店頭で売られているサプリは認知症を予防するか?

結論—全く効果はない。以上!

 

もう少し丁寧に語ってみると、最新の系統的文献検索(システマテイックレビュー)[Ref. 1] によると「店頭で売られているサプリ [注1] は認知機能低下や軽度認知機能低下、アルツハイマー認知症の予防において ”little or no benefit” である」ということです。この論文では、56の研究を同定しましたが、3分の1は企業より資金援助を受けていて、18はバイアスのリスクが高く解析から外しています。さらに細かく見ていくと、最初のデータベース [注2] 検索において11,087件の論文がヒットし、タイトルと抄録を見て(読んで)9,487論文を除外、手作業で見つけた185論文を加え、そのうち1,415の論文を読んだあげく残ったのが63件の論文(56研究)ということです。

 

やれやれといった感じでしょうか。

 

注1:サプリの内容は、オメガ3脂肪酸、大豆、銀杏の葉エキス、ビタミンB群、ビタミンDとカルシウム、ビタミンE、ビタミンCとベータカロテン、マルチビタミンについて一覧表にまとめてあります。

 

注2:Ovid MEDLINE、PsycINFO、EMBASE、Cochrane Central Registerのデータベースを使用しています。

 

Ref. 1: Butler M, Nelson VA, Davila H, RatnerE, Fink HA, Hemmy LS, McCarten JR, Barclay TR, Brasure M, Kane RL. Over-the-Counter Supplement Interventions to Prevent Cognitive Decline, Mild Cognitive Impairment, and Clinical Alzheimer-Type Dementia: A Systematic Review. Ann Intern Med 2018;168:52-62.

脳トレは有効か?

脳を鍛えるエクササイズ「脳トレ」が認知症を予防するかについては一致した見解はありません [Ref. 1] 。認知症になってしまうと脳トレは効果がないようですが、問題は認知症までいたってない—が、認知症になりそうな—ヒトに脳トレによる予防効果があるか(エビデンスはあるのか?)です。

 

最近ACTIVE試験 [注1] の10年後の結果が報告されています [Ref. 2] 。この試験は当初、記憶や問題解決能力、処理速度に関する3種類の脳トレと対照群の4つのグループについて、ランダム化比較試験により認知機能や日常生活機能の改善について検討したものです。その後認知症の定義を明確にして、また追加の脳トレも行なって10年間追跡し(この辺、研究デザインが込み入っていますが)、「処理速度に関する脳トレ」が認知症の発症を減少させることを示しました(対照群との比較でハザード比と95%信頼区間は0.71 [0.50-0.998])。しかしながら他に十分な研究がない現況では確定的なことはまだ言えないようです。

 

脳トレ認知症を予防するか?—まだ分からない!けれど脳トレを進んでやるようなヒトはやらなくても(当面)ボケないのでは。

 

注1:The Advanced Cognitive Training for Independent and Vital Elderly study (ACTIVE) 試験は日常生活が自立していた高齢者2,802名を対象にして、ランダム化比較試験により脳トレの効果を検討したものです。脳トレの有効性を示したものとしては最大規模のものです。

 

Ref. 1: Butler M, McCreedy E, Nelson VA, Desai P, Ratner E, Fink HA, Hemmy LS, McCarten JR, Barclay TR, Brasure M, Davila H, Kane RL. Does Cognitive Training Prevent Cognitive Decline?: A Systematic Review. Ann Intern Med 2018;168:63-68. 

 

Ref. 2: Edwards JD, Xu H, Clark DO, Guey LT, Ross LA, Unverzagt FW. Speed of processing training results in lower risk of dementia. Alzheimers Dement 2017;3:603-611.

