メタボリックシンドロームと炎症と動脈硬化

心血管系疾患の古典的危険因子に加えて、メタボリックシンドロームが比較的最近になって血管危険因子として注目されています。さらに軽度の炎症所見としての高感度C-reactive protein(CRP)は新たな血管危険因子としてもっとも有望なものの一つと目されています。また高感度CRP中性脂肪の増加やHDLコレステロールの減少、中心性肥満、血圧上昇、空腹時血糖の増加と関連があり、すなわち炎症とメタボリックシンドロームの関連が示唆されています。高感度CRPメタボリックシンドロームの関連が非常に密接であることから、高感度CRP増加をメタボリックシンドロームの診断基準の一つに加えてはどうかという主張もあります[Ref. 1] 。メタボリックシンドロームと炎症を結ぶ機序としては、脂肪細胞から分泌されるアデイポカインの関与が示唆されています[Ref. 2] 。メタボリックシンドロームではレプチンの増加、アデイポネクチンの減少、interleukin-6(IL-6)やtumor necrosis factor-α(TNF-α)などの炎症を引き起こすサイトカインの増加が報告されています。逆に炎症を抑制するIL-1βはメタボリックシンドロームで減少し、NADPH oxidaseによる酸化ストレスを増強する可能性がありますが、その機序の詳細に関しては不明な点も多いようです。

 

Ref. 1: Ridker PM, Wilson PW, Grundy SM. Should C-reactive protein be added to metabolic syndrome and to assessment of global cardiovascular risk? Circulation2004;109:2818-2825.

Ref. 2: Srikanthan K, Feyh A, Visweshwar H, Shapiro JI, Sodhi K. Systematic Review of Metabolic Syndrome Biomarkers: A Panel for Early Detection, Management, and Risk Stratification in the West Virginian Population. Int J Med Sci2016;13:25-38.

睡眠障害と認知症

ぐっすり眠ることが大事なことは直感的に理解できます。睡眠不足は生活の質をそこない、肥満や高血圧、心血管系疾患など生活習慣病になりやすくします。最高の睡眠にとってもっとも重要なことは「最初の90分」をしっかり深く眠ることがです。「最初の90分」をしっかり深く眠ることで、良質の睡眠をえることができます[注1] 。睡眠は量(=睡眠時間)よりも質が大事であると考えられています(7-8時間は寝たほうがいいと思いますが----)。もう一つ大事なことは、質の良い睡眠の日内リズムを得るためには寝る時間よりも起きる時間を決めた方が良いということです。起床する時間を決めて、起きたら朝日を浴びて、そこから1日をスタートさせて日内リズムを作ってしまうのです。日内リズムを乱さないためにも昼寝は20分以内にした方が良いと言われています。

 

2日間徹夜すると「注意力」や「集中力」は急激に低下します。6時間くらい眠れば大丈夫だと思っていても、「6時間睡眠を2週間続けた脳は、2晩徹夜したのとほぼ同じ状態」であるといいます。わずかな睡眠不足が、まるで借金のようにじわじわ積み重なる「睡眠負債」は無視できない健康被害をもたらします[注2] 。

 

一般住民1517名を約10年追跡し、睡眠時間と認知症発症との関連を見た成績があります(久山町研究)[Ref. 1] 。追跡期間中に294人が認知症を発症しました。睡眠時間が5時間未満と10時間以上で認知症の発症率と死亡率が増加するU字型の関係がありました。アルツハイマー病と血管性認知症に分けて見ても同様にU字型の関係を示していました。また、睡眠薬を服用していたヒトでも認知症発症率と死亡率が高くなっていました。睡眠と認知機能との関連では、一般住民740名(平均年齢75歳、613名[82.8%] は認知機能正常)について調査し、3年間追跡した報告があります[Ref. 2] 。睡眠時間に加えて「寝つきが悪いか?」「夜中に目がさめるか?」「(睡眠障害のため)昼間眠たいか?」などについて質問しています。教育歴で補正した認知機能検査の点数低下と関連していたのは、認知機能正常者で「夜中に目がさめる」という項目でした。単に睡眠時間だけの問題ではなく、睡眠の質が悪いと認知症になりやすいのでしょうか?

 

“財産は睡眠中に創られる” “苦労は夢とともに消える” [注3]

 

注1:「スタンフォード式 最高の睡眠」(西野精治著、サンマーク出版)は、科学的根拠にもとづいて、より良く眠る方法について書かれています。

注2:どうすれば返済? コワ〜イ睡眠負債NHKあさイチ 2017年9月4日放送)

注3:夏への扉ロバート・A・ハインライン、福島正美[訳]、ハヤカワ文庫)

Ref. 1: Ohara T, Honda T, Hata J, Yoshida D, Mukai N, Hirakawa Y, Shibata M, Kishimoto H, Kitazono T, Kanba S, Ninomiya T. Association Between Daily Sleep Duration and Risk of Dementia and Mortality in a Japanese Community. J Am Geriatr Soc2018;66:1911-1918.

