動かないからボケるのか、ボケたから動かないのか?

身体活動度が高い(からだをよく動かす)ヒトは認知症になりにくいと言われている。しかしながら逆に、認知症になった(なりかけた)状態だからこそ、からだを動かさないのかもしれない。

 

35歳から55歳までの一般住民10,308人を28年間追跡し、身体活動度と認知症発症の関連をみた研究がある [Ref. 1] 。最終的に認知症となった群とならなかった群に分けて、28年間の身体活動度(量)の軌跡を比べてみると、認知症群では発症の9年前から身体活動度が低下してきていた(認知症にならなかった群との比較)。追跡期間を通しての身体活動度平均値と認知症発症には関連がなかったので、著者らは「潜在的認知症になりかかった状態(原因)で身体活動が低下している(結果)」のではないかと推察している。

 

そうではなくて「動かない」と人は意外と速く病む(ボケる)というだけの話—ではないのか?!

 

Ref. 1:Sabia S, Dugravot A, Dartigues JF, Abell J, Elbaz A, Kivimäki M, Singh-Manoux A. Physical activity, cognitive decline, and risk of dementia: 28 year follow-up of Whitehall II cohort study. BMJ 2017;357:j2709

最近評判の良い地中海食

地中海食とは、オリーブオイル・果物・ナッツ・野菜・穀類を多量に、魚・鶏肉を比較的多く、乳製品・赤みの肉・加工した肉・甘いものを少なくし、料理と一緒に適量のワインを摂取する食事である。

 

糖尿病もしくは少なくとも3つの危険因子をもつ7447名(55歳から80歳、57%が女性)をランダム化し、中央値で4.8年追跡した研究がある [Ref. 1] 。エクストラバージンオリーブオイル(1週間で約1リットル)もしくはミックスナッツを毎日30グラム(くるみ15グラム、ヘーゼルナッツ7.5グラム、アーモンド7.5グラム)のいずれかの介入を行ない、その効果が検証された。多変量調節ハザード比と95%信頼区間は、オリーブオイル群で0.70(0.54-0.92)、ナッツ群で0.72(0.54-0.96)と、ともに有害事象(脳卒中心筋梗塞、死亡のいずれか)を3割ほど減少させた。この研究では、地中海食は脳卒中予防に特に効果があった。

 

地中海食は「脳を健康にする」ようだが、認知症にはどうだろうか?

 

Ref. 1:Estruch R, Ros E, Salas-Salvadó J, Covas MI, Corella D, Arós F, Gómez-Gracia E, Ruiz-Gutiérrez V, Fiol M, Lapetra J, Lamuela-Raventos RM, Serra-Majem L, Pintó X, Basora J, Muñoz MA, Sorlí JV, Martínez JA, Martínez-González MA; PREDIMED Study Investigators. Primary prevention of cardiovascular disease with a Mediterranean diet. N Engl J Med 2013;368:1279-1290

 

高血圧と脳

年齢とともに高血圧の頻度は増加する。55歳と65歳で正常血圧のひとの生涯高血圧発症リスクは90%である (10人中9人は高血圧となる!)[Ref. 1] 。一方では、70歳から85歳までの15年間に認知症を発症した群の血圧は、追跡開始時には高く、認知症発症後には低下してくるとの報告もある [Ref. 2] 。

 

1909年〜1935年生まれの一般住民4,057例を追跡し、中年期(平均50歳)と老年期(平均76歳)の血圧と脳MRI所見との関連について解析した研究がある [Ref. 3] 。老年期に血圧が高値であると—特に中年期に高血圧でなかったものにおいて—脳小血管病(白質病変や脳微小出血)が多かった。一方、中年期に高血圧があって、老年期に血圧が下がっていたものでは脳容積が小さかった(脳が萎縮している)。高血圧が脳に及ぼす影響は人生の時期により異なっている。

 

年をとると高血圧となり、血圧が下がったら下がったで、認知症になる!(なっている?)

 

Ref. 1: Vasan RS, Beiser A, Seshadri S, Larson MG, Kannel WB, D'Agostino RB, Levy D. Residual lifetime risk for developing hypertension in middle-aged women and men: The Framingham Heart Study. JAMA 2002;287:1003-1010

 

Ref. 2: Skoog I, Lernfelt B, Landahl S, Palmertz B, Andreasson LA, Nilsson L, Persson G, Odén A, Svanborg A. 15-year longitudinal study of blood pressure and dementia. Lancet 1996;347:1141-1145

 

Ref. 3: Muller M, Sigurdsson S, Kjartansson O, Aspelund T, Lopez OL, Jonnson PV, Harris TB, van Buchem M, Gudnason V, Launer LJ; Age, Gene/Environment Susceptibility-Reykjavik Study Investigators. Joint effect of mid- and late-life blood pressure on the brain: the AGES-Reykjavik study. Neurology 2014;82:2187-2195

