潜在性脳梗塞があると認知症になりやすい(どれだけ?)

脳梗塞(特に脳小血管病によるラクナ梗塞)があっても、脳卒中の症状が出ることは意外と少ないことが知られています。しかしながらこのような小さな病変によって認知機能は障害され、認知症の発症は増加すると考えられています。脳MRIを用いて、多数例を追跡し、MRI上の脳梗塞の発症と認知機能の関連を検討した報告があります[注1] 。

 

一般住民2612人(41%が男性、平均年齢74.6歳)の脳MRI検査において、脳梗塞は31%に、脳卒中の既往は5.4%に認められました。この集団を平均5.2年追跡し、その間に20.9%(545例、男性では26.4%、女性では17.0%)にMRI上の脳梗塞の新規発症がありましたが、脳卒中として症状が出たのは6.8%(545例中37例)だけでした。あらかじめ脳梗塞があって、そこにMRI上の脳梗塞が新規発症した群では認知機能の低下が(特に男性において)急速に起こり、認知症発症のリスクは1.7倍でした。

 

男性に脳梗塞が多いという結果は年齢、MRIの検査間隔、血管危険因子などで多変量調節したものですので、脳梗塞に対して男性は脆弱であるのか、逆に女性は保護されているのかという生物学的性差の存在が示唆されます。しかしながら、認知機能や認知症の発症に対しては脳梗塞があって、さらにMRI上の脳梗塞が新規発症するということがもっとも重要です。また、ほとんどの「新規発症」のMRI上の脳梗塞は症状がないので、MRI検査をしないと検出できません。

 

脳はMRI検査をしないと何も分からないことが分かりました。

 

注1:Age Gene/Environment Susceptibility(AGES)-Reykjavik 研究

 

Ref. 1: Sigurdsson S, Aspelund T, Kjartansson O, Gudmundsson EF, Jonsdottir MK, Eiriksdottir G, Jonsson PV, van Buchem MA, Gudnason V, Launer LJ. Incidence of Brain Infarcts, Cognitive Change, and Risk of Dementia in the General Population: The AGES-Reykjavik Study (Age Gene/Environment Susceptibility-Reykjavik Study). Stroke2017;48:2353-2360.