飲酒と脳卒中

医学情報のエビデンスを手っ取り早く得るために皆がしているのは、メタアナリシスを探すことです。メタアナリシスは、系統的文献検索(システマテイックレビュー)を定量化したもので、エビデンスレベルは高くなります。もちろん「飲酒と脳卒中」に関しても(観察研究の)メタアナリシスはあると思いますが、ここでは原著を読むことにこだわってみたいと思います。

 

米国の一般住民12,433人(追跡開始時に45〜64歳)を中央値で22.6年間追跡した「中年時の飲酒と脳卒中のリスク」に関する研究があります [Ref. 1] 。飲酒量を少量(週3単位以下)、中等量(週4〜17単位)、大量(週18単位以上)—1単位はアルコール10 g—として、飲酒と脳卒中発症との関連について解析しています [注1] 。大量飲酒では脳梗塞発症増加傾向があり、少量から中等量(適量)飲酒での発症抑制効果はない—いわゆるJカーブ現象はない—という結果でしたが、いずれも(統計解析上)不明確なものでした。中等量以上の飲酒で脳出血の発症は増加していました。

 

脳梗塞と飲酒との関係について、この研究では明快な結果を得ることはできませんでした—メタアナリシスが必要なのでしょうか?

 

注1:コックス比例ハザードモデル—年齢、施設・人種、性別、教育、喫煙を共変量として調整(モデル1)。さらに、結婚しているか、LDLコレステロール、食事、身体活動度、追跡開始時点での虚血性心疾患と糖尿病などの共変量をモデル1に追加したものをモデル2としている。

 

Ref. 1: Jones SB, Loehr L, Avery CL, Gottesman RF, Wruck L, Shahar E, Rosamond WD. Midlife Alcohol Consumption and the Risk of Stroke in the Atherosclerosis Risk in Communities Study. Stroke 2015;46:3124-3130.

 

血圧を下げすぎてきつくはないか?

血圧が130/80 mmHg以上なら高血圧とする—と基準は厳しくなってきています。これは脳卒中の既往や糖尿病のない高齢高血圧患者の収縮期血圧を厳格に(120 mmHg以下を目標)コントロールすると、標準治療よりも心血管疾患の発症率や死亡率が低下したというランダム化比較試験の結果 [Ref. 1] にもとづいています。厳格な治療は—全体としては好結果をもたらすとしても—低血圧や失神、腎機能の増悪などを引き起こす可能性もあります。さらに降圧治療を受ける側がどう感じているかも重要です(「体調が良い」とか、「満足している」とか)。

 

そこでこのランダム化比較試験(SPRINT研究 [注1] )において、治療される側がどう感じているかという解析が行なわれました [Ref. 2] 。その結果、身体的および精神的状態評価やうつの指標、治療や薬剤に対する満足度、治療を遵守したか(できたか)などの各項目について、厳格治療群と標準治療群とでほぼ同様の結果でした。治療される側からみても「厳格な降圧療法は悪くない」ということです(少数の例外はもちろんあるでしょうけど)。ここまできちんとやられると、ちょっと「負けた」という感じがするほどです。

 

(治療される側が満足しているということは)それはそれで良いのでしょうけど、高血圧の基準を厳しくするより、食塩摂取量を減らす方が、日本ではずっといいのではないでしょうか。

 

注1:SPRINT研究については以下に詳しいまとめがあります。http://www.marianna-u.ac.jp/dbps_data/_material_/ikyoku/20160209nakayama.pdf

 

Ref. 1:SPRINT Research Group, Wright JT Jr, Williamson JD, Whelton PK, Snyder JK, Sink KM, Rocco MV, Reboussin DM, Rahman M, Oparil S, Lewis CE, Kimmel PL, Johnson KC, Goff DC Jr, Fine LJ, Cutler JA, Cushman WC, Cheung AK, Ambrosius WT. A Randomized Trial of intensive versus Standard Blood-Pressure Control. N Engl J Med 2015;373:2103-2116. 

