チョコレートと脳卒中

チョコレートとは栄養成分表示のいちばん最初に「カカオ」と書かれているものです。最初に「砂糖」があったら、それはチョコレートではなく、チョコ味をつけた砂糖のかたまりということです[注1] 。それでは「本当の」チョコレートは健康に良いのでしょうか。スウエーデンの男性37,103例を対象にして、チョコレートの消費量と脳卒中発症について検討した報告があります[Ref. 1] 。1990年代のスウエーデンにおけるチョコレート消費の90%はミルクチョコレートで、カカオ含有量はおおよそ30%でした。チョコレートの有益性(脳卒中の予防効果)は高血圧のない群で著明でした。さらに同一論文内で本研究を含む5つの研究のメタアナリシスを行ない、チョコレート摂取量最大群では脳卒中の相対危険度は0.81まで減少することを示しています(最小量群との比較)。確かにチョコレートは脳卒中を予防する効果があるようですが、高血圧などの強力な危険因子を持っているヒトはそちらを先に片づけておくほうがいいでしょう。

 

チョコレートによる心血管系疾患の予防効果はカカオ豆に含まれる大量のポリフェノールによると考えられています。果物、野菜、お茶、チョコレート、ワイン、オリーブオイルなどにはポリフェノールが多く含まれていますが、なかでもカカオ豆のポリフェノール量は最大級です。ココアやチョコレートが肥満や糖尿病、高血圧と関連づけられていた時代もあったそうですが、最近はその「健康に良い」効果が見直されています。先に述べたようにチョコレートをたくさん食べると脳卒中など心血管系疾患が減少することが疫学研究により示されています。カカオの有益性の理由の一つとして、カカオにより血管内皮機能が改善し、血圧が低下することがあげられています[Ref. 2] 。

 

憧れはスリムでSexyなBodyなのに ミントチョコがやめられなかった[注2]

 

注1:「最後のダイエット(p58)」 (石川善樹、マガジンハウス)

注2: 作詞Nokko

Ref. 1:Larsson SC, Virtamo J, Wolk A. Chocolate consumption and risk of stroke: a prospective cohort of men and meta-analysis. Neurology2012;79:1223-1229

Ref. 2: Ludovici V, Barthelmes J, Nägele MP, Enseleit F, Ferri C, Flammer AJ, Ruschitzka F, Sudano I. Cocoa, Blood Pressure, and Vascular Function. Front Nutr2017;4:36. 

脳卒中と睡眠

ぐっすり眠ることが大事なことは直感的に理解できる。睡眠不足は生活の質をそこない、肥満や高血圧、心血管系疾患など生活習慣病になりやすくする。最高の睡眠にとってもっとも重要なことは—「最初の90分」をしっかり深く眠ることができれば—良質の睡眠をえることができるということらしい [注1] 。つまり睡眠は量(=睡眠時間)よりも質が大事である(より正確に言うと、質の良い睡眠を7-8時間は取った方がよいということ)。

 

睡眠時間(6-8時間より多いか少ないか)によって脳卒中になりやすいかについての追跡調査(追跡開始時平均61.6歳、9,692例の健常高齢者を9.5年追跡)と、11の先行研究と本研究を含めたメタアナリシス(総数559,252例)も行ったものが報告されている [Ref. 1] 。どちらの結果でも、特に長い睡眠時間(8時間より長く眠る)の方が脳卒中になりやすかった。これは観察研究なので長時間の睡眠が脳卒中の原因であると決めつけることはできない。むしろ脳卒中になりかかった(脳の)状態が長い睡眠時間をもたらしている可能性もある。

 

「果報は寝て待て」ない のか?

 

注1:「スタンフォード式 最高の睡眠」(西野精治著、サンマーク出版)は、科学的根拠にもとづいて、より良く眠る方法について書かれている。

 

Ref. 1: Leng Y, Cappuccio FP, Wainwright NW, Surtees PG, Luben R, Brayne C, Khaw KT. Sleep duration and risk of fatal and nonfatal stroke: a prospective study and meta-analysis. Neurology 2015;84:1072-1079

脳が好きなエクササイズ

アルツハイマー病で最初に脳萎縮が起こるのは海馬といわれる部位である。海馬は記憶をつかさどり、海馬が萎縮すると記憶力が衰える。一方、からだをよく動かすヒトでは海馬が萎縮しにくく、アルツハイマー病(認知症)になりにくいと言われている。エクササイズ有酸素運動)により、認知症は防げるだろうか?

