白質病変の迷走

MRI検査の出始めには、T2強調画像で「白く光る」病変に目が眩んでいました。それはハッキリ見えるのですから、気になったのは仕方ないでしょう。しかしT2強調画像で同じように「白く光る」病変でも、T1強調画像で明らかに「黒く抜ける」病変とT1強調画像では見えないか、わずかに黒っぽく見える病変の2つに分かれることが明らかとなってきました。ここで良い仕事をしたのが有名なFazekasです。私がいつも参考にしているのは1993年のNeurologyの論文で、点状の深部白質病変は病理学的にみて虚血性変化ではなく、ゆ合性から広汎病変となっていくと虚血性変化が著明となるというものです(また、脳室壁にはりついている脳室周囲高信号域は虚血性変化ではないと記載されています)。つまり(深部)白質病変はそもそも虚血性変化としては軽度で、完全な組織破壊を伴うものではないということです。組織破壊があるものでは、脳梗塞のようにT1強調画像で明らかに「黒く抜ける」病変として識別されます。

 かなり極端な「広汎な深部白質病変」を特徴とする脳血管性認知症の1型にビンスワンガー病[注] があります。その白質病変は、脳MRIの水平断で側脳室がもっとも大きく見える断面で、脳室周囲を取り囲むように広がっています。ところが全く認知症などない健常高齢者(一般住民)でも2%ほどにはこのような広汎深部白質病変がみとめられます。ビンスワンガー病の広汎白質病変と健常高齢者の広汎白質病変との差はどこにあるかというと、まず合併する脳梗塞(基本的にラクナ梗塞です)の数が圧倒的に異なります。ビンスワンガー病では数個以上の小梗塞が散在するのが普通ですが、広汎な白質病変を有する健常高齢者ではラクナ梗塞は1個とか、無いことも稀ではありません。T2強調画像では同じように「白く光って」見えても、その白質病変が同じように「広汎」であっても、病態はかなり異なっているのです。