主観的なもの忘れ—認知症の「最初の一歩」なのか?

最近のメタアナリシスから「主観的なもの忘れがある健常高齢者の25%は4年以内にアルツハイマー病がらみの軽度認知障害となり、認知症となるリスクも2倍」と報告されています [Ref. 1] 。「主観的なもの忘れ」がある認知機能正常な高齢者の脳の中では何が起こっているのでしょうか。

 

健常高齢者(251名、平均年齢73.3歳)において、脳の糖代謝や脳内アミロイド沈着—共にポジトロンCTによる—と主観的物忘れとの関連をみた研究があります [Ref.2] 。アミロイド沈着のあるヒトでは、主観的物忘れと海馬の代謝低下に相関がありました。脳内にアミロイド沈着のある健常高齢者が物忘れを訴えだしたとき(つまりごくごく初期のアルツハイマー病)、海馬の代謝(と記憶力—通常の認知機能検査では検出できないほどの)が低下しているのかもしれません。

 

「主観的なもの忘れ」を「客観的に」評価しなくてはいけないようです。

 

Ref. 1: Mitchell AJ, Beaumont H, Ferguson D, Yadegarfar M, Stubbs B. Risk of dementia and mild cognitive impairment in older people with subjective memory complaints: meta-analysis. Acta Psychiatr Scand 2014;130:439-451. 

 

Ref. 2: Vannini P, Hanseeuw B, Munro CE, Amariglio RE, Marshall GA, Rentz DM, Pascual-Leone A, Johnson KA, Sperling RA. Hippocampal hypometabolism in older adults with memory complaints and increased amyloid burden. Neurology 2017;88:1759-1767.

有酸素運動によって海馬が大きくなり、記憶力は改善する

「体を動かすと認知機能が改善し、認知症になりにくい」ことが多くの観察研究から示唆されています。より因果関係をはっきりさせるためにランダム化比較試験も行われています。しかしながら、「身体活動は認知機能低下やアルツハイマー認知症を予防するか?」に関するランダム化比較試験の系統的文献検索(システマテイックレビュー)[Ref. 1] によると、それらは観察期間が短かったり、対象例数が少なかったりして、多くの研究は「不十分な」ものと言わざるを得ないようです。

 

120人の高齢者(平均年齢67歳)をトレッドミルでの有酸素運動とストレッチ(対照群)に振り分けて比較したランダム化比較試験があります [Ref. 2] 。注意深く計画された [注1] この研究では、有酸素運動群では1年後の海馬容積(特に歯状回や海馬台、CA1領域を含む前部)が絶対値で2%増大し、記憶 [注2] が改善していました。これは大変質の良い研究としか思えません。

 

ランダム化比較試験は効果の判定(統計手法)は簡単ですが、内容(方法)については少し詳しく見ておく必要があります。

 

注1:まず症例の選択方法ですが、地域在住の842名に呼びかけ、179名の応募があり、そのうち145名が介入試験に参加しました。そのうち25名は様々な理由から除外し、ランダム化した120名の結果について報告しています。研究参加の基準は、右利きであること、55〜85歳、スクリーニング検査で認知症うつ病の可能性が低いこと、色覚が正常で、視力が一定水準以上であること、神経疾患や循環器系の疾患がないことなどです。さらに、かかりつけ医からの了解も得ています。

 

注2:記憶力の検査方法としては、コンピュータ上での空間記憶課題を用いています。

 

Ref. 1: Brasure M, Desai P, Davila H, Nelson VA, Calvert C, Jutkowitz E, Butler M, Fink HA, Ratner E, Hemmy LS, McCarten JR, Barclay TR, Kane RL. Physical Activity Interventions in Preventing Cognitive Decline and Alzheimer-Type Dementia: A Systematic Review. Ann Intern Med 2018;168:30-38.

 

Ref. 2: Erickson KI, Voss MW, Prakash RS, Basak C, Szabo A, Chaddock L, Kim JS, Heo S, Alves H, White SM, Wojcicki TR, Mailey E, Vieira VJ, Martin SA, Pence BD, Woods JA, McAuley E, Kramer AF. Exercise training increases size of hippocampus and improves memory. Proc Natl Acad Sci U S A 2011;108:3017-3022.

店頭で売られているサプリは認知症を予防するか?

結論—全く効果はない。以上!

