K, Larsen SC, Redondo Cornejo ML, Agudo A, Sánchez Pérez MJ, Altzibar JM, Navarro C, Ardanaz E, Khaw KT, Butterworth A, Bradbury KE, Trichopoulou A, Lagiou P, Trichopoulos D, Palli D, Grioni S, Vineis P, Panico S, Tumino R, Bueno-de-Mesquita B, Siersema P, Leenders M, Beulens JWJ, Uiterwaal CU, Wallström P, Nilsson LM, Landberg R, Weiderpass E, Skeie G, Braaten T, Brennan P, Licaj I, Muller DC, Sinha R, Wareham N, Riboli E. Coffee Drinking and Mortality in 10 European Countries: A Multinational Cohort Study. Ann Intern Med 2017;167:236-247.

 

受動喫煙によって死亡率はかなり増加する

受動喫煙対策に関する岩田のコメントを盛大に引用する—(屋外まで禁煙にしようという受動喫煙対策失敗の)理由は簡単だ。受動喫煙健康被害の質の高いエビデンスは屋内での喫煙に関してのみで、その被害は家庭や職場、レストランやバーだからだ。外での喫煙者が他者に健康被害をもたらす可能性はないか、あっても非常に小さい [注1] 。

 

中国の喫煙経験のない女性72,829人を平均5.7年追跡して、コックス比例ハザード回帰モデル [注2] により環境たばこ煙の弊害について解析した報告がある [Ref. 1] 。環境たばこ煙については、日常的に(毎日1本を6か月以上)「夫から/職場で/20歳以前に家族から」受動喫煙があったかを質問した。夫からの受動喫煙では全死亡(ハザード比と95%信頼区間は1.15 [1.01-1.31])と心血管系死亡(特に脳卒中)が増加し、職場での受動喫煙ではがん(特に肺がん)による死亡が増加していた。

 

間接的に吸煙したくらいではそれほど害はなかろう—ではなく、受動喫煙でも(近距離なら)これだけ悪いということは、直接喫煙すると「たばこはとてつもなく害がある」ということ。

 

注1:塩崎大臣の失敗と受動喫煙対策のあるべき姿 岩田健太郎 2017年06月22日(http://blogos.com/article/230338/

 

注2:死亡率を年齢の関数として、教育、職業、所得、身体活動度、体格指数、肉・野菜・果物の摂取量を共変量として調整

 

Ref. 1: Wen W, Shu XO, Gao YT, Yang G, Li Q, Li H, Zheng W. Environmental tobacco smoke and mortality in Chinese women who have never smoked: prospective cohort study. BMJ 2006;333:376.

睡眠薬を服用すると認知症になる!?

不眠症の治療や抗不安薬としてベンゾジアゼピン系の薬(睡眠薬)が使われることが多かった。高齢者が長期間(不必要に)睡眠薬を服用すると認知症のリスクが高くなると言われているが、一致した見解には達していない。

 

睡眠薬の使用が認知症の原因となりうるのか—フランスの一般住民についての観察研究がある [Ref. 1] 。追跡調査を開始する前に5年間の先行期間を設け、その最初の3年間は睡眠薬を服用しておらず、追跡調査開始時に認知症がなかった1063例(平均年齢78.2歳)を15年間(中央値で6.2年間)追跡した。この期間に253人(23.8%)—睡眠薬服用者30人(32%)と非服用者223人(23%)—が認知症を発症した。新規睡眠薬服用者の認知症発症リスクは有意に上昇していた(多変量調節ハザード比 [注1] と95%信頼区間は1.60 [1.08-2.38] )。追跡開始前に先行期間を設け、多数例を解析したこの研究の信頼性は高い(原因と結果の解釈にはそれでも慎重でなくてはならないが----)。

 

豊田泰光のように、スランプでも「よく食って、よく眠って、ただ、待っている」[注2] ことができるなら、そもそも不眠症などならなくてすむ!?

 

注1:年齢、性別、教育歴、未婚であること、ワインの消費量、内服薬、先行期間の最初の3年間のミニメンタルテスト点数の変化で調整

 

注2:スランプ 考えるヒント (小林秀雄、文春文庫)

 

Ref. 1: Billioti de Gage S, Bégaud B, Bazin F, Verdoux H, Dartigues JF, Pérès K, Kurth T, Pariente A. Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study. BMJ 2012;345:e6231

認知症は減少している?!

