アルツハイマー病とビンスワンガー病

脳血管性認知症がはっきりとした臨床単位として取り上げられたのは、1894年のドイツ精神医学会年次総会でした。この学会において、ビンスワンガーはのちにビンスワンガー病と呼ばれることになる「皮質下脳炎」および「動脈硬化性脳変性」の二つの病型を提示しました。次いで演壇に立ったアルツハイマーは、ビンスワンガーが述べた二番目の病型に相当する「動脈硬化性脳萎縮」について報告しました。このような経過を経て、脳血管性認知症の概念が成立したのは1904年ごろのことです。今日ではアルツハイマーの方が圧倒的に有名ですが、脳血管性認知症概念の確立に深く関わったビンスワンガーはアルツハイマーと同時代のヒトだったのです。以上については、原田憲一. 血管性痴呆およびアルツハイマー型痴呆概念の誕生. 100年前の医学史回顧—その1. 血管性痴呆. 精神医学37:1132-1146,1995. を参考にしました。

 

ビンスワンガー病は、広汎な白質病変が特徴的で、多発性のラクナ梗塞を伴う血管性認知症の一病型です。ビンスワンガー病で認知機能が低下する機序は、広汎な白質病変により神経伝達が障害され、病変がない大脳皮質の機能が低下(機能的離断)することです認知症が発症する直前には、深部白質領域の脳血流はすでに低下していても、(血液中から酸素を取り込む割合を上げて)酸素代謝がギリギリ保たれている貧困灌流の状態となっていることがあります。この貧困灌流の状態で長く持ちこたえることはできないので、やがて深部白質障害により機能的離断となり大脳皮質機能が低下し、認知症となります。