Ref. 2: Johar H, Kawan R, Emeny RT, Ladwig KH. Impaired Sleep Predicts Cognitive Decline in Old People: Findings from the Prospective KORA Age Study. Sleep2016;39:217-226.

 

 

 

地中海食は脳卒中を予防する—観察研究

英国で行われた観察研究でも地中海食の脳卒中予防効果がみとめられています。40歳から79歳までの一般住民23,232人を17.0年間追跡し、地中海食スコア[注1] と脳卒中発症の関連をコックス比例ハザードモデル[注2] により解析しています。その結果、地中海食スコアが高い群では脳卒中のリスクが低下していました。地中海食スコア高得点では低得点(4分位)に対して、モデル3でのハザード比は0.83(95%信頼区間0.74-0.94)でした。この地中海食の脳卒中予防効果は女性にのみ有意にみられました。

 

注1:地中海食で「保護的」な項目—果物、ナッツ、野菜、豆類、シリアル、魚、不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸比—を男女別の中央値以上摂取している場合には1点を、乳製品・肉・卵は少ない場合に1点を加算しています。アルコールに関しては女性で4.4-21.9単位/週、男性で8.8-43.7単位/週の範囲内の場合のみに1点とします。高得点なほど「地中海食的」として点数化しています。

注2:多変量調節のための全共変量(モデル3)は、性別・年齢・体格指数・教育歴・身体活動度・喫煙・物を持ってない指標・摂取カロリー・飲酒・総コレステロール・追跡開始時の心筋梗塞や糖尿病・脳卒中心筋梗塞の家族歴・収縮期血圧・降圧薬・3ヶ月以上のアスピリン服用です。

Ref. 1: PatersonKE, Myint PK, Jennings A, Bain LKM, Lentjes MAH, Khaw K-T, Welch AA.Mediterranean Diet Reduces Risk of Incident Stroke in a Population With Varying Cardiovascular Disease Risk Profiles.Stroke2018;49:2415–2420, 

健康的な食事による海馬萎縮の防止

10,308人のコホートからランダムに選択した550人(最終解析は459人)について、半定量的食事質問票により食事の「健康度」を評価し、約11年後の海馬容積をMRIにより定量化しています[Ref. 1] 。食事スコアが1標準偏差「よくなる」毎に海馬容積は92.5 mm3(モデル3)増大していました。この傾向は特に左の海馬で顕著でした。この研究では、食事スコア内の各項目[注2] ではアルコール(が少ない食事)のみが海馬の容積増大と関連がありました。この結果は著者らの以前の論文[Ref. 2] とも一致するものでした。あまりにも当たり前な言い方ですが、「健康的な食事」は「脳の健康」に良いことを示しています。

 

注1:海馬容積と食事スコアとの相関は、年齢・性別・エネルギー摂取量(モデル1)、モデル1に加えて職業・身体活動度・喫煙・心臓関連代謝疾患(モデル2)、さらに認知機能障害やうつ症状(モデル3)により多変量調節している。

注2:食事スコアの各項目は、野菜・果物・全粒・ソーダやフルーツジュース・ナッツや豆・加工もしくは赤身の肉・トランス脂肪酸・長鎖ω3脂肪酸・多価不飽和脂肪酸・食塩・アルコールとなっています。

Ref. 1: Akbaraly T, Sexton C, Zsoldos E, Mahmood A, Filippini N, Kerleau C, Verdier JM, Virtanen M, Gabelle A, Ebmeier KP, Kivimaki M. Association of Long-Term Diet Quality with Hippocampal Volume: Longitudinal Cohort Study. Am J Med 2018 (in press).

Ref. 2: TopiwalaA, AllanCL, Valkanova V, Zsoldos E, Filippini N, Sexton C, Mahmood A, Fooks P, Singh-Manoux A, Mackay CE, Kivimäki M, Ebmeier KP. Moderate alcohol consumption as risk factor for adverse brain outcomes and cognitive decline: longitudinal cohort study. BMJ2017;357:j2353.

