飲酒と脳卒中—メタアナリシス

小量から中等量の飲酒(1〜2単位/日、ここでは1単位=エタノール12 g)は心血管系疾患に対して保護的に作用するのではないかという報告がありますが、観察研究から結論を得るのは困難です。適量の飲酒では善玉HDLコレステロールが増加し、インスリン感受性が良好となり、フィブリノーゲン(凝固因子)や炎症が軽減したりします。しかし一方では飲酒により血圧は上昇します。また、脳塞栓症の原因となる心房細動は飲酒により増加します。疫学研究の性格上、脳卒中の病型(脳梗塞脳出血くも膜下出血)を区別して解析したものが少ないといった事情もあり、飲酒と脳卒中との関係は必ずしもすべてが明らかとなっているわけではありません。

 

最近、27の研究をまとめたメタアナリシスが行なわれました[Ref. 1] 。脳梗塞に関しては、小量から中等量の飲酒では相対危険度は有意に低下し、それ以上の飲酒量では相対危険度は有意に上昇していました。一方、脳出血くも膜下出血では小量から中等量の飲酒の保護効果はなく、大量飲酒では(>4単位/日)相対危険度は有意に上昇していました。この結果からは飲酒の脳卒中に対する影響は、脳卒中の病型で異なると言えるようです。しかしながら脳卒中の中で多数派である脳梗塞に対して、適量のお酒が良い効果を及ぼすのかについて、観察研究から因果関係を証明することはできません。十分に今日変量を多変量解析により調整した観察研究からは因果関係を主張して構わないと思いますが、メタアナリシスに用いた個々の研究について「十分に多変量調整ができている」ことを確認するのは困難でしょう[注1] 。したがってまだ明確な結論が得られたとは言えないようです。

 

注1:例えばこのメタアナリシスの論文でも「(メタアナリシスに用いた)ほとんどの研究において、年齢や性別、喫煙、体格指数、糖尿病など主要な因子について調整している」との記載があるが、脳卒中の最大の危険因子である高血圧という言葉は書いてありません。

 

Ref. 1:Larsson SC, Wallin A, Wolk A, Markus HS. Differing association of alcohol consumption with different stroke types: a systematic review and meta-analysis. BMC Med2016;14:178.