血圧を下げすぎてきつくはないか?

血圧が130/80 mmHg以上なら高血圧とする—と基準は厳しくなってきています。これは脳卒中の既往や糖尿病のない高齢高血圧患者の収縮期血圧を厳格に(120 mmHg以下を目標)コントロールすると、標準治療よりも心血管疾患の発症率や死亡率が低下したというランダム化比較試験の結果 [Ref. 1] にもとづいています。厳格な治療は—全体としては好結果をもたらすとしても—低血圧や失神、腎機能の増悪などを引き起こす可能性もあります。さらに降圧治療を受ける側がどう感じているかも重要です(「体調が良い」とか、「満足している」とか)。

 

そこでこのランダム化比較試験(SPRINT研究 [注1] )において、治療される側がどう感じているかという解析が行なわれました [Ref. 2] 。その結果、身体的および精神的状態評価やうつの指標、治療や薬剤に対する満足度、治療を遵守したか(できたか)などの各項目について、厳格治療群と標準治療群とでほぼ同様の結果でした。治療される側からみても「厳格な降圧療法は悪くない」ということです(少数の例外はもちろんあるでしょうけど)。ここまできちんとやられると、ちょっと「負けた」という感じがするほどです。

 

(治療される側が満足しているということは)それはそれで良いのでしょうけど、高血圧の基準を厳しくするより、食塩摂取量を減らす方が、日本ではずっといいのではないでしょうか。

 

注1:SPRINT研究については以下に詳しいまとめがあります。http://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20160209nakayama.pdf

 

Ref. 1:SPRINT Research Group, Wright JT Jr, Williamson JD, Whelton PK, Snyder JK, Sink KM, Rocco MV, Reboussin DM, Rahman M, Oparil S, Lewis CE, Kimmel PL, Johnson KC, Goff DC Jr, Fine LJ, Cutler JA, Cushman WC, Cheung AK, Ambrosius WT. A Randomized Trial of intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med 2015;373:2103-2116. 

 

Ref. 2:Berlowitz DR, Foy CG, Kazis LE, Bolin LP, Conroy MB, Fitzpatrick P, Gure TR, Kimmel PL, Kirchner K, Morisky DE, Newman J, Olney C, Oparil S, Pajewski NM, Powell J, Ramsey T, Simmons DL, Snyder J, Supiano MA, Weiner DE, Whittle J; SPRINT Research Group. Effect of Intensive Blood-Pressure Treatment on Patient-Reported Outcomes. N Engl J Med 2017;377:733-744.