腎臓の機能が低下すると認知症になりやすくなる

最近、腎臓は脳の働きにも影響を及ぼすことが明らかとなり、注目されています。慢性腎臓病は一般住民の8〜16%にみとめられ、脳梗塞認知症とも多くの危険因子(高血圧や糖尿病、潜在性脳梗塞などの脳小血管病)を共有しています。認知症発症リスクと腎機能障害についてのメタアナリシスでは、タンパク尿(アルブミン尿)があると認知機能低下や認知症発症リスクが35%上昇することが示されています[Ref. 1] 。その後の報告でもアルブミン尿と認知症アルツハイマー病と血管性認知症)[Ref. 2] 、アルブミン尿と血管性認知症[Ref. 3] の相関があることが確認されています。腎機能低下があると認知機能低下や認知症発症リスクが高まることはまちがいないようです。

 

慢性腎臓病があると認知機能が低下することはハッキリしているとしても、その機序についてはよくわかっていません。また、慢性腎臓病に関連する認知症の病型がアルツハイマー病なのか、血管性認知症なのかについても不明確です。私たちも一般住民(560人、女性が60%、平均年齢72歳)の脳MRI健診において、慢性腎臓病と認知機能[注1] の関係について検討しました[Ref. 4] 。腎機能と潜在性脳梗塞と認知機能の複雑な関係性は共分散構造分析[注2] という統計手法を用いて解析しました。複雑な関係性というのは、慢性腎臓病は主として糖尿病など血管危険因子によって引き起こされますが、慢性腎臓病自体が脳梗塞の危険因子のひとつであるといった込み入った関係性があるということです。解析結果は、予想通り腎機能低下は潜在性脳梗塞を介して遂行機能障害と関連がありましたが、腎機能低下が遂行機能障害と直接(潜在性脳梗塞と独立して)関連する経路もありました。この独立した経路の機序は不明ですが、腎機能低下が(ミニメンタルテストではなく)遂行機能に関連があることから、慢性腎臓病は血管性認知障害を引き起こすのではないかと考えています(現時点で異なる結果を出している報告もあります)。

 

注1:もっとも一般的な認知機能のスクリーニング検査であるミニメンタルテストと遂行(前頭葉)機能検査の一つであるストループテストを用いて認知機能を評価しました。

注2:複数の重回帰分析(多変量解析)をネットワークとして結んで、各因子(独立変数と従属変数)の関係を重回帰分析で解析し、モデル全体の適合度についても評価する統計解析の方法。最近では構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling [SEM] )ともいう。

Ref. 1: Deckers K, Camerino I, van Boxtel MP, Verhey FR, Irving K, Brayne C, Kivipelto M, Starr JM, Yaffe K, de Leeuw PW, Köhler S. Dementia risk in renal dysfunction: A systematic review and meta-analysis of prospective studies. Neurology2017;88:198-208. 

Ref. 2: Takae K, Hata J, Ohara T, Yoshida D, Shibata M, Mukai N, Hirakawa Y, Kishimoto H, Tsuruya K, Kitazono T, Kiyohara Y, Ninomiya T. Albuminuria Increases the Risks for Both Alzheimer Disease and Vascular Dementia in Community-Dwelling Japanese Elderly: The Hisayama Study.J Am Heart Assoc2018;7. pii: e006693.

Ref. 3: Gabin JM, Romundstad S, Saltvedt I, Holmen J. Moderately increased albuminuria, chronic kidney disease and incident dementia: the HUNT study. BMC Nephrol2019;20:261. 

Ref. 4: Yao H, Araki Y, Takashima Y, Uchino A, Yuzuriha T, Hashimoto M. Chronic Kidney Disease and Subclinical Brain Infarction Increase the Risk of Vascular Cognitive Impairment: The Sefuri Study. J Stroke Cerebrovasc Dis2017;26:420-424.