フラミンガム研究では認知症の「発症率」は近年減少傾向を示していた。その理由は明らかではないが、認知症減少は、「高校卒業以上」の教育歴を持つものに限られていた [Ref. 1] 。英国でも認知症有病率の減少が報告されている [Ref. 2] 。

 

米国の一般住民における認知症の頻度について、2000年と2012年を比較した報告がある [Ref 3] 。どちらの年も平均年齢75歳ほどの約1万人について、電話による認知機能検査を行なった(0-6点を認知症、7-11点を認知機能障害・認知症なし、12-27点を正常とした)。その結果、65歳以上の認知症の頻度は2000年が11.6%、2012年が8.8%(年齢と性別で調整すると8.6%)と約24%減少していた。認知症の減少には、2012年=1(2010年=0)以外では、教育歴や純資産、肥満が、増加には脳卒中や糖尿病が関与していた(二項ロジスティック回帰分析)。

 

最近欧米では認知症が減少しているという報告が目につくが、日本ではどうだろうか?

 

Ref. 1:Satizabal CL, Beiser AS, Chouraki V, Chêne G, Dufouil C, Seshadri S. Incidence of Dementia over Three Decades in the Framingham Heart Study. N Engl J Med 2016;374:523-532

 

Ref. 2: Matthews FE, Arthur A, Barnes LE, Bond J, Jagger C, Robinson L, Brayne C; Medical Research Council Cognitive Function and Ageing Collaboration. A two-decade comparison of prevalence of dementia in individuals aged 65 years and older from three geographical areas of England: results of the Cognitive Function and Ageing Study I and II. Lancet 2013;382:1405-1412

 

Ref. 3: Langa KM, Larson EB, Crimmins EM, Faul JD, Levine DA, Kabeto MU, Weir DR. A Comparison of the Prevalence of Dementia in the United States in 2000 and 2012. JAMA Intern Med 2017;177:51-58

認知症の危険因子としての食後高血糖

私たちはなぜ空腹(断食)の状態で血液検査を受けるのだろうか?欧州動脈硬化学会と欧州臨床化学・臨床検査連盟は、通常の脂質検査(採血)は空腹時に行なう必要はないというコメントを発表した [Ref. 1] 。その推奨項目はきわめて簡潔な表にまとめられている(表1)。さらに血糖値についても、空腹時血糖よりも食後高血糖—いわゆる「血糖値スパイク」—の重要性(危険性)が指摘されている [注1] 。

 

久山町研究において、糖尿病と認知症の因果関係が報告されているが、この解析(多変量調節ハザード比)では糖負荷2時間後の血糖値—食後血糖に相当する—が認知症(全認知症アルツハイマー病、血管性認知症)と強力に関連していた [Ref. 2] 。空腹時血糖と認知症には有意な相関はなかった

 

高齢者の脳MRI健診では「朝食をとってきたことを確認」するようにしている。

 

注1:NHKスペシャル “血糖値スパイク” が危ない(放送:2016年10月8日)

 

Ref. 1: Nordestgaard BG, Langsted A, Mora S, Kolovou G, Baum H, Bruckert E, Watts GF, Sypniewska G, Wiklund O, Borén J, Chapman MJ, Cobbaert C, Descamps OS, von Eckardstein A, Kamstrup PR, Pulkki K, Kronenberg F, Remaley AT, Rifai N, Ros E, Langlois M; European Atherosclerosis Society (EAS) and the European Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine (EFLM) Joint Consensus Initiative. Fasting Is Not Routinely Required for Determination of a Lipid Profile: Clinical and Laboratory Implications Including Flagging at Desirable Concentration Cutpoints-A Joint Consensus Statement from the European Atherosclerosis Society and European Federation of Clinical Chemistry and Laboratory Medicine. Clin Chem 2016;62:930-946.

 

Ref.2: Ohara T, Doi Y, Ninomiya T, Hirakawa Y, Hata J, Iwaki T, Kanba S, Kiyohara Y. Glucose tolerance status and risk of dementia in the community: the Hisayama study. Neurology 2011;77:1126-1134.

