片頭痛と脳卒中

2018年6月にサンフランシスコで開催されたアメリカ頭痛学会での片頭痛に関する話題が紹介されています[注1] 。その中には、並存する健康問題からみて片頭痛が明確な8つ亜群に分類できること、ひどい症状の回数や薬の使用過多、慢性の片頭痛、前兆などが並存疾患の数と関連することが報告されています。興味深い話として、気候の変化が自分の片頭痛の引き金であると信じて、スマートウォッチで天気予報をみていた男性患者からスマートウォッチを取り上げたら気候変動は片頭痛の引き金とならなくなったというもので、つまり気候変動が引き金ではなく、気候変動で片頭痛が起こると信じていたことによる「不安感」が本当の引き金であったということです。ハイライトとして、calcitonin gene-related peptide (CGRP) に対するモノクローナル抗体片頭痛に対する有効性に関する複数の研究が進行中で、有望な結果を示しつつあると述べられています[注2] 。

 

それでは最先端から少し戻って、片頭痛脳卒中との関係はどのようになっているかみてみたいと思います。頭痛の原因は様々ですが、頻度の多いものとして緊張性頭痛と片頭痛があります。片頭痛が厄介なのは症状が激しいものが多く、吐き気にとどまらず実際嘔吐します。また、緊張性頭痛を緩和する入浴や飲酒は逆に片頭痛を悪化させます。片頭痛は生活の質を大きく損なうことが多いのです。さらに片頭痛脳卒中リスクを増すと言われていて、次のようなメタアナリシスがあります[Ref. 1] 。2836の論文から最終的に18論文を選定し、脳卒中について記載のある13研究(平均追跡期間5.8年)の結果では、片頭痛のあるヒトの脳卒中リスクは有意に上昇するというものでした(ハザード比1.42)。脳卒中の病型別では、脳梗塞脳出血もどちらも片頭痛があるとリスクが上昇していました。このリスク上昇は前兆のある片頭痛(頭痛の前にギザギザの光—閃輝暗点と言います—などの前兆があるもの)のみにみとめられました。確かに片頭痛があると脳卒中の発症リスクが増加しますが、ひとつ追加コメントするとしたら、片頭痛が多い若年女性では脳卒中の発症頻度そのものが低いので、リスク4割り増しでもそれほど怖がる必要はないと思います。片頭痛の治療には専門性が必要なことが多く、治療法も発展しているので、片頭痛のヒトはいい意味での「専門家」をかかりつけ医としておく必要があります。

 

注1:John Watson—Headache Experts on What’s Hot in Migraine. (https://www.medscape.com; September 04, 2018)

注2:2018年9月27日、インディアナポリス―イーライリリー・アンド・カンパニー(以下、リリー)(NYSE:LLY)は、本日、米国食品医薬品局(FDA)が、成人の片頭痛の予防治療を適応とする EmgalityTM (galcanezumab-gnlm) 120 mg 注射薬を承認したことを発表しました。Emgalityはカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に結合するヒト化モノクローナル抗体で、CGRPの受容体への結合を阻害します。Emgalityは、月1回皮下投与する自己注射薬です。(日本イーライリリー株式会社プレスリリース、2018年10月4日)

Ref. 1:Mahmoud AN, Mentias A, Elgendy AY, Qazi A, Barakat AF, Saad M, Mohsen A, Abuzaid A, Mansoor H, Mojadidi MK, Elgendy IY. Migraine and the risk of cardiovascular and cerebrovascular events: a meta-analysis of 16 cohort studies including 1 152 407 subjects. BMJ Open2018;8:e020498.