コーヒーは脳の健康にどう影響するのか2

ヨーロッパの10カ国で、健康—全死亡と疾患別死亡—に及ぼすコーヒーの影響について、451,743人を平均16.4年追跡調査した報告があります[Ref. 1] 。コーヒーを多く飲む群(多い方からの4分位)では、全死亡は1割ほど減少していました [注1] 。意外なことにコーヒー飲用に伴う全死亡の減少は、通常のコーヒーでもカフェインレスコーヒーでも同様でした。疾患別死亡では、消化器疾患(肝疾患)と循環器疾患による死亡減少が顕著でした。脳卒中による死亡も、コーヒー多飲群(特に女性)で少ないことが明らかとなりました。このような大規模な観察研究から、コーヒーは(明らかに)健康に良いことが示されていますが、多くは白人での成績です。多人種/多民族からなる集団[注2] で、健康—全死亡と疾患別死亡—に及ぼすコーヒーの影響について、185,855人を平均16.2年追跡調査した報告があります  [Ref. 1] 。コーヒーを多く飲む群(1日2-3杯以上)では、全死亡は約2割減少していました[注3] 。コーヒー飲用に伴う全死亡の減少は、通常のコーヒーでもカフェインレスコーヒーでも同様でしたので、コーヒーの良い作用はカフェインによるものではありません。人種間での差もありませんでした。この研究でも、脳卒中による死亡はコーヒーと関連して減少していました。これまたランダム化比較試験はまず不可能 [注4] ですが、コーヒーは(明らかに)健康に良い(ようです)

 

以上のように観察研究とはいえ、コーヒーが健康に(多分、脳の健康にも)良いことは確定的な状況と言ってよいでしょう。一方、コーヒーが認知症に及ぼす効果についての研究は多くありません。米国と欧州と日本からの8つの研究をまとめたメタアナリシスでは、認知症もしくはアルツハイマー病とコーヒー消費量との間に相関はありませんでした[Ref. 3] 。心血管系疾患や死亡率に対してコーヒーが良い効果を及ぼしていることと比べて、認知症との関連がないことは少し意外な感じがします。

 

注1:コックス比例ハザードモデル—体格指数、身体活動度、喫煙、教育、閉経、飲酒、カロリー摂取量、赤身もしくは加工した肉の摂取量、果物と野菜の摂取量を共変量として調整しています。ハザード比は、男性で0.88、女性で0.93でした。

注2:運転免許証や選挙人登録、医療福祉関連のリストより参加者を募り、日系アメリカ人(51%)、白人(47%)、ハワイ原住民(42%)、アフリカ系アメリカ人(26%)、ラテン系(21%)からなる集団 —( )内は募集に対しての応答率。

注3:コックス比例ハザードモデル—喫煙、体格指数、教育、身体活動度、飲酒、総カロリー摂取量、脂肪からのカロリー摂取量、追跡開始時点での合併疾患を共変量として調整。

注4:コーヒーの科学(旦部幸博、ブルーバックス)の中で述べられているように、コーヒー好きのヒトがこれから3年間毎日コーヒーを3杯飲みなさいという指示に従うことは容易でしょうけど、ランダム化比較試験のために飲んではいけないなど耐えられないでしょう。

Ref. 1: Gunter MJ, Murphy N, Cross AJ, Dossus L, Dartois L, Fagherazzi G, Kaaks R, Kühn T, Boeing H, Aleksandrova K, Tjønneland A, Olsen A, Overvad K, Larsen SC, Redondo Cornejo ML, Agudo A, Sánchez Pérez MJ, Altzibar JM, Navarro C, Ardanaz E, Khaw KT, Butterworth A, Bradbury KE, Trichopoulou A, Lagiou P, Trichopoulos D, Palli D, Grioni S, Vineis P, Panico S, Tumino R, Bueno-de-Mesquita B, Siersema P, Leenders M, Beulens JWJ, Uiterwaal CU, Wallström P, Nilsson LM, Landberg R, Weiderpass E, Skeie G, Braaten T, Brennan P, Licaj I, Muller DC, Sinha R, Wareham N, Riboli E. Coffee Drinking and Mortality in 10 European Countries: A Multinational Cohort Study. Ann Intern Med2017;167:236-247.

