血管性認知症もしくはビンスワンガー病について

CTと比べるとMRIでは大脳白質病変ははるかに明瞭に描出できるようになった。大脳白質病変があると認知機能が障害され、広汎な白質病変を特徴とする血管性認知症はビンスワンガー病と呼ばれている [注1] 。

 

ビンスワンガー病の特徴は—広汎な白質病変に加えて—脳深部の小梗塞を伴うことである。そのような小梗塞(ラクナ梗塞)を有する患者の脳循環動態についてポジトロンCTを用いて検討した報告がある [Ref. 1] 。深部白質病変が中等度以上の群(9例、おおよそビンスワンガー病に近い)では、軽度以下の群(9例)と比較して、脳血流がまず減少し、酸素抽出率は上昇するも、酸素代謝もやや減少していた。このような脳循環代謝の異常は血行力学的に脆弱な半卵円中心部にみとめられた。長期間持続した高血圧があると、主要な血管支配領域の「はざま」で脳循環が障害されやすく(貧困灌流と称されている)、まさにその部位で「虚血性」白質病変を生じるのであろう。

 

ビンスワンガー病—(ある程度以上の)白質病変+ラクナ梗塞—が血管性認知症の基本型である。

 

注1:ビンスワンガー病とは、広汎な白質病変を伴う血管性認知症の1つの型である。以下のような診断基準が示されている。

ビンスワンガー病の診断基準

1. 認知症が臨床的に確実であり、神経心理検査により確認されている。

2. 以下の3項目のうち2つ以上が存在すること。

A) 血管危険因子の存在もしくは血管病が存在する証拠

(たとえば高血圧、糖尿病、心筋梗塞の既往、不整脈心不全

B) 脳血管障害の証拠

(たとえば脳卒中の既往、局所錐体路徴候や感覚障害)

C) “皮質下” 脳機能障害の証拠

(たとえばパーキンソン病様、“老人性” の歩行や筋硬直、痙性膀胱による尿失禁)

3. 画像診断上、CT上両側性の白質粗鬆化があり、もしくはMRI上2×2 mm以上の大きさの両側性、多発性、びまん性の皮質下高信号病変をT2強調画像で認める。

以上の基準は以下の項目があると無効である。

1. CTやMRIで多発性もしくは両側性の皮質病変

2. 高度の認知症(たとえばミニメンタルテストで10点未満)

 

Bennett DA, Wilson RS, Gilley DW, Fox JH. Clinical diagnosis of Binswanger's disease. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1990;53:961-965.

 

Ref. 1:Nezu T, Yokota C, Uehara T, Yamauchi M, Fukushima K, Toyoda K, Matsumoto M, Iida H, Minematsu K. Preserved acetazolamide reactivity in lacunar patients with severe white-matter lesions: 15O-labeled gas and H2O positron emission tomography studies. J Cereb Blood Flow Metab 2012;32:844-850.