甘い罠ー人工甘味料について

ジェイソン・ファンの著書「トロント最高の医師が教える世界最新の太らないカラダ」[注1] では、糖分の危険性が繰り返し指摘されています。いわく(肥満の対策として)「添加糖の摂取を減らす」や「精製された穀物の摂取を減らす」、グルコースよりも「フルクトースは特に、健康によくない」などなどです。さらに人工甘味料の問題点も指摘されています。フラミンガム研究[注2] での10年間の追跡調査において、脳卒中新規発症と認知症について「加糖飲料」との関係が解析されています[Ref. 1] 。その結果、人工甘味料を加えた飲料の摂取が多いと脳梗塞のハザード比は2.96、アルツハイマー病のハザード比は2.89と有意に上昇していました[注3] 。砂糖を加えた飲料と脳梗塞認知症との関連は示されませんでした。この当時には人工甘味料としてはサッカリンアセスルファムカリウム、アスファルテームが使用されていました。このような観察研究からは、糖尿病であるから(病気への対策として)人工甘味料の飲料にしているという可能性は否定できません。その後の閉経後の女性を対象としたWomen’sHealth Initiative (WHI) study [注4] では人工甘味料を加えた飲料摂取量が最大の群では脳卒中脳梗塞、心血管系疾患、死亡率の全てが増加していて、心血管系疾患や糖尿病を有する例を除外した感受性解析でも同様の結果でした。どうしてゼロカロリーの人工甘味料が危ないのかは明確ではありませんが、人工甘味料は体重増加や体脂肪増加をもたらし、インスリン抵抗性を引き起こすという成績があります。やはり人工甘味料は危ないようです。

 

注1:原題はThe Obesity Code、日本語版(多賀谷正子訳)はサンマーク出版から。

注2:フラミンガム研究は、5209人の地域住民を対象として、1948年にアメリカ合衆国マサチューセッツ州フラミンガムで始まった—当初は心血管系疾患予防に特化した—疫学研究である。

注3:コックス比例ハザードモデルにより、年齢、性別、カロリー摂取量、食事ガイドラインの順守状況、身体活動度(自己申告)、喫煙を共変量として補正した結果(モデル2)です。

注4:Women’s Health Initiative (WHI) study(女性の健康イニシアチブ研究)とは米国の国立衛生研究所(NIH)による閉経後の女性の健康に関する研究プログラムhttps://www.nhlbi.nih.gov/science/womens-health-initiative-whi/

Ref. 1: Pase MP, Himali JJ, Beiser AS, Aparicio HJ, Satizabal CL, Vasan RS, Seshadri S, Jacques PF. Sugar- and Artificially Sweetened Beverages and the Risks of Incident Stroke and Dementia: A Prospective Cohort Study. Stroke2017;48:1139-1146. 

Ref. 2: Mossavar-Rahmani Y, Kamensky V, Manson JE, Silver B, Rapp SR, Haring B, Beresford SAA, Snetselaar L, Wassertheil-Smoller S. Artificially Sweetened Beverages and Stroke, Coronary Heart Disease, and All-Cause Mortality in the Women's Health Initiative. Stroke2019;50:555-562.