脳MRI健診から得られたささやかな新知見

アルツハイマー病では記憶の障害が最初に起こるのに対して、脳血管性認知障害では遂行機能障害がその特徴であると言われてきました。私たちの経験でも、潜在性脳梗塞がある(多発する)と遂行機能が障害されますが、さらに慢性腎臓病でも遂行機能が障害されることを示しました。また、アパシーの評価が脳血管性認知障害との関連で重要ではないかということが、あちこちで言われていました。Starksteinアパシースケールを出雲のグループが和訳したものは既にあったので、これを(勝手に)ビジュアルアナログ化しました。ビジュアルアナログ化することで総得点は正規分布に近くなり、各項目の動きも定量的に評価しやすくなりました。まず高血圧と深部白質病変がアパシーに関与することを2009年の論文にまとめました。高血圧とアパシーの相関はその後の検討で、独立した相関ではなく、深部白質病変を介する間接的なもののようだということになりましたが、深部白質病変によって生じる症候としてはアパシーの再現性が良いことを確認できました。深部白質病変の成因に関しても、加齢や高血圧のような確立した危険因子に加えて、炎症(おそらくアテローマ硬化比較的大きな動脈の動脈硬化を反映する)の関与をみとめました。また、深部白質病変に伴うアパシーがあると身体活動度が低下し、運動習慣が少なく、フレイルにもなりやすいことがわかりました。このような身体面の脆弱性があると、認知機能も低下しやすくなります。身体面の脆弱性を示すものの一つに歩行速度の低下がありますが、3 m Timed Up and Go testに負荷を加えた二重課題歩行は(身体機能よりも)認知機能を反映することは前述したとおりです。身体活動度が低下すると、アルツハイマー病で最初に萎縮する脳部位である海馬の萎縮も促進されるようですが、このテーマは継続して検討中です。