腎臓と脳と認知機能

腎臓は体内の老廃物を尿として排出する以外にも実に多彩な機能を持ち、「人体ネットワーク」の要の役割を果たしている [注1] 。最近、腎臓は脳の働きにも影響を及ぼすことが明らかとなり、注目されている。

 

一般住民560人(女性が60%、平均年齢72歳)の脳MRI健診において、慢性腎臓病と認知機能 [注2] の関係について検討した報告がある [Ref. 1] 。腎機能と潜在性脳梗塞と認知機能の複雑な関係性は共分散構造分析 [注3] という統計手法を用いて解析された。予想通り腎機能低下は潜在性脳梗塞を介して遂行機能障害と関連があったが、腎機能低下が遂行機能障害と直接(潜在性脳梗塞と独立して)関連する経路もあった。この独立した経路の機序は不明であるが、腎臓が脳に及ぼす影響にはいろいろと想定外のことが多い。

 

腎臓の働きの多様性を理解するには、我々の脳(力)では現時点で不十分であるように思える。

 

注1:NHKスペシャル「人体」 “腎臓” があなたの寿命を決める(2017年10月1日)

 

注2:もっとも一般的な認知機能のスクリーニング検査であるミニメンタルテストと遂行(前頭葉)機能検査の一つであるストループテストを用いて認知機能を評価した。

 

注3:複数の重回帰分析(多変量解析)をネットワークで結んで、各因子どうしの関係とモデル全体の適合度を判断する統計解析の方法。最近では構造方程式モデリング(Structural Equation Modeling [SEM] )ともいう。

 

Yao H, Araki Y, Takashima Y, Uchino A, Yuzuriha T, Hashimoto M. Chronic Kidney Disease and Subclinical Brain Infarction Increase the Risk of Vascular Cognitive Impairment: The Sefuri Study. J Stroke Cerebrovasc Dis 2017;26:420-424.