 

軽度の血管性認知障害 [注1] の70人(平均年齢74歳)を有酸素運動群と対照群に割り付けたランダム化比較試験の結果が報告されている [Ref. 1] 。有酸素運動は、10分のウオームアップ+40分の歩行+10分のクールダウンを週3回6ヶ月間おこなった。有酸素運動群では対照群と比較して、アルツハイマー病の特徴的所見(すなわち有害事象)を評価するスケールが改善した。血管性認知障害でもエクササイズによって良くなるのはアルツハイマー病関連なのだろうか?小規模研究なので「これで決まり」ではないが、かなり有望なエビデンスである。

 

太るな、たばこを吸うな、歩け歩け、もっと歩け![注2]

 

注1:血管性認知障害とは、血管障害による認知機能障害の総称であり、「認知症」であることを必要条件としない。この概念が出てきたのは以下の理由による。

(1)代表的な認知症の診断基準は、アルツハイマー病を基準に作られており、血管性認知症の特徴を反映するとは限らない。(2)側頭葉内側面が初期に障害されるアルツハイマー病では症状の中核は記憶障害であるが、脳血管障害は遂行機能(前頭葉機能)障害を特徴とする。(3)認知症の存在を診断基準の必要条件とすると、診断の時点で既にかなりの非可逆性障害があり、治療可能な時期を逃してしまう. 逆に血管性認知障害の半数は認知症に至っておらず、これら軽症例ではより良好な治療効果が期待できる。(4)ある程度以上の大きさをもった脳卒中による認知症脳卒中後遺症として別に扱った方がよい。(5)主に多発性小梗塞と白質病変を予防や治療の標的とする。このように治療や予防を重視する観点からは、血管性「認知症」としてとらえるよりも血管性認知障害の考え方をとる方が合理的であろう。

 

注2: “Do not grow fat, Nor smoke, Walk, walk and walk!”

名鉄病院、市原義雄より引用(http://www.meitetsu-hospital.jp/kakuka/sogo_doctor.html

 

Ref. 1: Liu-Ambrose T, Best JR, Davis JC, Eng JJ, Lee PE, Jacova C, Boyd LA, Brasher PM, Munkacsy M, Cheung W, Hsiung GR. Aerobic exercise and vascular cognitive impairment: A randomized controlled trial. Neurology 2016;87:2082-2090

 

ワインと脳

言うまでもないが、大量飲酒やアルコール依存症となると健康によくない。しかしながら、軽度から中等度の飲酒では認知症脳卒中になるリスクが低いことがいくつかの研究により示されている。

 

軽度から中等度飲酒をあつかった観察研究(一般住民589人、平均80.1歳)では、総アルコール摂取量もしくはワインの摂取量が全脳容積と正の相関があった(飲酒すると脳が萎縮しにくい!?)[Ref. 1] 。ビールと蒸留酒には同様の関係はなかったので、保護効果は主としてワインに由来する。ワインの脳萎縮軽減(保護)効果は、ワイン(特に赤ワイン)に多く含まれる抗酸化物質(フラボノイドとポリフェノール)によるものかもしれない。この結果からすると赤ワインはからだ(脳に)によさそうだが、その証明のために必要なランダム化比較試験(強制的に飲む群と飲んではいけない群に振り分ける実験)を行うことは現実的に不可能であろう。

 

「適量のワインなら飲んだほうが良い」とは言えない。

 

Ref. 1: Gu Y, Scarmeas N, Short EE, Luchsinger JA, DeCarli C, Stern Y, Manly JJ, Schupf N, Mayeux R, Brickman AM. Alcohol intake and brain structure in a multiethnic elderly cohort. Clin Nutr 2014;33:662-667