減塩後進国 日本

2015年より食塩の摂取目標値が引き下げられ、1日あたり男性8 g、女性7 gと厳しくなった。高血圧患者は、食塩摂取を6 g/日未満とするように指導されている。しかしながら24時間蓄尿による調査では、日本人の塩分摂取量は1日あたり男性14 g、女性11.8 gという結果もあり、日本は「減塩後進国」というしかない [注1] 。

 

17カ国101,945人の早朝空腹時の尿からナトリウムとカリウムの24時間排出量を算出し、平均3.7年追跡した結果が報告されている [Ref. 1] 。予想通りというか、やはりナトリウム高排出群(食塩摂取過剰)では、死亡と心血管系疾患の発症が多かった(オッズ比と95%信頼区間は、1.15 [1.02-1.30])。ナトリウム高排出と死亡/心血管系疾患増加の関連は高血圧患者において顕著であった。ところが、意外なことにナトリウム低排出群でも死亡と心血管系疾患の発症が多かった。これは「食塩制限が必要な病気のために治療や指導により食塩摂取をひかえていて、またそのような病気があるから心血管系疾患を発症しやすい」など、原因と結果が逆になっているのかもしれない(観察研究の限界とも言える)。

 

つい最近まで人類の食塩摂取量は1日あたり2g以下だったのに![注2]

 

注1:道は険しい? ”減塩社会” への挑戦(クローズアップ現代 No.3546 2014年9月4日放送)

 

注2:約1万年前に農耕が始まったが、それ以前の旧石器時代—狩猟と採集の時代—の食塩摂取量は約1.7 g/日であると試算されている。

Eaton SB, Konner M. Paleolithic nutrition. A consideration of its nature and current implications. N Engl J Med 1985;312:283-289

 

Ref. 1O'Donnell M, Mente A, Rangarajan S, McQueen MJ, Wang X, Liu L, Yan H, Lee SF, Mony P, Devanath A, Rosengren A, Lopez-Jaramillo P, Diaz R, Avezum A, Lanas F, Yusoff K, Iqbal R, Ilow R, Mohammadifard N, Gulec S, Yusufali AH, Kruger L, Yusuf R, Chifamba J, Kabali C, Dagenais G, Lear SA, Teo K, Yusuf S; PURE Investigators. Urinary sodium and potassium excretion, mortality, and cardiovascular events. N Engl J Med 2014;371:612-623

 

MRIで初めてみつかる「かくれ」脳梗塞

画像診断技術—特にMRI—の進歩により、明らかな症状をともなわない「無症候性脳梗塞」が診断されるようになった [注1] 。まったく「無症候」というわけでもないので、「潜在性脳梗塞」の方が正確であろう。「かくれ脳梗塞」というくだけた言い方もある(学術的には不適切かもしれないが)。

 

フラミンガム研究 [注2] は、元々の追跡集団の子孫とその配偶者を新たな追跡集団とした観察研究を1971年から開始した [Ref. 1] 。この新規追跡集団2040名中10.7%に潜在性脳梗塞があった。潜在性脳梗塞の頻度は、年齢とともに増加した(30から49歳で<8%、70から89歳で>15%)。潜在性脳梗塞の多く(84.1%)は1個のみで、部位としては大脳深部領域—基底核52%、皮質下33%—に多かった。潜在性脳梗塞の危険因子としては高血圧が主なもので、心房細動や血中ホモシステイン高値も関連があった。すなわち潜在性脳梗塞は—特殊な脳梗塞などではなく—脳小血管病によるラクナ梗塞と同じもの(たまたま明らかな症状がなかっただけ)である。

 

逃げもかくれもせぬ「かくれ脳梗塞

 

注1:脳ドックガイドライン2014([改訂・第4版] 響文社)参照のこと。

 

注2:フラミンガム研究は、1948年に5209人の地域住民を対象として、アメリカ合衆国マサチューセッツ州フラミンガムで始まった—当初は心血管系疾患予防に特化した—疫学研究である。

 

Ref. 1: Das RR, Seshadri S, Beiser AS, Kelly-Hayes M, Au R, Himali JJ, Kase CS, Benjamin EJ, Polak JF, O'Donnell CJ, Yoshita M, D'Agostino RB Sr, DeCarli C, Wolf PA. Prevalence and correlates of silent cerebral infarcts in the Framingham offspring study. Stroke 2008;39:2929-2935

認知症が増加している!?