Ref. 2: Park SY, Freedman ND, Haiman CA, Le Marchand L, Wilkens LR, Setiawan VW.Association of Coffee Consumption With Total and Cause-Specific Mortality Among Nonwhite Populations. Ann Intern Med2017;167:228-235.

Ref. 3: Larsson SC, Orsini N. Coffee Consumption and Risk of Dementia and Alzheimer's Disease: A Dose-Response Meta-Analysis of Prospective Studies. Nutrients2018;10:1501. 

トマトが脳卒中を減らす?

リコピンはトマトに多く含まれるカロテノイドで、強力な抗酸化作用[注1] を持っています。この抗酸化作用のためリコピン動脈硬化や心血管系疾患を予防すると考えられています。比較的最近、フィンランドリコピンなどの抗酸化物質の血中濃度脳卒中リスクとの関連について、45〜65歳の男性1,031人を中央値で12.1年追跡して検討されています[Ref. 1] 。検査前3日間は飲酒をせず、12時間は喫煙しないよう指示され、30分間の安静臥位の後採血をして、血清リコピンなどを測定しています。結果は、血清リコピン濃度が最も高い群(4分位)では最も低い群と比べて脳梗塞のリスクを59%減少(ハザード比0.41)させていました[注2] 。有意差があったのは最も高い群と最も低い群の間のみでしたが、よくみてみると血清リコピン濃度が最も低い群のみが他の3群と比べて際立って脳卒中発症が多いという結果でした。アルファカロテンやベータカロテン、アルファトコフェノール、レチノールの血中濃度脳卒中のリスクには関連がありませんでした。この報告を含む7つの研究のメタアナリシスでもリコピン脳卒中のリスクを(特に男性において)有意に低下させていました[Ref. 2] 。食事からのリコピンよりもリコピン血中濃度の方が脳卒中リスクと関連がありましたが、これは食事に関する質問票では正確にリコピン摂取量を算出できていないという問題があるのかもしれません。いずれにせよトマトを多く食べると(トマトをあまり食べない男性のトマト摂取量が増えると)脳卒中リスクを減らすことができるようです[注3] 。

 

注1:リコピンには活性酸素(一重項酸素)を消去する作用があり、リコピンの抗酸化作用はアルファトコフェノールの10倍以上、ベータカロテンの倍以上と言われています。

注2:コックス比例ハザードモデルを用いて、年齢・検査した年・体格指数・収縮期血圧・喫煙・LDLコレステロール・糖尿病・脳卒中の既往により多変量調整した結果です。

注3:もちろんトマト以外の果物にもリコピンを多く含むものがあるので、他の果物の評価も必要です。またトマトの調理法によってもリコピンの量や活性が変化することなどにも注意すべきでしょう。

Ref. 1: Karppi J, Laukkanen JA, Sivenius J, Ronkainen K, Kurl S. Serum lycopene decreases the risk of stroke in men: a population-based follow-up study. Neurology2012;79:1540-1547. 

Ref. 2: Li X, Xu J. Dietary and circulating lycopene and stroke risk: a meta-analysis of prospective studies. Sci Rep 2014;4:5031.

