認知症になりやすい遺伝子を持っているか知っておいた方が良いのか?

認知症のリスクを高くする遺伝子—アポリポプロテインε4遺伝子—検査を日常診療に取り入れるべきなのでしょうか。取り入れた方が医療者のみならず、患者(被験者)にとっても良いことなのでしょうか?この問題提起に対して論じた論文があります[Ref. 1] 。医療者の定期的な訪問に加えて、エクササイズや栄養、知的刺激、血管危険因子の管理など多様な介入をすることによって大きな効果があることをthe FINGER trialは示しましたが、この有益効果はアポリポプロテインε4遺伝子のあるなしで差はありませんでした。この結果からみると、アポリポプロテインε4遺伝子を自分が持っているかどうか知っても役にはたたないように思えます。身体活動度が低い不活発な生活をおくっているヒトではアポリポプロテインε4遺伝子がより悪さをしているようなので、「体を動かした方が良い」と(強く)助言できるかもしれません。一方、地中海食はアポリポプロテインε4遺伝子を持っていないヒトでより有益性が高いようです。タバコとアポリポプロテインε4遺伝子が相乗効果で悪い(と言われています)としても、アポリポプロテインε4遺伝子を持っているヒトも持っていないヒトもタバコはやめた方がいいのではないでしょうか。受動喫煙でも相当悪いわけですし。アポリポプロテインε4遺伝子を持っているハイリスク群に—有効性が証明された手技によって—集中的に介入すれば効果は大きいでしょう(ほっとけば悪ければ悪いほど、有効な治療を行うことができれば効果は大きい)。繰り返しますが、そのような介入の有益効果を示したthe FINGER trialではアポリポプロテインε4遺伝子の有無で区別することは意味がありませんでした。(自分が)アポリポプロテインε4遺伝子を持っていると教えてもらっても、あまり良いことはないと考えています。

 

Ref. 1:Berkowitz CL, Mosconi L, Rahman A, Scheyer O, Hristov H, Isaacson RS. Clinical Application of APOE in Alzheimer's Prevention: A Precision Medicine Approach. J Prev Alzheimers Dis2018;5:245-252.