睡眠薬を服用しつづけると認知症になる?

不眠症はよくある睡眠障害の一つで、成人の30%以上が入眠困難中途覚醒早朝覚醒、熟眠困難などいずれかの不眠症状を有し、6〜10%のヒトが不眠症の状態です[注1] 。不眠症の治療にはベンゾジアゼピン系の薬(いわゆる睡眠薬)が安易に使われてきました。フランスの一般住民では、認知症発症リスクは睡眠薬使用により1.6倍になるという報告があります [Ref. 1] 。一方では、ごく最近の研究で気分障害の患者では抗不安薬によって認知症のリスクが増加することはなかったと報告されています[Ref. 2] 。一般人が用いる睡眠薬としてではなく、患者に投与する抗不安薬としてベンゾジアゼピン系の薬を使用する場合には、認知症リスクはないのでしょうか?それともベンゾジアゼピン系の薬の使い方が時代とともに適正化されてきたのでしょうか?そもそも睡眠薬は無期限に長く服用するものではありません。睡眠薬を服用しつづけると認知症になる?」のかに関する文献を集めてメタアナリシスをするよりも(もちろんこの点に関する解析は学術的には重要です)、ここで大事なのは睡眠薬の適正使用を徹底することです。不眠症が治ったら適切な時期に睡眠薬を減量もしくは休薬することを考えて、主治医と相談してください。

 

西鉄ライオンズの強打者だった豊田泰光(1935〜2016)のことを小林秀雄が書いています。誰もが嫌がるスランプの時はどうするのかと問われた豊田泰光は「よく食って、よく眠って、ただ、待っている」と答えたそうです [注2] 。そういうことができるなら、そもそも不眠症などならなくてすむ(睡眠薬も不要)でしょう。

 

注1:厚生労働科学研究班・日本睡眠学会ワーキンググループ作成「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」2013年6月25日 初版、2013年10月22日 改訂より引用

注2:スランプ 考えるヒント (小林秀雄、文春文庫)

Ref. 1: Billioti de Gage S, Bégaud B, Bazin F, Verdoux H, Dartigues JF, Pérès K, Kurth T, Pariente A. Benzodiazepine use and risk of dementia: prospective population based study. BMJ2012;345:e6231

Ref. 2: OslerM, Jørgensen MB. Associations of Benzodiazepines, Z-Drugs, and Other Anxiolytics With Subsequent Dementia in Patients With Affective Disorders: A Nationwide Cohort and Nested Case-Control Study. American Journal of Psychiatry Ahead of Print07 Apr 2020