野菜と果物と脳の健康

野菜や果物を多く食べると健康に良いと一般的に信じられています。高所得から低所得までを含む18カ国、35から70歳までの135,335人を平均7.4年追跡した観察研究があります[Ref. 1] 。果物や野菜、豆などの摂取量が多いと総死亡率と心血管疾患以外による死亡率が減少していました。総死亡率の減少は375〜500 g/日の摂取量でもっとも著明で[注1] 、それ以上摂取してもほとんど効果は同じでした。心血管系疾患による死亡率は減少傾向を示すものの有意差にはいたりませんでした。これだけの大規模な研究でもそれほど歯切れの良い結果は(特に脳卒中に関しては)得られませんでした。一方、食事による抗酸化物質(ビタミン類)摂取量とその血中濃度の有益性について検討したメタアナリシス[Ref. 2] では、ビタミンCとカロテン類の食事からの摂取量が多く、血中濃度が高いと脳卒中を含む心血管系疾患や癌、総死亡率が減少していました。ビタミンEに関しては血中濃度が高いと心血管系疾患や癌、総死亡率が減少していましたが、食事からの摂取量とは有意な相関はありませんでした。つまり、野菜や果物からの抗酸化物質をとることは良い結果をもたらすけれども、サプリからの摂取はおすすめできないということのようです。

 

それでは野菜や果物と認知症の関係はどうでしょうか。9の研究(5つのコホート研究と4つの断面調査)をまとめたメタアナリシスがあります [Ref. 2] 。それによると野菜と果物の摂取量がもっとも多い群ともっとも少ない群の比較において、多い群は認知症や認知機能低下の危険性が有意に低下していました[注2] 。野菜と果物を多く食べると認知症になりにくいという結果でした。ただし野菜だけについて解析したものでは明らかに良いという結果は得られておらず、(さらに重要と思われるのですが)野菜や果物を多く食べるというヒトは健康的な生活習慣と食生活をしていることが多いので、(生活習慣因子を含めた多変量調整後の結果とはいえ)結果の解釈には注意が必要です。野菜や果物を多く食べるだけ(原因)で認知症になるリスクが2割減る(結果)とは言えません。

 

注1:多変量調整後のハザード比0.78、95%信頼区間0.69-0.88でした。年齢、性別、中心施設、摂取エネルギー、現在の喫煙、糖尿病、都市在住か地方在住か、身体活動度、教育歴、白身の肉・赤みの肉・パン・穀類摂取量(3分位)で多変量調整した結果です。

注2:野菜と果物の摂取量がもっとも多い群で最も少ない群(対照群)との比較で、オッズ比0.80、95%信頼区間0.71-0.89でした。

Ref. 1:Miller V, Mente A, Dehghan M, Rangarajan S, Zhang X, Swaminathan S, Dagenais G, Gupta R, Mohan V, Lear S, Bangdiwala SI, Schutte AE, Wentzel-Viljoen E, Avezum A, Altuntas Y, Yusoff K, Ismail N, Peer N, Chifamba J, Diaz R, Rahman O, Mohammadifard N, Lana F, Zatonska K, Wielgosz A, Yusufali A, Iqbal R, Lopez-Jaramillo P, Khatib R, Rosengren A, Kutty VR, Li W, Liu J, Liu X, Yin L, Teo K, Anand S, Yusuf S; Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study investigators. Fruit, vegetable, and legume intake, and cardiovascular disease and deaths in 18 countries (PURE): a prospective cohort study. Lancet2017;390:2037-2049.

Ref. 2: Aune D, Keum N, Giovannucci E, Fadnes LT, Boffetta P, Greenwood DC, Tonstad S, Vatten LJ, Riboli E, Norat T. Dietary intake and blood concentrations of antioxidants and the risk of cardiovascular disease, total cancer, and all-cause mortality: a systematic review and dose-response meta-analysis of prospective studies. Am J Clin Nutr2018;108:1069-1091. 

Ref. 2: Jiang X, Huang J, Song D, Deng R, Wei J, Zhang Z. Increased Consumption of Fruit and Vegetables Is Related to a Reduced Risk of Cognitive Impairment and Dementia: Meta-Analysis. Front Aging Neurosci2017;9:18.