偶然見つかる脳の微小出血

脳微小出血が実はかなり有害なものであると強調されてきたのは2009年ごろからではなかったかと記憶しています。それまでは高齢者の数パーセントに偶然見つかるどちらかというと無害なものとされていましたが、最近では認知機能低下にも強く関与することが示されています。脳微小出血はT2*というMRIの撮像条件で黒く丸くぬけて見えますが、その大きさは磁場の乱れた範囲の大きさであって、実際の微小出血の大きさではありません(他の一般的な撮像法では見えないことからも、T2*で見ているものが微小出血の実際の大きさではないことは明らかです)。脳微小出血の存在部位は、大脳皮質領域にみとめられる—アルツハイマー病やアミロイドアンギオパチーとの関連が強い—ものと、大脳深部や小脳/脳幹にみとめられる小血管病(動脈硬化)によるものとに大別されます。13,578人(解析対象とした55-75歳では8,595人、平均年齢66.7歳)の個別データを集積したメタアナリシスにおいて、脳微小出血の東洋と西洋での違いが検討されています[Ref. 1] 。東洋では西洋に比べて、大脳深部や小脳/脳幹の脳微小出血が多いことが示されました。この理由は不明ですが、東洋においては脳小血管病が脳微小出血との関連でより重要であることが示唆されました。久山町研究では、脳微小出血の頻度は平均年齢75歳の1,281例中240例(18.7%)とやや高い数字を示しています[Ref. 2] 。約5人に1人に脳微小出血があるという「やや衝撃的な」結果は同研究の受診者の年齢が高いことや、他の日本の研究には「健康な」脳ドック受診者が多く含まれていることが関係ありそうです。部位別では他の東洋からの報告と同じく、やはり大脳深部や小脳/脳幹の脳微小出血が多いことが示されています。大脳深部や小脳/脳幹の脳微小出血のリスクファクターとしては年齢と高血圧コレステロールの低値が、一方、大脳皮質領域の微小出血には年齢と高血圧に加えてアポリポプロテインε4遺伝子型と男性が関連していました。アポリポプロテインε4遺伝子型は西洋で高頻度と言われていますので、西洋に大脳皮質領域の微小出血が多いことも理解できます。このように最近の精力的な脳MRI研究から「結構危ない」脳微小出血のこともよくわかってきています。

 

Ref. 1: Yakushiji Y, Wilson D, Ambler G, Charidimou A, Beiser A, van Buchem MA, DeCarli C, Ding D, Gudnason V, Hara H, Imaizumi T, Kohara K, Kwon HM, Launer LJ, Mok V, Phan T, Preis SR, Romero JR, Seshadri S, Srikanth V, Takashima Y, Tsushima Y, Wang Z, Wolf PA, Xiong Y, Yamaguchi S, Werring DJ. Distribution of cerebral microbleeds in the East and West: Individual participant meta-analysis. Neurology2019 Feb 1.

Ref. 2: Yubi T, Hata J, Ohara T, Mukai N, Hirakawa Y, Yoshida D, Gotoh S, Hirabayashi N, Furuta Y, Ago T, Kitazono T, Kiyohara Y, Ninomiya T. Prevalence of and risk factors for cerebral microbleeds in a general Japanese elderly community. Neurol Clin Pract2018;8:223-231.