「動かない」とヒトは病む2

動かないからボケたのか、ボケたから動かないのか?どちらか分かりにくいこともあります。身体活動度と認知症発症の関連をみた研究では、身体活動度が低下していると追跡開始から比較的すぐ(10年以内)に認知症を発症していましたが、追跡期間を通しての身体活動度と認知症発症には関連がありませんでした。したがって身体活動度低下は本当のリスクではなく、認知症になりかけた状態で動かなくなっているという結論です。しかし、この結果は認知症一歩手前で短期間でも身体活動が低下すると、坂道を転げ落ちるように認知機能が低下して、明らかな認知症となってしまうという解釈も可能です。

 

—と書いてから約5年が過ぎて、結論は大きく変わってきた。

 

アルツハイマー病の経過は長いため中年期での身体活動度の評価と20年以上の追跡が望ましいという前提で行なわれたメタアナリシスがあります。このメタアナリシスでは、長期間の追跡調査においても、高い身体活動度は認知症全般とアルツハイマー病を減少させていました。身体活動度の量(高齢期に測定)としては、週に3時間以上もしくは9 MET(注)以上により認知症は減少しましたが、6時間以上もしくは18 MET以上では頭打ちとなっていました。

 

からだをよく動かすヒトはアルツハイマー病になりにくく、「動かない」とヒトは病む(ボケる)のです。

 

注:METmetabolic equivalent of taskの略です。1 MET1 kgの体重あたり1時間に1 kcalを消費する活動量で、おおよそ静かに座っている時に消費するエネルギーに相当します。