アミロイドβ抗体によるアルツハイマー病の治療

アミロイドはアルツハイマー病が発症するかなり前から脳内に沈着し始め、その後の病気進展のきっかけとなります。したがってアミロイドに対するモノクローナル抗体を投与して、脳内のアミロイドを除去すれば、アルツハイマー病の発症を抑えることができると考えられます。これまでに行われたいくつかの研究の結果がまとめられています[Ref. 1] が、アミロイドに対するモノクローナル抗体の有効性を示したものは残念ながらありませんでした(現在進行中の研究もいくつかあります)。アミロイドに対するモノクローナル抗体の副作用としての脳浮腫の問題や、そもそもこの抗体が脳内に移行するのかという疑問(およそ0.1%しか血液脳関門を通過しない)、アルツハイマー病が発症する前(より早く)に投与しなくては効果がないのではなどなど、現時点では解決されてない課題もあります。アミロイドに対するモノクローナル抗体によるアルツハイマー病の治療は今のところ期待はずれのようです。

 

Ref. 1:van Dyck CH.Anti-Amyloid-β Monoclonal Antibodies for Alzheimer's Disease: Pitfalls and Promise. Biol Psychiatry2018;83:311-319.

見つけてはいけない

磁気共鳴血管造影による非破裂動脈瘤 [注1]のスクリーニングを一般住民において行なうことは現状では正当化されません。その理由として、(1)一般住民を磁気共鳴血管造影によりスクリーニングすれば約2%に動脈瘤が発見されますが、クモ膜下出血の発症頻度はおおよそ20/100,000/年です。つまり動脈瘤の発見率の高さに比し、クモ膜下出血の発症率が低すぎます。このような低リスク群をスクリーニングすると利益が損失を上回ることは考えにくいのです。(2)非破裂動脈瘤のスクリーニングが正当化される可能性のある高リスク群(1親等以内にクモ膜下出血の家族歴がある群)をランダム化比較試験により行なった(スクリーニングをする群としない群にランダムに振り分ける)研究において、最終的にスクリーニングが有益という結果はでませんでした[Ref. 1] 。(3)偶然発見される小さな(<5 mm)非破裂動脈瘤の破裂頻度は低いことが分かっています[Ref. 2, 3] 。(4)さらに破裂する動脈瘤は急速に増大して比較的小さくてもクモ膜下出血の原因となるという意見がある。つまり破裂動脈瘤の多くと、偶然発見される非破裂動脈瘤の自然歴は異なる可能性があります。以上より、一般住民において磁気共鳴血管造影による非破裂動脈瘤のスクリーニングは現状では正当化されないと結論づけられます。私たちが行なっている脳MRI健診の受診者への説明の文章にも「(磁気共鳴血管造影による未破裂動脈瘤のスクリーニングは有益性が保証されないので)今回の健診では血管撮影は行っておりませんので、小さな脳動脈瘤クモ膜下出血の原因)の検出はできません。」と明記しています。

 

注1:2017年6月に福岡市で開催された脳ドック学会において岡田靖会長は偶然見つかる脳動脈瘤の呼称について、未破裂動脈瘤ではなく、非破裂動脈瘤とすることを提唱しました。私も賛成です。

Ref. 1: N Engl J Med1999;341:1344-1350

Ref. 2: Stroke2010;41:1969-1977,

Ref. 3: N Engl J Med2012;366:2474-2482

家庭血圧測定が役に立つ

近年では高血圧の診断および治療を決定する前に家庭血圧を測定することになっています。治療開始の決定や降圧剤の増減の判断のためには、1日2回、4-7日の家庭血圧測定が必要ですが、長期間の観察には週に1-2回の測定で十分でしょう[Ref. 1] 。家庭血圧は起床時と就寝前に測定することが多いですが、朝の血圧の方が諸条件を一定にしやすいと考えられます。起床時の家庭血圧測定は、起床後なるべく早く(1時間以内)、排尿後、朝食や服薬の前で、必ず1-2分間の安静後に測るようにしましょう。病院や診療所で測定した血圧値よりも家庭血圧の方が将来の脳卒中の発症を予測する上で有用なことがわかっています[Ref. 2] 。カナダのバンクーバーで家庭血圧と認知機能の関係を調べた研究では、収縮期血圧の高値と脈圧の拡大があると処理速度や遂行機能、「日常の」認知機能が不良でしたが、外来血圧と相関があったのは「日常の」認知機能のみでした[Ref. 3] 。認知機能の評価においても家庭血圧は良い指標のようです。

 

Ref. 1: O'Brien E, Dolan E, Stergiou GS. Achieving reliable blood pressure measurements in clinical practice: It's time to meet the challenge. J Clin Hypertens2018;20:1084-1088.

Ref. 2: Asayama K, Ohkubo T, Kikuya M, Metoki H, Hoshi H, Hashimoto J, Totsune K, Satoh H, Imai Y. Prediction of stroke by self-measurement of blood pressure at home versus casual screening blood pressure measurement in relation to the Joint National Committee 7 classification: the Ohasama study. Stroke2004;35:2356-2361.

Ref. 3: Yeung SE, Loken Thornton W. "Do it-yourself": Home blood pressure as a predictor of traditional and everyday cognition in older adults. PLoS One2017;12:e0177424.