脳卒中にならない食事

脳卒中予防のための食事に関する時宜を得た論評がStroke誌2017年10月号に出ています[Ref. 1] 。13の観察研究と1つのランダム化比較試験のメタアナリシスの結果から地中海食に準じた食事によって脳卒中発症のリスクが約30%減少することが示されました。果物や野菜の摂取量が1日200 g増加するごとに脳卒中のリスクが16%減少していました。ポテトは主にデンプンを含み、血糖をかなり上昇させますが、脳卒中リスクとは有意な相関はありませんでした。炭水化物の総摂取量と脳卒中リスクも相関はありませんでしたが、血糖指数(血糖上昇速度)が高い食物は高い脳卒中リスクと相関がありました。地中海食へのナッツの補充は脳卒中リスクを46%軽減したのは前述したとおりですが、11の観察研究では高摂取群と低摂取群との比較で差が出るものの、1単位増えるごとのリスク軽減は有意差には至りませんでした。豆の摂取量と脳卒中リスクもどっちつかずでした。地中海食へのオリーブオイルの補充が有益効果を示したのも前述したとおりですが、これとギリシャとフランスで行われた研究を加えたメタアナリシスでは、オリーブオイルが1日25 g増加するごとに脳卒中のリスクは24%減少していました。乳製品に関して、牛乳の摂取量が多いと、アジアでは脳卒中のリスクが軽減していましたが、欧米ではそうではありませんでした。チーズやヨーグルト、バターなどは脳卒中リスクと有意な相関はありませんでした。週に2単位魚の摂取量が多いと脳卒中のリスクは4%減少しますが、魚の脂であるオメガ3脂肪酸の補充によって脳卒中リスクを軽減することはできませんでした。はタンパクや必須脂肪酸、微量栄養素が豊富ですが、コレステロールも多い(1個につき約200 mg)ことから心血管系疾患を引き起こすのではと非難されていましたが、今日では1日1個までの卵は脳卒中とは無関係とされています。ベーコンやハム、ソーセージなどの加工肉には塩分や亜硝酸塩が多く、脳卒中のリスクを13%上昇させます。また、加工してなくても赤みの肉脳卒中のリスクを11%上昇させます。砂糖で甘くした飲料や人工甘味料入り飲料でも脳卒中リスクを上げることが示唆されています。一方、(もちろん観察研究のみですが)1日3-4杯のコーヒーや1日3杯の紅茶脳卒中のリスクを20%ほど減少させていました。コーヒーや飲酒、チョコレート、(乳製品やサプリと関連した)カルシウムと脳卒中の関係については別途詳しく見ていきたいと思います。

 

まとめると果物と野菜が多く、食塩と加工肉が少ない食事が最も脳卒中を予防すると言えそうです。地中海食に準じた食事の有益性もしばしば示されています。ただし「食事」の評価ですから、どうしてもほとんどの研究が観察研究であるため因果関係について確証は得られません。健康的な食事をしているヒトは身体活動度が高く、喫煙しないことが多く、適性体重を保っていることなどが十分考えられるからです。もちろん観察研究とは言っても適切に諸条件を多変量調節していますが、未知の因子や測定できなかった因子はどうしようもないからです。

 

Ref. 1: Larsson SC.Dietary Approaches for Stroke Prevention. Stroke2017;48:2905-2911. 

