脳が好きなエクササイズ

アルツハイマー病で最初に脳萎縮が起こるのは海馬といわれる部位である。海馬は記憶をつかさどり、海馬が萎縮すると記憶力が衰える。一方、からだをよく動かすヒトでは海馬が萎縮しにくく、アルツハイマー病(認知症)になりにくいと言われている。エクササイズ有酸素運動)により、認知症は防げるだろうか?

 

軽度の血管性認知障害 [注1] の70人(平均年齢74歳)を有酸素運動群と対照群に割り付けたランダム化比較試験の結果が報告されている [Ref. 1] 。有酸素運動は、10分のウオームアップ+40分の歩行+10分のクールダウンを週3回6ヶ月間おこなった。有酸素運動群では対照群と比較して、アルツハイマー病の特徴的所見(すなわち有害事象)を評価するスケールが改善した。血管性認知障害でもエクササイズによって良くなるのはアルツハイマー病関連なのだろうか?小規模研究なので「これで決まり」ではないが、かなり有望なエビデンスである。

 

太るな、たばこを吸うな、歩け歩け、もっと歩け![注2]

 

注1:血管性認知障害とは、血管障害による認知機能障害の総称であり、「認知症」であることを必要条件としない。この概念が出てきたのは以下の理由による。

(1)代表的な認知症の診断基準は、アルツハイマー病を基準に作られており、血管性認知症の特徴を反映するとは限らない。(2)側頭葉内側面が初期に障害されるアルツハイマー病では症状の中核は記憶障害であるが、脳血管障害は遂行機能(前頭葉機能)障害を特徴とする。(3)認知症の存在を診断基準の必要条件とすると、診断の時点で既にかなりの非可逆性障害があり、治療可能な時期を逃してしまう. 逆に血管性認知障害の半数は認知症に至っておらず、これら軽症例ではより良好な治療効果が期待できる。(4)ある程度以上の大きさをもった脳卒中による認知症脳卒中後遺症として別に扱った方がよい。(5)主に多発性小梗塞と白質病変を予防や治療の標的とする。このように治療や予防を重視する観点からは、血管性「認知症」としてとらえるよりも血管性認知障害の考え方をとる方が合理的であろう。

 

注2: “Do not grow fat, Nor smoke, Walk, walk and walk!”

名鉄病院、市原義雄より引用(http://www.meitetsu-hospital.jp/kakuka/sogo_doctor.html

 

Ref. 1: Liu-Ambrose T, Best JR, Davis JC, Eng JJ, Lee PE, Jacova C, Boyd LA, Brasher PM, Munkacsy M, Cheung W, Hsiung GR. Aerobic exercise and vascular cognitive impairment: A randomized controlled trial. Neurology 2016;87:2082-2090