海馬の萎縮と認知症

認知症は治療も予防もできないと考えられてきましたが、最近は「9因子の制御により認知症の35%は予防可能である」というように、予防を重視するようになってきています。アルツハイマー病で最も早期に萎縮する脳の領域は海馬であり、「海馬の萎縮」を手がかりとして認知症の予防や治療を考えてみてはどうでしょうか。

 

認知症の危険因子(もしくは防御因子)や遺伝的素因としてのアポリポプロテインEの遺伝子型などのうち多くの因子すなわち、糖尿病、高血圧、慢性腎臓病、飲酒、短い教育歴、うつ、難聴、身体活動や知的活動の不活発などが海馬の萎縮と関連しています。アルツハイマー病や進行の早い軽度認知障害では、アポリポプロテインEの遺伝子型により海馬萎縮が早いと言われていますが、むしろ脳アミロイド沈着のあるもので海馬萎縮が起こっているという報告もあります。

 

海馬は記憶をつかさどり、自覚的なもの忘れ—気のせいなのか?—についても、海馬が萎縮すると(ごく初期の症状としての)自覚的物忘れが起こると指摘した報告もあります。ここから進行すると記憶力が(客観的にも)低下し、さらに記憶力以外の脳機能も低下すると認知症となります。

 

海馬の萎縮がないことは、脳が健康であることの一つの目安と言えるのではないでしょうか。