認知症発症におけるマタイ効果—社会経済的不均衡

社会経済状況(収入や教育)における格差は、脳卒中認知症といった「脳の健康」にも悪影響を及ぼしていて、一種の「マタイ効果」—持てる者はさらに与えられ、持たざる者は(そのわずかな)所有物をも奪われる—と言えるのではないでしょうか。

 

受けた教育や収入などの社会経済状況により認知症の発症率が左右されるという報告があります [Ref. 1] 。平均73.6歳の一般住民2,457人を12年間追跡し、その間449(18.3%)の認知症の発症をみとめています。社会経済状況としては、家族の所得、十分な家計状況か(ほどほどに足りているのか?)、教育期間と読み書き能力について検討しました。その結果、黒人は認知症発症のリスクが(白人と比較して)有意に高値でしたが、社会経済状況で補正すると有意差は消失しました [注1] 。つまり認知症発症のリスク要因として社会経済状況は強い影響を及ぼしていると考えられます。

 

「マタイ効果」のケセン語訳— [25:29] 誰(だん)でまアり、持ってだ人アはさらに持だせらイで有り余るぐなんべども、持ってねア者ア持ってだ物まで取(と)っ返(けア)される [注2] 。

 

注1:コックス比例ハザードモデルにより、アポリポプロテインE e4、併存疾患で調整した黒人の認知症発症のハザード比と95%信頼区間は白人に対して1.38 (1.14—1.67)でしたが、社会経済状況を共変量として追加すると1.09 (0.87—1.37)となりました。

 

注2:山浦玄嗣 ケセン語新約聖書【マタイによる福音書

 

Ref. 1: Yaffe K, Falvey C, Harris TB, Newman A, Satterfield S, Koster A, Ayonayon H, Simonsick E; Health ABC Study. Effect of socioeconomic disparities on incidence of dementia among biracial older adults: prospective study. BMJ 2013;347:f7051.