白質病変の迷走

MRI検査の出始めのころには、T2強調画像で「白く光る」病変に目が眩くらんでいました。白く光ってハッキリ見えるのですから、気になるのは仕方ありません。しかしT2強調画像で同じように「白く光る」病変でも、T1強調画像で明らかに「黒く抜ける」ものと、T1強調画像ではほとんど見えない病変の2つに分かれることが明らかとなってきました。すなわち点状の深部白質病変は病理学的にみて虚血性変化ではなく、ゆ合性から広汎病変となっていくと虚血性変化が著明となるというものです(また、脳室周囲高信号域は虚血性変化ではないと記載されています)。つまり白質病変はそもそも虚血性変化としては軽度で、多くの場合は完全な組織破壊を伴うものではないということです。

 

かなり極端な(脳室周囲を取り囲むように広がる)深部白質病変を特徴とする脳血管性認知症の1つにビンスワンガー病があります。ところが全く認知症のない健常高齢者の約2%には広汎な深部白質病変がみとめられます。ビンスワンガー病と健常高齢者の差はどこにあるかというと、まず合併するラクナ梗塞の数が圧倒的に異なります。ビンスワンガー病では数個以上の小梗塞があるのが普通ですが、広汎な白質病変を有する健常高齢者ではラクナ梗塞は1個とか、無いこともマレではありません。T2強調画像では同じように「白く光って」見え、同じように「広汎」であっても、動脈硬化の程度はかなり異なっているのです。