ヨガと脳の健康

ヨガの歴史は長く(2000年以上昔のインドに由来する)、必然的に多くの流派と、身体操作にも様々な違いがあります。しかし、ヨガの真髄が「心と身体の融合を目的とする」ことに変わりはありません。西洋でヨガが流行しだしたのは20世紀に入ってからで、研究論文は1948年から出現し、2000年をまたいで急激に増加しています[Ref. 1] 。一般的にヨガは運動量としては軽度(2-2.9 MET [注1] )です。したがってヨガはどちらかというとエクササイズというより、マインドフルネス(瞑想)に重きをおくものでしょう。ヨガの医学的効果としては、心血管系疾患、糖尿病、筋肉・骨格系のみならず、不安やうつなどのメンタルヘルスにも良い効果がみとめられています。さらに高齢化社会で増加する認知症アルツハイマー病を、ヨガによって予防できるのではないかと期待されています。

 

アメリカ心臓病学会/アメリカ心臓協会のデータベースを用いて、喫煙に対するグループ療法、地中海食的食習慣、ウオーキング、ヨガの4つの生活習慣のどれが心血管系疾患リスクを減少させるかについて解析されています[Ref. 2] 。もっとも効果があったのはヨガで、次にウーキング、地中海食の順でした。禁煙できた場合の効果はもっとも大きいものの、禁煙自体の成功率が低いため、喫煙に対するグループ療法の効果は不十分でした。ヨガには高脂血症を改善し、血圧を下げ、体重を減らす効果もあります。ヨガのような「良い生活習慣」は、用具や高価な薬剤が不要で、自宅や近場でできるという利点も強調されています。

 

ヨガが片頭痛を改善することも報告されています。片頭痛は生活の質を低下させるだけでなく、脳卒中のリスクにもなります。片頭痛脳卒中に関するメタアナリシスでは、片頭痛のあるヒトの脳卒中リスクは1.4倍ほどに上昇していました[Ref. 3] 。このリスク上昇は、前兆のある片頭痛にのみにみとめられました。片頭痛に対しては薬物療法があり、新規薬剤としてもcalcitonin gene-related peptide (CGRP) に対するモノクローナル抗体が有望な結果を示しつつあります[注2] 。インドにおいて行なわれたランダム化比較試験では、月に4回以上/14回未満の片頭痛発作のあるヒト160人を、通常治療群もしくは通常治療に加えてヨガを行なう群(最初の1ヶ月間は週3日来院してもらって、その後は自宅で週5日2ヶ月間ヨガを行なう)に無作為化割付しています[Ref. 4] 。その結果、両群ともに症状は改善しましたが、ヨガを行なった群で効果はより大きく、頭痛の頻度・程度ともにより改善し、薬の服用量も減少していました。ヨガはそれほど費用がかからず、安全で、片頭痛の通常治療を「機能拡張」することができるようです。

 

注1:METはmetabolic equivalent of taskの略。1 METは1 kgの体重あたり1時間に1 kcalを消費する活動量で、おおよそ静かに座っている時に消費するエネルギーに相当する。

注2:2018年9月27日、インディアナポリス―イーライリリー・アンド・カンパニー(以下、リリー)(NYSE:LLY)は、米国食品医薬品局(FDA)が、成人の片頭痛の予防治療を適応とする EmgalityTM (galcanezumab-gnlm) 120 mg 注射薬を承認したことを発表しました。Emgalityはカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に結合するヒト化モノクローナル抗体で、CGRPの受容体への結合を阻害します。Emgalityは、月1回皮下投与する自己注射薬です。(日本イーライリリー株式会社プレスリリース、2018年10月4日)

Ref. 1: Gothe NP, Khan I, Hayes J, Erlenbach E, Damoiseaux JS. Yoga Effects on Brain Health: A Systematic Review of the Current Literature. Brain Plast2019;5:105-122.

Ref. 2: Chu P, Pandya A, Salomon JA, Goldie SJ, Hunink MG. Comparative Effectiveness of Personalized Lifestyle Management Strategies for Cardiovascular Disease Risk Reduction. J Am Heart Assoc2016;5:e002737.

Ref. 3:Mahmoud AN, Mentias A, Elgendy AY, Qazi A, Barakat AF, Saad M, Mohsen A, Abuzaid A, Mansoor H, Mojadidi MK, Elgendy IY. Migraine and the risk of cardiovascular and cerebrovascular events: a meta-analysis of 16 cohort studies including 1 152 407 subjects. BMJ Open2018;8:e020498.

Ref. 4: Kumar A, Bhatia R, Sharma G, Dhanlika D, Vishnubhatla S, Singh RK, Dash D, Tripathi M, Srivastava MVP.Effect of yoga as add-on therapy in migraine (CONTAIN): A randomized clinical trial.Neurology 2020 [Online ahead of print].