有酸素運動によって海馬が大きくなり、記憶力は改善する

「体を動かすと認知機能が改善し、認知症になりにくい」ことが多くの観察研究から示唆されています。より因果関係をはっきりさせるためにランダム化比較試験も行われています。しかしながら、「身体活動は認知機能低下やアルツハイマー認知症を予防するか?」に関するランダム化比較試験の系統的文献検索(システマテイックレビュー)[Ref. 1] によると、それらは観察期間が短かったり、対象例数が少なかったりして、多くの研究は「不十分な」ものと言わざるを得ないようです。

 

120人の高齢者(平均年齢67歳)をトレッドミルでの有酸素運動とストレッチ(対照群)に振り分けて比較したランダム化比較試験があります [Ref. 2] 。注意深く計画された [注1] この研究では、有酸素運動群では1年後の海馬容積(特に歯状回や海馬台、CA1領域を含む前部)が絶対値で2%増大し、記憶 [注2] が改善していました。これは大変質の良い研究としか思えません。

 

ランダム化比較試験は効果の判定(統計手法)は簡単ですが、内容(方法)については少し詳しく見ておく必要があります。

 

注1:まず症例の選択方法ですが、地域在住の842名に呼びかけ、179名の応募があり、そのうち145名が介入試験に参加しました。そのうち25名は様々な理由から除外し、ランダム化した120名の結果について報告しています。研究参加の基準は、右利きであること、55〜85歳、スクリーニング検査で認知症うつ病の可能性が低いこと、色覚が正常で、視力が一定水準以上であること、神経疾患や循環器系の疾患がないことなどです。さらに、かかりつけ医からの了解も得ています。

 

注2:記憶力の検査方法としては、コンピュータ上での空間記憶課題を用いています。

 

Ref. 1: Brasure M, Desai P, Davila H, Nelson VA, Calvert C, Jutkowitz E, Butler M, Fink HA, Ratner E, Hemmy LS, McCarten JR, Barclay TR, Kane RL. Physical Activity Interventions in Preventing Cognitive Decline and Alzheimer-Type Dementia: A Systematic Review. Ann Intern Med 2018;168:30-38.

 

Ref. 2: Erickson KI, Voss MW, Prakash RS, Basak C, Szabo A, Chaddock L, Kim JS, Heo S, Alves H, White SM, Wojcicki TR, Mailey E, Vieira VJ, Martin SA, Pence BD, Woods JA, McAuley E, Kramer AF. Exercise training increases size of hippocampus and improves memory. Proc Natl Acad Sci U S A 2011;108:3017-3022.