 

もう少し丁寧に語ってみると、最新の系統的文献検索(システマテイックレビュー)[Ref. 1] によると「店頭で売られているサプリ [注1] は認知機能低下や軽度認知機能低下、アルツハイマー認知症の予防において ”little or no benefit” である」ということです。この論文では、56の研究を同定しましたが、3分の1は企業より資金援助を受けていて、18はバイアスのリスクが高く解析から外しています。さらに細かく見ていくと、最初のデータベース [注2] 検索において11,087件の論文がヒットし、タイトルと抄録を見て(読んで)9,487論文を除外、手作業で見つけた185論文を加え、そのうち1,415の論文を読んだあげく残ったのが63件の論文(56研究)ということです。

 

やれやれといった感じでしょうか。

 

注1:サプリの内容は、オメガ3脂肪酸、大豆、銀杏の葉エキス、ビタミンB群、ビタミンDとカルシウム、ビタミンE、ビタミンCとベータカロテン、マルチビタミンについて一覧表にまとめてあります。

 

注2:Ovid MEDLINE、PsycINFO、EMBASE、Cochrane Central Registerのデータベースを使用しています。

 

Ref. 1: Butler M, Nelson VA, Davila H, RatnerE, Fink HA, Hemmy LS, McCarten JR, Barclay TR, Brasure M, Kane RL. Over-the-Counter Supplement Interventions to Prevent Cognitive Decline, Mild Cognitive Impairment, and Clinical Alzheimer-Type Dementia: A Systematic Review. Ann Intern Med 2018;168:52-62.

脳トレは有効か?

脳を鍛えるエクササイズ「脳トレ」が認知症を予防するかについては一致した見解はありません [Ref. 1] 。認知症になってしまうと脳トレは効果がないようですが、問題は認知症までいたってない—が、認知症になりそうな—ヒトに脳トレによる予防効果があるか(エビデンスはあるのか?)です。

 

最近ACTIVE試験 [注1] の10年後の結果が報告されています [Ref. 2] 。この試験は当初、記憶や問題解決能力、処理速度に関する3種類の脳トレと対照群の4つのグループについて、ランダム化比較試験により認知機能や日常生活機能の改善について検討したものです。その後認知症の定義を明確にして、また追加の脳トレも行なって10年間追跡し(この辺、研究デザインが込み入っていますが)、「処理速度に関する脳トレ」が認知症の発症を減少させることを示しました(対照群との比較でハザード比と95%信頼区間は0.71 [0.50-0.998])。しかしながら他に十分な研究がない現況では確定的なことはまだ言えないようです。

 

脳トレ認知症を予防するか?—まだ分からない!けれど脳トレを進んでやるようなヒトはやらなくても(当面)ボケないのでは。

 

注1:The Advanced Cognitive Training for Independent and Vital Elderly study (ACTIVE) 試験は日常生活が自立していた高齢者2,802名を対象にして、ランダム化比較試験により脳トレの効果を検討したものです。脳トレの有効性を示したものとしては最大規模のものです。

 

Ref. 1: Butler M, McCreedy E, Nelson VA, Desai P, Ratner E, Fink HA, Hemmy LS, McCarten JR, Barclay TR, Brasure M, Davila H, Kane RL. Does Cognitive Training Prevent Cognitive Decline?: A Systematic Review. Ann Intern Med 2018;168:63-68. 

 

Ref. 2: Edwards JD, Xu H, Clark DO, Guey LT, Ross LA, Unverzagt FW. Speed of processing training results in lower risk of dementia. Alzheimers Dement 2017;3:603-611.

なぜ統計学が最強の学問であるのか?

西内の本 [注1] から盛大に引用します。

 

なぜ統計学が最強の学問であるのか?その理由は、「人間の制御しうる何物についても、その因果関係 [注2] を分析できるから」であり、この統計学の汎用性は、どのようなことの因果関係も科学的に検証可能なランダム化比較試験(実験)によって支えられています。ランダム=無作為とは、「意図的に手を加えることなく、偶然にまかせること」(広辞苑)であり、十分にランダム化してしまえば、検定したい1因子以外の因子(背景因子)は群間で同じとなります。適切にランダム化された比較試験によって「ある結果」がえられたときは、そのえられた結果の原因は「その1因子」以外ありえないということです(その他の因子は全て同じだから)。

 

ランダム化比較試験か(それができなければ)観察研究か(まず)それが問題です。

 

注1:統計学が最強の学問である (西内啓、ダイヤモンド社

 

注2:因果関係とは、ある原因によってどのように結果が変わるか—ということ。すなわちある原因(説明変数、独立変数)によりある結果(アウトカム [成果指標]、従属変数)がもたらされることを因果関係という。

