脳トレは有効か?

渡る世間は脳トレブームです。「脳トレ」のキーワードで検索してみると、「脳がみるみる若返る—脳トレ習慣」とか「認知症を防ぐ脳活ドリル」とか「毎日脳トレ計算ドリル」など、一生かかっても、こなしきれないほどの「脳トレ本」が出てきます。ところが、脳…

主観的な物忘れ—「気にしすぎ」なのか?

健常高齢者に(主観的な)物忘れがある場合、年相応であり、正常範囲(平たく言えば「気にしすぎ」)としてきましたが、高齢者が物忘れを訴えるのは「気のせい」ではないかもしれません。例えば、認知機能検査が正常でも自覚的物忘れがあるヒトではアルツハ…

認知症は減少している?!

高齢者の人口が増加しつづける社会では、認知症患者の数が増加することは当然ですが、認知症の発症率は減少しているという報告があります。フラミンガム研究では、認知症の5年累積発症率は3.6/100人(1997-1983年)から2.0/100人(2004-2008年)へと減少し…

認知症は予防する時代になっている

2017年と2020年のThe Lancet Commissionsの論文により修正可能な12の認知症の危険因子(短い教育歴、高血圧、難聴、喫煙、肥満、うつ、身体活動度低下、糖尿病、社会的孤立、過剰な飲酒、頭部外傷、大気汚染)が示されました。この12の因子により認知症の40%…

筋トレで、まずは体づくりから

筋肉は加齢とともにおとろえ、特に下肢の筋力が最初に弱くなります。したがって、自分で動くことができる状態を維持するためには、下肢の筋力を保つことが重要です。ガイトン生理学の教科書には「最大負荷に近い筋収縮を6回、1日3セット、週3日実施する…

「動かない」とヒトは病む

「体も頭も使わないとなまる」ことは「常識」として知られています。毎日の生活が不活発になってくると、非常に多くの心身のはたらきが少しずつ低下し、「生活動作の不自由さ、やりにくさ」が出てきます。この状態を大川弥生さんは「生活不活発病」と命名し…

健常高齢者のやる気の低下

認知機能障害や感情的動揺、意識障害などによらない(特に原因の無い)「やる気の低下」をアパシーと言います。うつ病でもアパシーとなりますが、うつ病特有のゆううつ気分や罪悪感、絶望感などはアパシーにはありません。英国の研究グループは、高齢者の大…

脳が好きなエクササイズ

体を動かすと認知機能が改善し、認知症になりにくいことを示した多くの研究がありますが、系統的文献検索(システマテイックレビュー)によると、多くの研究は短期間・少数例の観察で、不十分なものです。良質な研究としては、120人の高齢者をトレッドミルで…

もっとも健康に良いスポーツ種目は?

運動が健康に良いことは直感的にあきらかですが、運動種目の中ではどの種目がより良いのでしょうか?英国の一般住民約8万人を平均9.2年間追跡した報告では、水泳、エアロビクス、ラケットスポーツ(バドミントン、テニス、スカッシュなど)では死亡率および…

お酒の適量とは

飲酒量の単位として、多くの国ではエタノール10グラムが1単位です。「節度ある適度な飲酒」とは1日平均純アルコール20グラム(2単位)までです。少し具体的にみてみましょう。たまたまここに「Rabbit Ridge 2016 ZINFANDEL」があります。アルコール濃度15…

高血圧はアルツハイマー病の原因?

だいぶん以前のことですが、収縮期高血圧に対するランダム化比較試験が実施されたことがあり、やはりというか、今日の感覚からすると当然のことですが、プラセボを投与された対照群に脳卒中が多く発症したため、試験は早期に中止され、その後は経過観察が継…

「血圧の話」

脳卒中の予防のためには「血管危険因子の管理」がもっとも重要で、ここはどうしても血圧の話が多くなります。尾前照雄先生(1926〜2021)の「血圧の話」(岩波新書)が出版されてから四半世紀以上が経過しました。その間に高血圧に関する知見の集積はすさま…

「高血圧という病名」になっている

高血圧の患者さんの中には「さっさと薬を出してください。手っ取り早く血圧を下げて安心したい」というヒトや、減塩やダイエットなど「辛い食事制限」は嫌だとか、「お酒を減らしなさい」「タバコをやめなさい」「あれもダメ、これもダメ」「ダメです、禁止…

血圧を下げすぎてきつくないか

高血圧の降圧目標は厳しくなっています。これは厳格な降圧療法により、心血管疾患や死亡率がさらに低下したというランダム化比較試験(SPRINT研究など)の結果を受けたものです。SPRINT研究では、治療される側の主観的満足度(治療や薬剤に対する満足度、治…

減塩後進国 日本

高血圧治療や脳卒中予防において、減塩は非常に効果的です。24時間蓄尿による食塩摂取量測定を行ない、20年以上追跡したTrials Of Hypertension Prevention (TOHP)研究では、食塩摂取量が多いと死亡率は直線的に増加していました。心血管疾患の発症も食塩摂…

醤油とみそに含まれる食塩量

薄口(うすくち)醤油の方が濃口(こいくち)醤油より塩分が多いというのは意外な感じがします。これは色の薄い薄口醤油は発酵をゆるやかにして色みを薄くするために塩を多く使うためです。大さじ1の醤油に含まれる食塩量は、濃口醤油2.6グラム(我が家の濃…

家庭血圧測定は必須!