地中海食で脳の萎縮をくい止める

地中海食や同様の「健康に良い食事」が脳萎縮を軽減するという報告があります[Ref. 1-4] 。地中海食スコアにより評価した「地中海食」により灰白質も白質も容積が大きく、この効果は主として多い魚の摂取量と少ない肉の摂取量によるとした論文(断面調査)[Ref. 1] がある一方では、断面調査では「地中海食」と脳容積の関連をみとめず、3年間の間の脳萎縮が「地中海食」により抑制されたという報告があります(ただしこの報告では、多い魚の摂取量と少ない肉の摂取量と脳萎縮との関連はありませんでした)[Ref. 2] 。「地中海食」により前頭葉頭頂葉後頭葉と皮質厚平均の容積が大きく、豆類と魚は皮質容積を大きく、炭水化物と砂糖は小さい皮質容積と相関があったという報告もあります[Ref. 3] 。「健康的な食事」では脳萎縮が抑制されるとは言えそうですが、その「健康的な食事」のどの構成要素が脳にとって良いのか?「健康的な食事」が脳萎縮を抑制する機序がどのようなものなのかは不明と言わざるを得ないようです。オーストラリアでの研究では、「不健康な」西洋の食事、つまり飽和脂肪酸(肉に多い脂)と精製した炭水化物(糖質)が多い食事では海馬(左)の容積が減少していました[Ref. 4] 。同様な研究として次のようなものもあります。10,308人のコホートからランダムに選択した550人(最終解析は459人)について、半定量的食事質問票により食事の「健康度」を評価し、約11年後の海馬容積をMRIにより定量化しています[Ref. 5] 。食事スコアが1標準偏差「よくなる」毎に海馬容積は92.5 mm3増大していました。この傾向は特に左の海馬で顕著でした。この研究では、食事スコア内の各項目[注2] ではアルコール(が少ない食事)のみが海馬の容積増大と関連がありました。この結果は著者らの以前の論文[Ref. 6] とも一致するものでした。あまりにも当たり前な言い方ですが、「健康的な食事」は「脳の健康」に良いことを示しています。それでは魚の油(オメガ3不飽和脂肪酸)はどうでしょうか?米国で行われた2つの研究では、魚の摂取量と相関する赤血球中のオメガ3脂肪酸をはかってみると、オメガ3脂肪酸が低いと、脳全体や海馬が萎縮していました[Ref. 7, 8] 。魚は多く食べた方が脳に良いようです。しかしながら、アルツハイマー病の患者にオメガ3脂肪酸を補給しても効果はありませんでした[Ref. 9] 。病気の状態になってしまう前に補給しないと効果がないのかもしれません。

 

Ref.1: Gu Y, Brickman AM, Stern Y, Habeck CG, Razlighi QR, Luchsinger JA, Manly JJ, Schupf N, Mayeux R, Scarmeas N. Mediterranean diet and brain structure in a multiethnic elderly cohort.

Neurology2015;85:1744-1751. 

Ref.2: Luciano M, Corley J, Cox SR, Valdés Hernández MC, Craig LC, Dickie DA, Karama S, McNeill GM, Bastin ME, Wardlaw JM, Deary IJ. Mediterranean-type diet and brain structural change from 73 to 76 years in a Scottish cohort. Neurology2017;88:449-455.

Ref.3: Staubo SC, Aakre JA, Vemuri P, Syrjanen JA, Mielke MM, Geda YE, Kremers WK, Machulda MM, Knopman DS, Petersen RC, Jack CR Jr, Roberts RO. Mediterranean diet, micronutrients and macronutrients, and MRI measures of cortical thickness. Alzheimers Dement2017;13:168-177. 

Ref. 4: JackaFN, CherbuinN, Anstey KJ, Sachdev P, Butterworth P. Western diet is associated with a smaller hippocampus: a longitudinal investigation. BMC Med2015;13:215.

Ref. 5: Akbaraly T, Sexton C, Zsoldos E, Mahmood A, Filippini N, Kerleau C, Verdier JM, Virtanen M, Gabelle A, Ebmeier KP, Kivimaki M. Association of Long-Term Diet Quality with Hippocampal Volume: Longitudinal Cohort Study. Am J Med2018;131:1372-1381.e4.

Ref. 6: TopiwalaA, AllanCL, Valkanova V, Zsoldos E, Filippini N, Sexton C, Mahmood A, Fooks P, Singh-Manoux A, Mackay CE, Kivimäki M, Ebmeier KP. Moderate alcohol consumption as risk factor for adverse brain outcomes and cognitive decline: longitudinal cohort study. BMJ2017;357:j2353.

Ref. 7: Tan ZS, Harris WS, Beiser AS, Au R, Himali JJ, Debette S, Pikula A, Decarli C, Wolf PA, Vasan RS, Robins SJ, Seshadri S. Red blood cell ω-3 fatty acid levels and markers of accelerated brain aging. Neurology2012;78:658-664.

