アルツハイマー病のバイオマーカーとしての脳アミロイド沈着

アルツハイマー病の確立されたバイオマーカーである「脳アミロイド沈着」を、アミロイドPETを用いて検出できる時代になった [注1] 。

 

複数回アミロイドPET(初回から最後まで1.3年 [中央値])を検査した260例(認知機能正常205例、軽度認知機能障害/アルツハイマー病55例)について、アミロイド沈着の経年変化—時間経過を横軸、アミロイド沈着を縦軸の—S字曲線を算出した報告がある [Ref. 1] 。このS字曲線の開始時にはアミロイド沈着はゆるやかで、中央付近で最大速度となり、やがて減速して高止まりとなる(この過程に約15年を要するということ)。このようにアルツハイマー病は長い時間をかけて進行するとして、治療的介入ができる可能性は高いと考えるべきなのだろうか。

 

知らないうちに脳にアミロイドがたまり始めるのか—15年も前から!

 

注1:ピッツバーグ化合物Bを用いたアミロイドPETによりヒトの脳内アミロイド沈着が検出できるようになった。上記研究論文の著者 [Ref. 1、2] によると、アミロイドPET論文初出は2004年である。

 

Ref. 1: Jack CR Jr, Wiste HJ, Lesnick TG, Weigand SD, Knopman DS, Vemuri P, Pankratz VS,Senjem ML, Gunter JL, Mielke MM, Lowe VJ, Boeve BF, Petersen RC. Brain β-amyloid load approaches a plateau. Neurology 2013;80:890-896.

 

Ref. 2:Jack CR Jr, Lowe VJ, Senjem ML, Weigand SD, Kemp BJ, Shiung MM, Knopman DS, Boeve BF, Klunk WE, Mathis CA, Petersen RC. 11C PiB and structural MRI provide complementary information in imaging of Alzheimer's disease and amnestic mild cognitive impairment. Brain 2008;131:665-680. 

血管性認知症もしくはビンスワンガー病について

CTと比べるとMRIでは大脳白質病変ははるかに明瞭に描出できるようになった。大脳白質病変があると認知機能が障害され、広汎な白質病変を特徴とする血管性認知症はビンスワンガー病と呼ばれている [注1] 。

 

ビンスワンガー病の特徴は—広汎な白質病変に加えて—脳深部の小梗塞を伴うことである。そのような小梗塞(ラクナ梗塞)を有する患者の脳循環動態についてポジトロンCTを用いて検討した報告がある [Ref. 1] 。深部白質病変が中等度以上の群(9例、おおよそビンスワンガー病に近い)では、軽度以下の群(9例)と比較して、脳血流がまず減少し、酸素抽出率は上昇するも、酸素代謝もやや減少していた。このような脳循環代謝の異常は血行力学的に脆弱な半卵円中心部にみとめられた。長期間持続した高血圧があると、主要な血管支配領域の「はざま」で脳循環が障害されやすく(貧困灌流と称されている)、まさにその部位で「虚血性」白質病変を生じるのであろう。

 

ビンスワンガー病—(ある程度以上の)白質病変+ラクナ梗塞—が血管性認知症の基本型である。

 

注1:ビンスワンガー病とは、広汎な白質病変を伴う血管性認知症の1つの型である。以下のような診断基準が示されている。

ビンスワンガー病の診断基準

1. 認知症が臨床的に確実であり、神経心理検査により確認されている。

2. 以下の3項目のうち2つ以上が存在すること。

A) 血管危険因子の存在もしくは血管病が存在する証拠

(たとえば高血圧、糖尿病、心筋梗塞の既往、不整脈心不全

B) 脳血管障害の証拠

(たとえば脳卒中の既往、局所錐体路徴候や感覚障害)

C) “皮質下” 脳機能障害の証拠

(たとえばパーキンソン病様、“老人性” の歩行や筋硬直、痙性膀胱による尿失禁)

3. 画像診断上、CT上両側性の白質粗鬆化があり、もしくはMRI上2×2 mm以上の大きさの両側性、多発性、びまん性の皮質下高信号病変をT2強調画像で認める。

以上の基準は以下の項目があると無効である。

1. CTやMRIで多発性もしくは両側性の皮質病変

2. 高度の認知症(たとえばミニメンタルテストで10点未満)

 

Bennett DA, Wilson RS, Gilley DW, Fox JH. Clinical diagnosis of Binswanger's disease. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1990;53:961-965.

