脳MRI健診—画像以外の項目

(1)生活習慣に関するアンケート

生活習慣アンケートでは、まず喫煙と飲酒に関する質問が最初にあります。喫煙は一日平均で10本以上を喫煙ありとしていますが、一日1本でも心血管系疾患リスクがかなり上昇するという報告もあり、今後再評価が必要かもしれません。飲酒量は純アルコール(10 g=1単位)に換算して、週4単位以上の飲酒を飲酒ありとしています。運動習慣と身体活動は重要な評価項目で、運動量はMET・h/週で、身体活動度はBaeckeの表を簡略化したものを用いています。ゆううつ気分と不眠の頻度を記入していただいて、睡眠時間や眠剤の服用の有無は調べていますが、「寝つきが悪いか」「夜中に目がさめるか」「昼間眠たいか」など睡眠の質も今後チェックしなくてはいけないでしょう。自覚的(主観的)物忘れについてvan Nordenらの論文の表の16項目について検討中ですが、量が多すぎるので簡略化する必要性があります。アパシースケールはStarksteinのスケールをビジュアルアナログ化したものを使用して、白質病変とアパシーの関係やアパシーがあると活動度が低下することなどを再現性よく示してきました。

 

(2)認知機能スクリーニング検査

以前は定番のミニメンタルテストを使用していましたが、認知機能低下に対する感度が低いので、The Montreal Cognitive Assessment, Japanese Version(MOCA-J)に変更しました。MOCAには著作権上の問題がなく、日本語版のマニュアルも整備されています。遂行機能検査はなかなかそれだけでOKというものがありませんが、私たちはmodified Stroop test慶應版)を使用しています。Stroop testは色弱を除き、できないということがなく、潜在性脳梗塞や腎機能低下との相関を示すなど有用です。認知機能検査の際には必ず教育歴を確認する必要があります。ミニメンタルテストは教育歴の影響を強く受けますが、Stroop testは教育歴と無関係でした。これらの検査はあくまでもスクリーニング検査としては優れたものですが、点数やカットオフだけで個々人を評価すべきものではないということは留意すべきです。生活習慣アンケートの主観的物忘れやアパシースケール、次に述べる「認知機能検査としての」二重課題歩行などと合わせて総合的に評価すべきです。また、被験者に対して安易に「認知機能低下の疑いがある」などと伝えるべきではありません。

 

(3)歩行検査

歩行検査はまず身体機能の測定(フレイルとの関連)という意味で歩行速度を測定します。整形外科疾患の有無を確認し、握力(利き手をチェックする)も測定します。次いで、10 m直線歩行により「普通どれくらいの速度で歩いているか」を測定し、これも定番である3 m Timed Up and Go testで歩行速度を測定します。歩数も測定しますが、歩行速度の方が良い指標のようです。3 m Timed Up and Go testに引き続き、3 m Dual Task Walking二重課題歩行—足し算をしながら歩く)を2回していただきます。この二重課題歩行は歩行検査に分類されていますが、認知機能を反映することをこれまでに報告してきました。

 

以上、脳MRI健診とは「MRI検査」しておしまいというものではありません。「脳の健康」を正しく評価するためには画像以外の項目が非常に重要です。