飲酒と脳卒中

医学情報のエビデンスを手っ取り早く得るために皆がしているのは、メタアナリシスを探すことです。メタアナリシスは、系統的文献検索(システマテイックレビュー)を定量化したもので、エビデンスレベルは高くなります。もちろん「飲酒と脳卒中」に関しても(観察研究の)メタアナリシスはあると思いますが、ここでは原著を読むことにこだわってみたいと思います。

 

米国の一般住民12,433人(追跡開始時に45〜64歳)を中央値で22.6年間追跡した「中年時の飲酒と脳卒中のリスク」に関する研究があります [Ref. 1] 。飲酒量を少量(週3単位以下)、中等量(週4〜17単位)、大量(週18単位以上)—1単位はアルコール10 g—として、飲酒と脳卒中発症との関連について解析しています [注1] 。大量飲酒では脳梗塞発症増加傾向があり、少量から中等量(適量)飲酒での発症抑制効果はない—いわゆるJカーブ現象はない—という結果でしたが、いずれも(統計解析上)不明確なものでした。中等量以上の飲酒で脳出血の発症は増加していました。

 

脳梗塞と飲酒との関係について、この研究では明快な結果を得ることはできませんでした—メタアナリシスが必要なのでしょうか?

 

注1:コックス比例ハザードモデル—年齢、施設・人種、性別、教育、喫煙を共変量として調整(モデル1)。さらに、結婚しているか、LDLコレステロール、食事、身体活動度、追跡開始時点での虚血性心疾患と糖尿病などの共変量をモデル1に追加したものをモデル2としている。

 

Ref. 1: Jones SB, Loehr L, Avery CL, Gottesman RF, Wruck L, Shahar E, Rosamond WD. Midlife Alcohol Consumption and the Risk of Stroke in the Atherosclerosis Risk in Communities Study. Stroke 2015;46:3124-3130.

 

血圧を下げすぎてきつくはないか?

血圧が130/80 mmHg以上なら高血圧とする—と基準は厳しくなってきています。これは脳卒中の既往や糖尿病のない高齢高血圧患者の収縮期血圧を厳格に(120 mmHg以下を目標)コントロールすると、標準治療よりも心血管疾患の発症率や死亡率が低下したというランダム化比較試験の結果 [Ref. 1] にもとづいています。厳格な治療は—全体としては好結果をもたらすとしても—低血圧や失神、腎機能の増悪などを引き起こす可能性もあります。さらに降圧治療を受ける側がどう感じているかも重要です(「体調が良い」とか、「満足している」とか)。

 

そこでこのランダム化比較試験(SPRINT研究 [注1] )において、治療される側がどう感じているかという解析が行なわれました [Ref. 2] 。その結果、身体的および精神的状態評価やうつの指標、治療や薬剤に対する満足度、治療を遵守したか(できたか)などの各項目について、厳格治療群と標準治療群とでほぼ同様の結果でした。治療される側からみても「厳格な降圧療法は悪くない」ということです(少数の例外はもちろんあるでしょうけど)。ここまできちんとやられると、ちょっと「負けた」という感じがするほどです。

 

(治療される側が満足しているということは)それはそれで良いのでしょうけど、高血圧の基準を厳しくするより、食塩摂取量を減らす方が、日本ではずっといいのではないでしょうか。

 

注1:SPRINT研究については以下に詳しいまとめがあります。http://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20160209nakayama.pdf

 

Ref. 1:SPRINT Research Group, Wright JT Jr, Williamson JD, Whelton PK, Snyder JK, Sink KM, Rocco MV, Reboussin DM, Rahman M, Oparil S, Lewis CE, Kimmel PL, Johnson KC, Goff DC Jr, Fine LJ, Cutler JA, Cushman WC, Cheung AK, Ambrosius WT. A Randomized Trial of intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med 2015;373:2103-2116. 

 

Ref. 2:Berlowitz DR, Foy CG, Kazis LE, Bolin LP, Conroy MB, Fitzpatrick P, Gure TR, Kimmel PL, Kirchner K, Morisky DE, Newman J, Olney C, Oparil S, Pajewski NM, Powell J, Ramsey T, Simmons DL, Snyder J, Supiano MA, Weiner DE, Whittle J; SPRINT Research Group. Effect of Intensive Blood-Pressure Treatment on Patient-Reported Outcomes. N Engl J Med 2017;377:733-744.