睡眠障害と認知症

ぐっすり眠ることが大事なことは直感的に理解できます。睡眠不足は生活の質をそこない、肥満や高血圧、心血管系疾患など生活習慣病になりやすくします。最高の睡眠にとってもっとも重要なことは「最初の90分」をしっかり深く眠ることがです。「最初の90分」をしっかり深く眠ることで、良質の睡眠をえることができます[注1] 。睡眠は量(=睡眠時間)よりも質が大事であると考えられています(7-8時間は寝たほうがいいと思いますが----)。もう一つ大事なことは、質の良い睡眠の日内リズムを得るためには寝る時間よりも起きる時間を決めた方が良いということです。起床する時間を決めて、起きたら朝日を浴びて、そこから1日をスタートさせて日内リズムを作ってしまうのです。日内リズムを乱さないためにも昼寝は20分以内にした方が良いと言われています。

 

2日間徹夜すると「注意力」や「集中力」は急激に低下します。6時間くらい眠れば大丈夫だと思っていても、「6時間睡眠を2週間続けた脳は、2晩徹夜したのとほぼ同じ状態」であるといいます。わずかな睡眠不足が、まるで借金のようにじわじわ積み重なる「睡眠負債」は無視できない健康被害をもたらします[注2] 。

 

一般住民1517名を約10年追跡し、睡眠時間と認知症発症との関連を見た成績があります(久山町研究)[Ref. 1] 。追跡期間中に294人が認知症を発症しました。睡眠時間が5時間未満と10時間以上で認知症の発症率と死亡率が増加するU字型の関係がありました。アルツハイマー病と血管性認知症に分けて見ても同様にU字型の関係を示していました。また、睡眠薬を服用していたヒトでも認知症発症率と死亡率が高くなっていました。睡眠と認知機能との関連では、一般住民740名(平均年齢75歳、613名[82.8%] は認知機能正常)について調査し、3年間追跡した報告があります[Ref. 2] 。睡眠時間に加えて「寝つきが悪いか?」「夜中に目がさめるか?」「(睡眠障害のため)昼間眠たいか?」などについて質問しています。教育歴で補正した認知機能検査の点数低下と関連していたのは、認知機能正常者で「夜中に目がさめる」という項目でした。単に睡眠時間だけの問題ではなく、睡眠の質が悪いと認知症になりやすいのでしょうか?

 

“財産は睡眠中に創られる” “苦労は夢とともに消える” [注3]

 

注1:「スタンフォード式 最高の睡眠」(西野精治著、サンマーク出版)は、科学的根拠にもとづいて、より良く眠る方法について書かれています。

注2:どうすれば返済? コワ〜イ睡眠負債NHKあさイチ 2017年9月4日放送)

注3:夏への扉ロバート・A・ハインライン、福島正美[訳]、ハヤカワ文庫)

Ref. 1: Ohara T, Honda T, Hata J, Yoshida D, Mukai N, Hirakawa Y, Shibata M, Kishimoto H, Kitazono T, Kanba S, Ninomiya T. Association Between Daily Sleep Duration and Risk of Dementia and Mortality in a Japanese Community. J Am Geriatr Soc2018;66:1911-1918.

Ref. 2: Johar H, Kawan R, Emeny RT, Ladwig KH. Impaired Sleep Predicts Cognitive Decline in Old People: Findings from the Prospective KORA Age Study. Sleep2016;39:217-226.