肥満とやせ どちらが認知症になりやすい?

認知症のヒトの体重は同年代と比べて低く、認知症となる10年ほど前から体重は減少し始めることが知られています。認知症になりやすいのは肥満のヒトという報告と、やせている方が認知症になりやすいという相反する報告があります。どちらにしても短期間の追跡調査(もしくは断面調査)では、適正でない体重が危険因子となって認知症になりやすくするのか、潜在的認知症になりかけた状態で行動面の変容によって体重が変化するのか、因果関係がわかりにくいのです。英国で行なわれた100万人規模の長期追跡調査では、追跡開始時の肥満が15年以上追跡後の認知症発症と相関がありました[Ref. 1] 。一方では、低体重や低カロリー摂取、不活発な身体活動度は短期間の追跡では認知症を増やすように見えましたが、長く追跡するにつれ関係性は消失しました。つまりこの3つは認知症の原因ではなく、潜在的認知症になりかけた状態で生じた行動面の変容によって引き起こされた結果ということになります。同様の長期追跡調査では、認知症となった人は発症から28〜16年前は肥満で、発症の10年前ほどで認知症のないヒトと同程度の体重となり、8年前からは低体重となっていました。やはり肥満が認知症の原因の一つなのでしょう[Ref. 2] 。認知症になりかかった状態での低体重(低栄養)が認知症発症を加速した可能性はあるかもしれませんが、肥満はおそらくは血管危険因子として働いて、認知症発症に関与するという機序が主なものなのでしょう。

 

Ref. 1: Floud S, Simpson RF, Balkwill A, Brown A, Goodill A, Gallacher J, Sudlow C, Harris P, Hofman A, Parish S, Reeves GK, Green J, Peto R, Beral V. Body mass index, diet, physical inactivity, and the incidence of dementia in 1 million UK women. Neurology2019 Dec 18. [Epub ahead of print]

Ref. 2: Singh-Manoux A, Dugravot A, Shipley M, Brunner EJ, Elbaz A, Sabia S, Kivimaki M. Obesity trajectories and risk of dementia: 28 years of follow-up in the Whitehall II Study. Alzheimers Dement2018;14:178-186.