Ref. 8: Pottala JV, Yaffe K, Robinson JG, Espeland MA, Wallace R, Harris WS.Higher RBC EPA + DHA corresponds with larger total brain and hippocampal volumes: WHIMS-MRI study. Neurology2014;82:435-42.

Ref. 9: Yassine HN, Braskie MN, Mack WJ, Castor KJ, Fonteh AN, Schneider LS, Harrington MG, Chui HC. Association of Docosahexaenoic Acid Supplementation With Alzheimer DiseaseStage in Apolipoprotein E ε4 Carriers: A Review. JAMA Neurol2017;74:339-347.

偶然見つかる脳の微小出血

脳微小出血が実はかなり有害なものであると強調されてきたのは2009年ごろからではなかったかと記憶しています。それまでは高齢者の数パーセントに偶然見つかるどちらかというと無害なものとされていましたが、最近では認知機能低下にも強く関与することが示されています。脳微小出血はT2*というMRIの撮像条件で黒く丸くぬけて見えますが、その大きさは磁場の乱れた範囲の大きさであって、実際の微小出血の大きさではありません(他の一般的な撮像法では見えないことからも、T2*で見ているものが微小出血の実際の大きさではないことは明らかです)。脳微小出血の存在部位は、大脳皮質領域にみとめられる—アルツハイマー病やアミロイドアンギオパチーとの関連が強い—ものと、大脳深部や小脳/脳幹にみとめられる小血管病(動脈硬化)によるものとに大別されます。13,578人(解析対象とした55-75歳では8,595人、平均年齢66.7歳)の個別データを集積したメタアナリシスにおいて、脳微小出血の東洋と西洋での違いが検討されています[Ref. 1] 。東洋では西洋に比べて、大脳深部や小脳/脳幹の脳微小出血が多いことが示されました。この理由は不明ですが、東洋においては脳小血管病が脳微小出血との関連でより重要であることが示唆されました。久山町研究では、脳微小出血の頻度は平均年齢75歳の1,281例中240例(18.7%)とやや高い数字を示しています[Ref. 2] 。約5人に1人に脳微小出血があるという「やや衝撃的な」結果は同研究の受診者の年齢が高いことや、他の日本の研究には「健康な」脳ドック受診者が多く含まれていることが関係ありそうです。部位別では他の東洋からの報告と同じく、やはり大脳深部や小脳/脳幹の脳微小出血が多いことが示されています。大脳深部や小脳/脳幹の脳微小出血のリスクファクターとしては年齢と高血圧コレステロールの低値が、一方、大脳皮質領域の微小出血には年齢と高血圧に加えてアポリポプロテインε4遺伝子型と男性が関連していました。アポリポプロテインε4遺伝子型は西洋で高頻度と言われていますので、西洋に大脳皮質領域の微小出血が多いことも理解できます。このように最近の精力的な脳MRI研究から「結構危ない」脳微小出血のこともよくわかってきています。

 

Ref. 1: Yakushiji Y, Wilson D, Ambler G, Charidimou A, Beiser A, van Buchem MA, DeCarli C, Ding D, Gudnason V, Hara H, Imaizumi T, Kohara K, Kwon HM, Launer LJ, Mok V, Phan T, Preis SR, Romero JR, Seshadri S, Srikanth V, Takashima Y, Tsushima Y, Wang Z, Wolf PA, Xiong Y, Yamaguchi S, Werring DJ. Distribution of cerebral microbleeds in the East and West: Individual participant meta-analysis. Neurology2019 Feb 1.

Ref. 2: Yubi T, Hata J, Ohara T, Mukai N, Hirakawa Y, Yoshida D, Gotoh S, Hirabayashi N, Furuta Y, Ago T, Kitazono T, Kiyohara Y, Ninomiya T. Prevalence of and risk factors for cerebral microbleeds in a general Japanese elderly community. Neurol Clin Pract2018;8:223-231.

高血圧がアルツハイマー病の原因?