 

Ref. 1:Nezu T, Yokota C, Uehara T, Yamauchi M, Fukushima K, Toyoda K, Matsumoto M, Iida H, Minematsu K. Preserved acetazolamide reactivity in lacunar patients with severe white-matter lesions: 15O-labeled gas and H2O positron emission tomography studies. J Cereb Blood Flow Metab 2012;32:844-850.

 

動かないからボケるのか、ボケたから動かないのか?

身体活動度が高い(からだをよく動かす)ことは認知症を予防すると考えられている。しかしながら逆に、認知症になった(なりかけた)状態だからこそ、からだを動かさないのかもしれない。

 

35歳から55歳までの一般住民10,308人を28年間追跡し、身体活動度と認知症発症の関連をみた研究がある [Ref. 1] 。最終的に認知症となった群とならなかった群に分けて、28年間の身体活動度(量)の軌跡を比べてみると、認知症群では発症の9年前から身体活動度が低下してきていた(認知症にならなかった群との比較)。追跡期間を通しての身体活動度平均値と認知症発症には関連がなかったので、著者らは「潜在的認知症になりかかった状態(原因)で身体活動が低下している(結果)」のではないかと推察している。

 

そうではなくて「動かない」と人は意外と速く病む(ボケる)というだけの話—ではないのか?!

 

Ref. 1:Sabia S, Dugravot A, Dartigues JF, Abell J, Elbaz A, Kivimäki M, Singh-Manoux A. Physical activity, cognitive decline, and risk of dementia: 28 year follow-up of Whitehall II cohort study. BMJ 2017;357:j2709

最近評判の良い地中海食

地中海食とは、オリーブオイル・果物・ナッツ・野菜・穀類を多量に、魚・鶏肉を比較的多く、乳製品・赤みの肉・加工した肉・甘いものを少なくし、料理と一緒に適量のワインを摂取する食事である。

 

糖尿病もしくは少なくとも3つの危険因子をもつ7447名(55歳から80歳、57%が女性)をランダム化し、中央値で4.8年追跡した研究がある [Ref. 1] 。エクストラバージンオリーブオイル(1週間で約1リットル)もしくはミックスナッツを毎日30グラム(くるみ15グラム、ヘーゼルナッツ7.5グラム、アーモンド7.5グラム)のいずれかの介入を行ない、その効果が検証された。多変量調節ハザード比と95%信頼区間は、オリーブオイル群で0.70(0.54-0.92)、ナッツ群で0.72(0.54-0.96)と、ともに有害事象(脳卒中心筋梗塞、死亡のいずれか)を3割ほど減少させた。この研究では、地中海食は特に脳卒中予防に効果があった。

 

地中海食は「脳を健康にする」ようだが、認知症にはどうだろうか?

 

Ref. 1:Estruch R, Ros E, Salas-Salvadó J, Covas MI, Corella D, Arós F, Gómez-Gracia E, Ruiz-Gutiérrez V, Fiol M, Lapetra J, Lamuela-Raventos RM, Serra-Majem L, Pintó X, Basora J, Muñoz MA, Sorlí JV, Martínez JA, Martínez-González MA; PREDIMED Study Investigators. Primary prevention of cardiovascular disease with a Mediterranean diet. N Engl J Med 2013;368:1279-1290

 

高血圧と脳

年齢とともに高血圧の頻度は増加する。55歳と65歳で正常血圧のひとの生涯高血圧発症リスクは90%である (10人中9人は高血圧となる!)[Ref. 1] 。一方では、70歳から85歳までの15年間に認知症を発症した群の血圧は、追跡開始時には高く、認知症発症後には低下してくるとの報告もある [Ref. 2] 。

 

1909年〜1935年生まれの一般住民4,057例を追跡し、中年期(平均50歳)と老年期(平均76歳)の血圧と脳MRI所見との関連について解析した研究がある [Ref. 3] 。老年期に血圧が高値であると—特に中年期に高血圧でなかったものにおいて—脳小血管病(白質病変や脳微小出血)が多かった。一方、中年期に高血圧があって、老年期に血圧が下がっていたものでは脳容積が小さかった(脳が萎縮している)。高血圧が脳に及ぼす影響は人生の時期により異なっている。

 

年をとると高血圧となり、血圧が下がったら下がったで、認知症になる!(なっている?)

