脳の健康のために (2) 健康的な食事

てっとりばやく体重を減らそうとするなら糖質制限が効果的ですが、長い目でみたら地中海食の方が良さそうです。オリーブオイルやナッツ、果物と野菜が多く、魚や鳥肉が多い一方では赤身の肉や加工肉が少なく(加工肉が少ないと減塩にもなります)、炭水化物はなるべく精製しないものを食する地中海食に準じた食事の有益性(心血管性疾患、特に脳卒中の減少)が示されています。地中海食など「健康的な食事」では脳萎縮が抑制されていました。植物性タンパク質脳梗塞が、動物性タンパク質脳出血が減少します。を毎日1個食べると、脳出血のリスクが減少するという報告もあり、1日1個くらいの卵は食べてよいのではないでしょうか。多価不飽和脂肪酸(エイコサペンタエン酸やリノール酸)が多いと脳梗塞が減少するという報告があるものの、他の多くの結果は一致した結論を示していません。精製した白い炭水化物は体に悪いが、精製されていない茶色い炭水化物は食物繊維や栄養成分が豊富で、健康に(特に動脈硬化を抑制して)良いと考えられています。人工甘味料を加えた飲料の摂取が多いと脳梗塞アルツハイマー病のリスクはともに3倍弱まで上昇していました。人工甘味料は危険です。精製された糖質はインスリンの過剰をもたらし、過剰なインスリンは「食べるのをやめさせるホルモン」レプチンの働きをさまたげ、満たされない空腹感をもたらします。このようにして脳が食物依存症となっていくのです。依存症ですから、意志の力は無力です。食物依存の感受性が高いヒトにとって、ダイエットとはシンドイ脳の問題であると肝に銘じる必要があります。

 

野菜や果物を多く食べた方が良いのは間違いないようですが、野菜と果物だけ食べておけば大丈夫ではなく、野菜と果物が不足しているヒトは要注意ということです。健康のためには、良い食生活習慣を上乗せするよりも、(往々にして見て見ないふりをしている)悪い食生活習慣を修正することが大事です。抗酸化物質の摂取(サプリ)による心血管疾患予防や認知機能低下抑制効果はほぼ皆無でした。食品に含まれる成分に惑わされるなということでしょう。唐辛子(特に生唐辛子)により総死亡率と特定疾患(癌や虚血性心疾患、呼吸器疾患)による死亡が減少するということが示されています。確かにチョコレートには脳卒中を予防する効果があるようですが、高血圧などの強力な危険因子を持っているヒトはそちらを先に片づけておいた方がいいでしょう。チョコレートは薬ではありません。コーヒーを多く飲む群(1日2-3杯以上)では、全死亡は約2割減少していました。ランダム化比較試験はまず不可能ですが、コーヒーは明らかに健康に良いようです。

 

(脳の)健康に良い食事はどのようなものか(科学的に証明されたというより、観察研究によるものが多いので)既に「わかっちゃいるけど」くらいの状況です。問題はどのようにして(脳の)健康に良い食事を実行するのかです。それとも不健康な食生活をやめた方が効果的であることは「わかっちゃいる」ことなのでしょうか。