高血圧の治療をランダム化すると、対照群(未治療群)で必ず脳卒中が増加するのでランダム化比較試験は承認されません。ランダム化比較試験ができない状況下では高血圧が認知症の原因となるかどうかを明らかにすることはできません[Ref. 1] 。ここで古典的なSyst-Eur Study [Ref. 2, 3]をあらためて見ておきたいと思います。当時は収縮期血圧のみが高い高血圧(収縮期血圧≧160、拡張期血圧<95)が本当に有害なのかよくわかっていなかったので、ランダム化比較試験が開始されました。やはりというか、今日の感覚からすると当然のことですが、対照群に有害事象(脳卒中)が多いことが明らかとなり、この試験は早期に中止されました。この試験では同時に認知症発症についても検討しており、試験中止後も(対照群にも降圧薬を投与して)経過観察が行われました。その結果認知症発症は降圧治療群において対照群(プラシボーから降圧治療へ)と比較して、55%も減少しており、認知症の病型別にみると特にアルツハイマー認知症の減少が顕著でした。この研究はランダム化比較試験なので、エビデンスとしては強力です。高血圧はアルツハイマー病の原因なのでしょうか?この疑問に対しての論評が出されています[Ref. 4] 。アルツハイマー病が血管病ではないかという意見に対して、アルツハイマー病は血管支配領域に沿って進行するものではないことは明らかで、おそらく高血圧により引き起こされ並存することとなった脳血管障害(潜在性脳梗塞や白質病変[注1] )により潜在的アルツハイマー病(病変)が臨床的にアルツハイマー病(認知症)として顕在化すると考えた方が合理的ではないかということです。

 

注1:Syst-Eur Study当時は、血管障害と変性疾患の鑑別のための画像診断にはCTが用いられており、CTで正確な評価ができるとは思えません。さらにCTができないときはハッチンスキーの虚血スコアにより判断している(つまり潜在性脳梗塞による認知機能低下を想定していない)。認知機能低下のスクリーニング検査としては、悪名高き(感受性の低い)ミニメンタルテスト(23点をカットオフ)が用いられているのも問題でしょう。

Ref. 1: Walker KA, Power MC, Gottesman RF. Defining the Relationship Between Hypertension, Cognitive Decline, and Dementia: a Review. Curr Hypertens Rep 2017;19:24.

Ref. 2: Forette F, Seux ML, Staessen JA, Thijs L, Birkenhäger WH, Babarskiene MR, Babeanu S, Bossini A, Gil-Extremera B, Girerd X, Laks T, Lilov E, Moisseyev V, Tuomilehto J, Vanhanen H, Webster J, Yodfat Y, Fagard R. Prevention of dementia in randomised double-blind placebo-controlled Systolic Hypertension in Europe (Syst-Eur) trial. Lancet1998;352:1347-1351.

Ref. 3: Forette F, Seux ML, Staessen JA, Thijs L, Babarskiene MR, Babeanu S, Bossini A, Fagard R, Gil-Extremera B, Laks T, Kobalava Z, Sarti C, Tuomilehto J, Vanhanen H, Webster J, Yodfat Y, Birkenhäger WH; Systolic Hypertension in EuropeInvestigators. The prevention of dementia with antihypertensive treatment: new evidence from the Systolic Hypertension in Europe (Syst-Eur) study. Arch Intern Med2002;162:2046-2052. 

Ref. 4: Román GC, Royall DR. A diagnostic dilemma: is "Alzheimer's dementia" Alzheimer's disease, vascular dementia, or both?Lancet Neurol 2004;3:141.

なぜ統計学が最強の学問なのか?

