一般住民における脳MRI健診

MRI画像なしでも、これまで多くの疫学研究から(その多くは観察研究ですが)心血管系疾患の危険因子や認知症になりやすくする(悪い)生活習慣などについて分かってきました。しかしながら、脳卒中を発症していないヒトにも一定数の潜在性脳梗塞は存在しますし、たまたま症状がないだけで動脈硬化の程度は症候性の脳卒中患者と同じということは十分ありうることです。脳梗塞の潜在性発症(変な日本語ですが)すなわち潜在性脳梗塞は症候性脳梗塞発症の少なくとも5倍はあるという報告もあります。したがって、脳MRI画像なしでは病変の危険因子やその病変が認知機能に及ぼす影響の正確な評価は困難です。そういうことで一般住民の健診に脳MRI検査を主軸として加えることにしました。すでに述べたように、MRIの撮像条件としてT1・T2強調画像とFLAIR画像が必須となり、潜在性脳梗塞と白質病変を適切に評価できるようになりました。T2*という撮像条件により脳微小出血が比較的容易に検出できます。さらに最近ではvoxel-based morphometryを採用したVSRADなどにより海馬萎縮の程度も自動的に算出できるようになっています。このようにMRIによる画像診断技術は進化していますが、ここで重要なことは「検査」に対応する「臨床所見」の取得を十分な精度まで引き上げることです。そのために生活習慣アンケートを工夫し、認知機能検査や歩行機能(特に二重課題歩行)検査、食塩摂取量測定などを組み合わせて、「脳の健康」の全般的な評価ができるようにしてきました。以下では脳MRI健診—画像以外の項目について述べてみたいと思います。