高血圧はアルツハイマー病の原因?

だいぶん以前のことですが、収縮期高血圧に対するランダム化比較試験が実施されたことがあり、やはりというか、今日の感覚からすると当然のことですが、プラセボを投与された対照群に脳卒中が多く発症したため、試験は早期に中止され、その後は経過観察が継続されました。最終的に降圧治療群では認知症は55%も減少し、認知症の病型別では特にアルツハイマー認知症の減少が顕著だったので、「アルツハイマー病の原因は高血圧である」とする意見が出てきました。しかし、常識的な解釈は、アルツハイマー病になりかかったヒトに、高血圧未治療群でより多く出現する潜在性脳血管障害が合併したため認知機能が悪化し、あたかもアルツハイマー病が発症したように見えたということでしょう(アルツハイマー病変と脳血管障害が合併した混合型認知症です)。高血圧はアルツハイマー病の原因ではありません。が、「高血圧を治療すれば、アルツハイマー病が予防できる」というのはある意味本当です。

 

高血圧の治療により認知症が予防できるかについてはハッキリしていません。上段でも述べたように、降圧治療群に対して、全く治療しない対照群を設定することは倫理的に許されず、強力な研究デザイン(ランダム化比較試験)を計画できないからです。厳格な血圧のコントロールを目標とするSPRINT研究や降圧療法と高脂血症の治療効果を検証するHOPE-3トライアルでも明確な結論は得られていません。それでもこの2つの研究を含む14研究のメタアナリシスでは、認知症発症と認知機能低下は降圧療法により抑制されていました。認知症予防の観点からは、高血圧を治療して悪いことはない」くらいは言えそうです。他のメタアナリシスでは「単純に高血圧が悪い」というだけでなく、血圧値のバラツキが大きいことや起立性低血圧も認知症リスクでした。これは認知症予防のためには「高血圧」という病態に対して様々な角度からの見方が重要であり、「そのヒトに個別化」した対応が必要であることを示しています。