メタボリックシンドロームと炎症と動脈硬化

つまめる脂肪—皮下脂肪—はそれほど悪くなく、つまめない脂肪—内臓脂肪—が悪いことがわかってきました。内臓脂肪の増加はインスリン抵抗性[注1] を引き起こし、虚血性心疾患や脳卒中などの原因となります。内臓脂肪の増加による中心性肥満を主たる病態とする症候群がメタボリックシンドロームで、比較的新参者の心血管危険因子として注目されています。中心性肥満(腹囲の増加)に加えて中性脂肪の増加(またはHDLコレステロールの減少)、高血糖、高血圧の3うのうち2つがあることがメタボリックシンドロームの診断基準となっています。また新たな血管危険因子としてもっとも有望なものの一つと目されている高感度C-reactive protein(CRP)は中性脂肪の増加やHDLコレステロールの減少、中心性肥満、血圧上昇、空腹時血糖の増加と関連があり、すなわち炎症とメタボリックシンドロームの関連が示唆されています。高感度CRPメタボリックシンドロームの関連が非常に密接であることから、高感度CRP増加をメタボリックシンドロームの診断基準の一つに加えてはどうかという主張もあります[Ref. 1] 。メタボリックシンドロームと炎症を結ぶ機序としては、脂肪細胞から分泌されるアデイポカインの関与が示唆されています[Ref. 2] 。メタボリックシンドロームではレプチンの増加、アデイポネクチンの減少、interleukin-6(IL-6)やtumor necrosis factor-α(TNF-α)などの炎症を引き起こすサイトカインの増加が報告されています。逆に炎症を抑制するIL-1βはメタボリックシンドロームで減少し、NADPH oxidaseによる酸化ストレスを増強する可能性がありますが、その機序の詳細に関しては不明な点も多いようです。

 

メタボリックシンドロームに高頻度に並存するものとして高尿酸血症があります。尿酸は抗酸化物質としての性質があることから、高尿酸血症には有益性があるのではないかとの考えもありましたが、細胞内に入った尿酸は血管拡張物質である一酸化窒素を阻害し、血小板凝集を増強し、炎症を引き起こすという有害作用をもたらすことが明らかとなりました。尿酸を下げることにより、新血管系疾患が減少するかというランダム化比較試験はないので、高尿酸血症動脈硬化の原因とは言えないのですが、尿酸は痛風と尿路結石の原因というだけではないようです。

 

Ref. 1: Ridker PM, Wilson PW, Grundy SM. Should C-reactive protein be added to metabolic syndrome and to assessment of global cardiovascular risk? Circulation2004;109:2818-2825.

Ref. 2: Srikanthan K, Feyh A, Visweshwar H, Shapiro JI, Sodhi K. Systematic Review of Metabolic Syndrome Biomarkers: A Panel for Early Detection, Management, and Risk Stratification in the West Virginian Population. Int J Med Sci2016;13:25-38.