なぜ統計学が最強の学問であるのか?西内さんの本[注1] から盛大に引用します。その理由は、「人間の制御しうる何物についても、その因果関係[注2] を分析できるから」であり、この統計学の汎用性は、どのようなことの因果関係も科学的に検証可能なランダム化比較試験(=実験)によって支えられています。ランダム=無作為とは、「意図的に手を加えることなく、偶然にまかせること」(広辞苑)であり、十分にランダム化してしまえば、検定したい1因子以外の因子(背景因子)は群間で同じとなります。適切にランダム化された比較試験によって「ある結果」がえられたときは、そのえられた結果の原因は「その1因子」以外ありえないということです(その他の因子は全て同じだから)。現実問題として(倫理的な問題などから)実行不可能であることも少なくありませんが、ランダム化比較試験は強力で、したがって統計学は最強の学問と言ってよいのです。

 

しかしながら倫理的問題以外にも問題はあります。例えば、多数例の解析や長期間の追跡調査では欠損値は避けがたいとも言えます。臨床研究(特にランダム化比較試験)における欠損値の取り扱いについて解説した記事—欠損値解析計画から欠損したものは何? [Ref. 1]—があります。Intention-to-treatの原則により、一旦ランダム化された全ての対象は—プロトコールが遵守されたか否かにかかわらず—解析から除外してはいけません。つまり欠損値となった症例も解析に加えなくてはいけないし、除外すると検出力が低下し、(より重篤な問題として)結果にバイアスを生じることとなります。なぜ欠損値が出るのでしょうか?攻撃は最大の防御—欠損値を処理する最も良い方法は欠損値を出さないことでしょう。次のようなことも考えておかなくてはなりません。(1)どれくらいの頻度で欠損値が出たら、結果に影響を及ぼすのでしょうか?一般的に研究者は5%と20%の間を想定しています。(2)欠損値を処理(補完=imputation)するための統計手法としては、single imputationよりもmultiple imputationの方が好まれでいて、ロジスティック回帰が用いられたりします。ここで大事なのは欠損値が生じる機序であって、完全にランダムに生じるのか、比較的ランダムに生じるのか、それともランダムに生じるのではないのかです。ランダムでなく生じた欠損値にもmultiple imputationは適応可能ですが、その欠損値が生じる機序について十分に認識しておくことが重要です。(3)さらに、全ての状況がルーチンで処理できるわけではないので、様々な仮説を設定してsensitivity analysisをやってみるべきでしょうとこの記事は教えてくれています。

 

それではランダム化比較試験ができないときは、どうしたらいいのでしょうか。ランダム化を困難にする3つの壁—現実」の壁、「倫理」の壁、「感情」の壁—があります[注1] 。科学は観察と実験からなるのですから、実験ができないときは観察するしかありません。そのための手法が、重回帰分析やロジスティック回帰分析などの多変量解析ということになります。複数の原因と想定される因子の中である因子(説明変数)が独立して(いるから独立変数なのです)、従属変数(結果)と相関することを多変量解析は示してくれます。因果関係[注2] について「決定的」なことは言えないとしても、十分に共変量について考慮した多変量解析から得られた結論はエビデンスとしてして「十分に強力」とみなして良いのではないでしょうか。

 

ただ因果関係を追い求めるあまりに、大事なことを忘れていないでしょうか?強力なランダム化比較試験によって(もしくはランダム化比較試験のメタアナリシスによって)「絶対間違いない」結論が得られたとしても、医学的に意味不明なものが将来的に世紀の新発見となることは少ないでしょう(無いとは言えませんが----)。何を忘れているのでしょうか?それは多くの因子間にある(単純であってほしいけど)複雑な関係性結果に至るまでの機序ではないでしょうか。ゆっくり寝た後の休日の朝早く、多変量間の関係性を想像して、図に書いてみると「なんだそうだったんだ」とか「なんで気づかなかったのだろう」ということがあるかもしれません。こんなやり方は非効率で贅沢でしょうか?

 

注1:統計学が最強の学問である (西内啓、ダイヤモンド社

注2:因果関係とは、ある原因によってどのように結果が変わるか—ということ。すなわちある原因(説明変数、独立変数)によりある結果(アウトカム[成果指標]、従属変数)がもたらされることを因果関係という。

Ref. 1: Yeatts SD, Martin RH. What is missing from my missing data plan? Stroke2015;46:e130-132.