高齢者の人口が増加しつづける社会では、当然のように認知症の有病率も増加すると予想される。しかしながら、認知症(発症率)は減少しているとするいくつかの報告がある。

 

フラミンガム研究 [注1] では1975年より認知症発症率の調査を開始した [Ref. 1] 。2008年までの30年間を4つの区分として検討した結果、認知症の発症率は1997-1983年の3.6/100人(5年累積発症率)から2004-2008年の2.0/100人へと直線的に減少した(44%もの減少!)。認知症減少は、「高校卒業以上」の教育歴を持つものに限られていた。認知症の病型別では、血管性認知症が有意な減少を示した— しかしながらこれは血管危険因子や脳卒中の減少では説明できなかった。すなわち「認知症が減少しているのは(少なくともフラミンガムでは)確かなようだが、教育が普及したこと以外には格別な理由がみあたらない」という結果となっている。今後、認知症を減少させた仕組み—通常の多変量解析ではデナイのではないか—について具体的に判明すれば、より効果的に認知症を予防することができるはずである。

 

最近、認知症が増加しています(という注意喚起が増加中)。ご注意ください!?

 

注1:フラミンガム研究は、1948年に5209人の地域住民を対象として、アメリカ合衆国マサチューセッツ州フラミンガム(ボストンの近く)で始まった—当初は心血管系疾患予防に特化した—疫学研究である。

 

Ref. 1:Satizabal CL, Beiser AS, Chouraki V, Chêne G, Dufouil C, Seshadri S. Incidence of Dementia over Three Decades in the Framingham Heart Study. N Engl J Med 2016;374:523-532

 

主観的な物忘れ—「気にしすぎ」なのか?

高齢者に(軽度の?)物忘れがある場合、「年相応」であり、「正常範囲」とすることがこれまでは多かった。しかしながら、主観的な物忘れもアルツハイマー病の初期症状として重要ではないかという観点から、詳細に検討した報告がある。

 

神経内科の外来を受診した50から85歳までの大脳白質病変のある連続例(最終的に500例を解析)において、主観的(自覚的)物忘れ(表1)と各種認知機能検査、MRI画像による海馬容積の測定などをおこなった [Ref. 1] 。主観的物忘れのあるものでは海馬容積が—特に認知機能検査正常群において—減少していた(年齢、性別、教育歴、うつ症状、全脳容積、白質病変容積で補正)。したがって、主観的であっても物忘れの自覚があったら(認知機能検査では正常と判定されても)アルツハイマー病のごく初期を見ている可能性がある。

 

高齢者が物忘れを訴えた時、それは「気のせい」ではないかもしれない!

 

Ref. 1:van Norden AG, Fick WF, de Laat KF, van Uden IW, van Oudheusden LJ, Tendolkar I, Zwiers MP, de Leeuw FE. Subjective cognitive failures and hippocampal volume in elderly with white matter lesions. Neurology 2008;71:1152-1159

 

表1 自覚的認知機能障害に対する質問表問                 

記憶の問題

自分自身で物忘れがあると思いますか?        → ない、少しある、ある程度ある、かなりある

  物忘れは年々悪くなっていますか?                → いない、少しある、かなりある

言葉を思い出すことに困ることがありますか?     → ない、少しある、ある程度ある、かなりある

  言葉を思い出せないことが年々ひどくなっていますか?       → いない、少しある、かなりある 

家族や友人の名前が出てこないことがありましたか?                → ない、あった

同じ話を2度すると指摘されたことがありますか?                    → ない、ある

1−2日前のことを忘れてしまっていたことが(時々以上)ありますか?         → ない、ある

物忘れが気になって悩ましいですか?                        → ない、ある

物忘れのために日常生活で困ったことがありましたか?                → ない、ある

物をどこかに置き忘れたりすることが(時々以上)ありますか?            → ない、ある

火をつけたまま消すのを忘れたりしたことが(時々以上)ありますか?         → ない、ある

約束を忘れたことが(時々以上)ありますか?                    → ない、ある

近所で道に迷ったことや、良く知っている人を分からなかったことがありますか?    → ない、ある

遂行機能関連

計画的に事を進めることが困難ですか?       → ない、少しある、ある程度ある、かなりある

  計画的に事を進めることが年々困難になっていますか?      → いない、少しある、かなりある

集中力に問題がありますか?            → ない、少しある、ある程度ある、かなりある

  集中力が年々進行性に低下していますか?            → いない、少しある、かなりある

考えることや行動が本来できていたより遅いですか? → ない、少しある、ある程度ある、かなりある

  考えることや行動が年々遅くなっていますか?          → いない、少しある、かなりある

その他

⑮ 以前と比べて、疲れているように感じますか?                   → ない、ある

⑯ いろいろなことに興味が持てなくなってきていますか?         → 興味はある、失っている