 

Ref. 1: Vasan RS, Beiser A, Seshadri S, Larson MG, Kannel WB, D'Agostino RB, Levy D. Residual lifetime risk for developing hypertension in middle-aged women and men: The Framingham Heart Study. JAMA 2002;287:1003-1010

 

Ref. 2: Skoog I, Lernfelt B, Landahl S, Palmertz B, Andreasson LA, Nilsson L, Persson G, Odén A, Svanborg A. 15-year longitudinal study of blood pressure and dementia. Lancet 1996;347:1141-1145

 

Ref. 3: Muller M, Sigurdsson S, Kjartansson O, Aspelund T, Lopez OL, Jonnson PV, Harris TB, van Buchem M, Gudnason V, Launer LJ; Age, Gene/Environment Susceptibility-Reykjavik Study Investigators. Joint effect of mid- and late-life blood pressure on the brain: the AGES-Reykjavik study. Neurology 2014;82:2187-2195

減塩後進国 日本

2015年より食塩の摂取目標値が引き下げられ、1日あたり男性8 g、女性7 gと厳しくなった。高血圧患者は、食塩摂取を6 g/日未満とするように指導されている。しかしながら24時間蓄尿による調査では、日本人の塩分摂取量は1日あたり男性14 g、女性11.8 gという結果もあり、日本は「減塩後進国」というしかない [注1] 。

 

17カ国101,945人の早朝空腹時の尿からナトリウムとカリウムの24時間排出量を算出し、平均3.7年追跡した結果が報告されている [Ref. 1] 。予想通りというか、やはりナトリウム高排出群(食塩摂取過剰)では、死亡と心血管系疾患の発症が多かった(オッズ比と95%信頼区間は、1.15 [1.02-1.30])。ナトリウム高排出と死亡/心血管系疾患増加の関連は高血圧患者において顕著であった。ところが、意外なことにナトリウム低排出群でも死亡と心血管系疾患の発症が多かった。これは「食塩制限が必要な病気のために治療や指導により食塩摂取をひかえていて、またそのような病気があるから心血管系疾患を発症しやすい」など、原因と結果が逆になっているのかもしれない(観察研究の限界とも言える)。

 

つい最近まで人類の食塩摂取量は1日あたり2g以下だったのに![注2]

 

注1:道は険しい? ”減塩社会” への挑戦(クローズアップ現代 No.3546 2014年9月4日放送)

 

注2:約1万年前に農耕が始まったが、それ以前の旧石器時代—狩猟と採集の時代—の食塩摂取量は約1.7 g/日であると試算されている。

Eaton SB, Konner M. Paleolithic nutrition. A consideration of its nature and current implications. N Engl J Med 1985;312:283-289

 

Ref. 1O'Donnell M, Mente A, Rangarajan S, McQueen MJ, Wang X, Liu L, Yan H, Lee SF, Mony P, Devanath A, Rosengren A, Lopez-Jaramillo P, Diaz R, Avezum A, Lanas F, Yusoff K, Iqbal R, Ilow R, Mohammadifard N, Gulec S, Yusufali AH, Kruger L, Yusuf R, Chifamba J, Kabali C, Dagenais G, Lear SA, Teo K, Yusuf S; PURE Investigators. Urinary sodium and potassium excretion, mortality, and cardiovascular events. N Engl J Med 2014;371:612-623

 

なぜ、教育に実験が必要なのか?

教育と認知症について、69もの観察研究をまとめたメタアナリシスがある [Ref. 1] 。これによると教育歴が低いと認知症は増加する(オッズ比と95%信頼区間は、認知症の頻度に対して2.61 [2.21-3.07]、発症率に対して1.88 [1.51-2.34])。明らかに教育には認知症の予防効果がある(らしい)。

 

教育の効果をきちんと検証するには、ランダム化比較試験が必要となる [注1] 。ランダム=無作為とは、「意図的に手を加えることなく偶然にまかせる」ことであり、ランダム化により「検定したいある因子」以外のすべての因子は群間で同じとなる。したがってランダム化比較試験により群間に有意差が出た場合、その結果をもたらした原因は「特定のその因子」であると結論することができる。このようなランダム化比較試験という「実験」を駆使して、教育経済学は「どういう教育が成功する子供を育てるのか」という強力なエビデンスを示すことができる。

 

ランダム化比較「実験」をやってみよう!(もちろん倫理委員会審査は必須)

 

Ref. 1:Meng X, D'Arcy C. Education and dementia in the context of the cognitive reserve hypothesis: a systematic review with meta-analyses and qualitative analyses. PLoS One 2012;7:e38268

 

注1:「学力」の経済学(中室牧子、デイスカバー・トウエンテイワン)