見つけてはいけない!

磁気共鳴血管造影による非破裂動脈瘤[注1] のスクリーニングを一般住民において行なうことは現状では正当化されません。その理由として、(1)一般住民を磁気共鳴血管造影によりスクリーニングすれば約2%に動脈瘤が発見されますが、クモ膜下出血の発症頻度はおおよそ20/100,000/年です。つまり動脈瘤の発見率の高さに比し、クモ膜下出血の発症率が低すぎます。このような低リスク群をスクリーニングすると利益が損失を上回ることは考えにくいのです。(2)非破裂動脈瘤のスクリーニングが正当化される可能性のある高リスク群(1親等以内にクモ膜下出血の家族歴がある群)をランダム化比較試験により(スクリーニングをする群としない群にランダムに振り分ける)研究において、最終的にスクリーニングが有益という結果はでませんでした[Ref. 1] 。(3)偶然発見される小さな(<5 mm)非破裂動脈瘤の破裂頻度は低いことが分かっています[Ref. 2, 3] 。(4)さらに破裂する動脈瘤は急速に増大して比較的小さくてもクモ膜下出血の原因となるのかもしれないという意見があります。つまり破裂動脈瘤と偶然発見される非破裂動脈瘤の自然歴は異なる可能性があります。以上より、一般住民において磁気共鳴血管造影による非破裂動脈瘤のスクリーニングは現状では正当化されないと結論づけられます。

 

一般住民におけるクモ膜下出血の発症リスクは低いので、全例をスクリーニングするというようなやり方は倫理的に承認されません。しかしながら非破裂動脈瘤の自然歴は最近よくわかってきました。一般的には、女性・高血圧・喫煙によりクモ膜下出血のリスクが増大すると言われています。上述したThe UCAS Japan Investigatorsによる成績では、破裂リスクの高い非破裂動脈瘤は大きさが7 mm以上、存在部位が前交通動脈もしくは内頸動脈-後交通動脈分岐部、不整な突起があるものでした。ただしリスクが(有意に)高いということは必ず破裂するということでも十分に高いということでもありません。また、偶然見つかった非破裂動脈瘤をどうあつかった方が良いのかということと、スクリーニングをした方が良いのかということは、ある意味全く別のことです。このような事情を踏まえた上で、良質なエビデンスをもとにしたクモ膜下出血の高リスク群を特定できれば、非破裂動脈瘤のスクリーニングが有益であるという方法を将来的に確立できるでしょう。見つけなくてはいけない!という時代が来るでしょうか?

 

注1:2017年6月に福岡市で開催された脳ドック学会において岡田靖会長は偶然見つかる脳動脈瘤の呼称について、未破裂動脈瘤ではなく、非破裂動脈瘤とすることを提唱しました。動脈瘤が破裂すると決めつけて「未破裂」とするより、破裂しないものの方が多いのだから「非破裂」とする方が合理的であると考えられます。

Ref. 1: Magnetic Resonance Angiography in Relatives of Patients with Subarachnoid Hemorrhage Study Group. Risks and benefits of screening for intracranial aneurysms in first-degree relatives of patients with sporadic subarachnoid hemorrhage.N Engl J Med 1999;341:1344-1350.

Ref. 2: Sonobe M1, Yamazaki T, Yonekura M, Kikuchi H. Small unruptured intracranial aneurysm verification study: SUAVe study, Japan.Stroke 2010;41:1969-1977.

Ref. 3: UCAS Japan Investigators, Morita A, Kirino T, Hashi K, Aoki N, Fukuhara S, Hashimoto N, Nakayama T, Sakai M, Teramoto A, Tominari S, Yoshimoto T. The natural course of unruptured cerebral aneurysms in a Japanese cohort.N Engl J Med2012;366:2474-2482.