高血圧の診断や治療開始の前に家庭血圧を測定することが必須になってきています。家庭血圧測定は朝と夜(寝る直前)が基本ですが、諸条件をそろえやすいので、朝の測定を優先したほうが良いと私は考えています。朝の家庭血圧測定は起床後なるべく早く(1時…

コーヒーと脳の健康

ヨーロッパ10カ国での追跡調査では、コーヒーを多く飲むと死亡率が1割ほど減少しました。脳卒中による死亡も、コーヒー多飲群(特に女性)で少ないことが分かりました。多人種からなる集団での報告でも、コーヒーを1日2-3杯以上飲むと全死亡と脳卒中による…

チョコレートと脳卒中

チョコレートとは栄養成分表示のいちばん最初に「カカオ」と書かれているものです。最初に「砂糖」があったら、それはチョコレートではなく、チョコ味をつけた砂糖のかたまりです(注)。それでは「本当の」チョコレートは健康に良いのでしょうか?メタアナ…

卵は1日に何個まで食べてよいのか?

卵には多量のコレステロールが含まれるため(中くらいの大きさの卵のコレステロール含有量は約180ミリグラム)、卵は目のかたきにされてきました。ところが、食事でとったコレステロールによって血中コレステロールが増加するわけではなく、栄養価も高いのに…

大豆か魚か、それともオメガ3サプリ?

久山町研究(注)では、食事の植物性タンパク質が多いと脳梗塞が減少し、動物性タンパク質が多いと脳出血が半分ほどに減少していました。植物性タンパク質摂取量は大豆を使用した食品との関連がもっとも強く、動物性タンパク質摂取量は魚、次いで乳製品や肉…

ビーガン食は健康的か?

菜食主義は若い女性のあいだで人気がありますが、ビーガン食は無条件で健康的とは言えません。肉や魚・乳製品・卵も食べないビーガン食は食品が限定されるため、タンパク質やビタミン不足などの栄養学的問題が生じることがあります。体重60キロの少女のタン…

人類は雑食性の霊長類

野菜や果物を多く食べると健康に良いと信じられています。野菜や果物の摂取量が多いと総死亡率と心血管疾患以外による死亡率が減少していました。375〜500グラム/日の野菜や果物の摂取量で総死亡率がもっとも減少しており、それ以上摂取しても効果は頭打ちで…

和食の光と影

世界61地域で24時間尿を採取し、魚介類摂取の目安であるタウリンと大豆摂取の目安であるイソフラボンを測定して、「和食スコア」を作成した家森幸男教授 [注] によると、タウリンとイソフラボンが5×5=25分割の中でもっとも多いところに日本人の約90%が当て…

最近評判の良い地中海食

健康的な食事についてのシステマテイックレビューでは、野菜や果物、豆類、ナッツ、全粒、野菜オイル、魚、低脂肪の肉・鶏肉は死亡率を低下させ、赤身の肉や加工肉、高脂肪乳製品、精製した炭水化物・菓子は悪いことが示されています。唯一ランダム化比較試…

ゆるやかな糖質制限

糖質(炭水化物)制限によるダイエットの根拠となったものの一つに、イスラエルでの「どのような食事が肥満の解消に有効か?」というランダム化比較試験があります(参加者の平均体重は91.4 kg、86%は男性)。2年間での体重減少は、低脂肪食で2.9 kg 、カロ…

寝ても寝なくても認知症になる?

久山町研究 [注] では、睡眠時間が5時間未満と10時間以上で認知症が増加していました。別の研究では、短い睡眠時間と寝つくまでに30分以上かかることが認知症発症に関連していました。腕に装着したスマートウォッチの加速度センサーにより睡眠の質を測定し…

「果報は寝て待て」ない

睡眠時間が8時間より長いと脳卒中になりやすいという報告があります。最近の中国での200万人近くをあつかったメタアナリシスでも、加齢・高血圧・心血管系疾患の既往・慢性腎臓病・糖尿病・メタボリックシンドローム・高血糖・肥満・喫煙などの古典的血管危…

なぜ夢をみるのか

「夢」という魅力的な言葉から何を連想するでしょうか。明るい未来の予感でしょうか。夢が現実となったら嬉しいとか、夢をかなえるために頑張るなどとよく言います。何かのTVドラマで「ヒトは夢をみるから生きられるのです」と誰かが言っていました(リーガ…

笑う門には福来たる

「将来的に必ず良いことが起こる」「良いことしか起こらない」と思うポジティブな心の持ちよう(楽天的)であることは、学業や仕事、スポーツのみではなく身体面でも良い効果をもたらします。メタアナリシスでは、楽観的であることは心血管疾患を35%、死亡率…