 

表1 主要な推奨点 (Ref. 1より)
通常の血漿脂質検査は空腹時に行なう必要はない
非空腹時の中性脂肪が440 mg/dLを越えた場合は空腹時の再検査を考慮する
異常値は適切に報告されるべきである*
生命に関わるような、もしくはきわめて高い値を示した場合は専門医へ紹介する
* 非空腹時の異常値として、中性脂肪≧175 mg/dL(空腹時の基準は≧150 mg/dL)、
コレステロール≧190 mg/dL、LDLコレステロール≧115 mg/dL、
HDLコレステロール≦40 mg/dLを推奨している。

腎臓と脳と認知機能

腎臓は体内の老廃物を尿として排出する以外にも実に多彩な機能を持ち、「人体ネットワーク」の要の役割を果たしている [注1] 。最近、腎臓は脳の働きにも影響を及ぼすことが明らかとなり、注目されている。

 

一般住民560人(女性が60%、平均年齢72歳)の脳MRI健診において、慢性腎臓病と認知機能 [注2] の関係について検討した報告がある [Ref. 1] 。腎機能と潜在性脳梗塞と認知機能の複雑な関係性は共分散構造分析 [注3] という統計手法を用いて解析された。予想通り腎機能低下は潜在性脳梗塞を介して遂行機能障害と関連があったが、腎機能低下が遂行機能障害と直接(潜在性脳梗塞と独立して)関連する経路もあった。この独立した経路の機序は不明であるが、腎臓が脳に及ぼす影響にはいろいろと想定外のことが多い。

 

腎臓の働きの多様性を理解するには、我々の脳(力)では現時点で不十分であるように思える。

 

注1:NHKスペシャル「人体」 “腎臓” があなたの寿命を決める(2017年10月1日)

 

注2:もっとも一般的な認知機能のスクリーニング検査であるミニメンタルテストと遂行(前頭葉)機能検査の一つであるストループテストを用いて認知機能を評価した。

 

注3:複数の重回帰分析(多変量解析)をネットワークで結んで、各因子どうしの関係とモデル全体の適合度を判断する統計解析の方法。最近では構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling [SEM] )ともいう。

 

Yao H, Araki Y, Takashima Y, Uchino A, Yuzuriha T, Hashimoto M. Chronic Kidney Disease and Subclinical Brain Infarction Increase the Risk of Vascular Cognitive Impairment: The Sefuri Study. J Stroke Cerebrovasc Dis 2017;26:420-424.

認知機能低下に関与する睡眠障害

2日間徹夜すると「注意力」や「集中力」は急激に低下する。6時間くらい眠れば大丈夫だと思っていても、「6時間睡眠を2週間続けた脳は、2晩徹夜したのとほぼ同じ状態」であるという。わずかな睡眠不足が、まるで借金のようにじわじわ積み重なる「睡眠負債」は無視できない健康被害をもたらす [注1] 。

 

一般住民740名(平均年齢75歳、613名 [82.8%] が認知機能正常)の睡眠と認知機能との関連について調査し、3年間追跡した報告がある [Ref. 1] 。睡眠時間に加えて「寝つきが悪いか?」「夜中に目がさめるか?」「(睡眠障害のため)昼間眠たいか?」などについて質問した。教育歴で補正した認知機能検査の点数低下と関連していたのは、認知機能正常者で「夜中に目がさめる」という項目であった。単に睡眠時間だけの問題ではなく、睡眠の質が悪いと認知症になりやすいのだろうか?

 

“財産は睡眠中に創られる” “苦労は夢とともに消える” [注2]

 

注1:どうすれば返済? コワ〜イ睡眠負債(NHKあさイチ 2017年9月4日放送)

 

注2:夏への扉ロバート・A・ハインライン、福島正美 [訳]、ハヤカワ文庫)

 

Ref. 1: Johar H, Kawan R, Emeny RT, Ladwig KH. Impaired Sleep Predicts Cognitive Decline in Old People: Findings from the Prospective KORA Age Study. Sleep. 2016;39:217-226.