 

Ref. 2:Berlowitz DR, Foy CG, Kazis LE, Bolin LP, Conroy MB, Fitzpatrick P, Gure TR, Kimmel PL, Kirchner K, Morisky DE, Newman J, Olney C, Oparil S, Pajewski NM, Powell J, Ramsey T, Simmons DL, Snyder J, Supiano MA, Weiner DE, Whittle J; SPRINT Research Group. Effect of Intensive Blood-Pressure Treatment on Patient-Reported Outcomes. N Engl J Med 2017;377:733-744. 

飲酒は適量でも脳に悪い(良くはない!)

「節度ある適度な飲酒」として、1日平均純アルコールで約20g程度 [注1] —という目安が示されています。しかしながら「適度な飲酒なら脳に良い」とは限りません。

 

30年という長期間追跡している英国の一般住民の集団から、ランダムに550人(平均年齢43歳、男性が約8割と多い)を選択し、飲酒量と脳MRI画像所見の関連について解析を行なった研究があります [Ref. 1] 。1週間に30単位以上(ここではアルコール10 mL [8 g] を1単位としている)の多量飲酒群では海馬萎縮 [注2] と判定されるオッズ比が5.8(95%信頼区間1.8—18.6、非飲酒群との比較)と増加していました。少量なら飲んだ方が良いのではという、いわゆる「Jカーブ現象」はみとめられず、飲酒量は多いほど悪いという結果でした。

 

「節度ある適度な飲酒」でも脳に良いということはない!

 

注1:厚生労働省のホームページから (http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/b5.html)

 

注2:左右の海馬でやや結果が異なりますが、1週間に30単位以上では左右ほぼ一致して萎縮ありと判定される。ここで示すオッズ比は右の値。

 

Ref. 1: Topiwala A, Allan CL, Valkanova V, Zsoldos E, Filippini N, Sexton C, Mahmood A, Fooks P, Singh-Manoux A, Mackay CE, Kivimäki M, Ebmeier KP. Moderate alcohol consumption as risk factor for adverse brain outcomes and cognitive decline: longitudinal cohort study. BMJ 2017;357:j2353.

 
 
 

副流煙による認知機能障害

ニコチンの代謝産物である(血液中や唾液中、尿中の)コチニンは喫煙者と非喫煙者を判別するもっとも良い指標です。非喫煙者においては、唾液中コチニン濃度は最近の(コチニンの半減期は16-25時間)受動喫煙の程度を反映します。

 

英国の一般住民からランダムに抽出した非喫煙者4,809名(平均年齢65.1歳、女性が53%)では、多量の副流煙受動喫煙)にさらされると「認知機能障害あり」と判定されるオッズ比 [注1] は1.44 (95%信頼区間1.07—1.94)と有意に増加していました [Ref. 1] 。以前に喫煙経験のある非喫煙者を除いて解析しても同様の結果が得られました。この研究は認知症発症をみたものではありませんが、受動喫煙の程度が強いと認知機能障害を起こす可能性が高いことを示しています。

 

高速液体クロマトグラフィーで分離して、ガスクロマトグラフィーで唾液のコチニンを測ってみよう!

 

注1:唾液中のコチニン濃度がもっとも高い群ともっとも低い群(4分位)を比較。ロジスティック回帰分析による断面調査—年齢、性別、教育歴、検査間隔、人種/民族、肉体労働、所得、喫煙の病歴、肥満、飲酒、身体活動度、うつ症状を共変量として調整。

 

Ref. 1: Llewellyn DJ, Lang IA, Langa KM, Naughton F, Matthews FE. Exposure to secondhand smoke and cognitive impairment in non-smokers: national cross sectional study with cotinine measurement. BMJ 2009;338:b462.

 

コーヒーはヒトの健康にどう影響するのか

  1. コーヒーには健康に良い面と悪い面の両方がある
  2. いくら健康に良い面があっても、飲み過ぎは体に毒
  3. どこからが飲み過ぎでどこまでが適量かは人ごとに異なる

この三カ条はコーヒーに限らず、健康を考えるときすべてに当てはまる原則 [注1] であろう。

 

ヨーロッパの10カ国で、健康—全死亡と疾患別死亡—に及ぼすコーヒーの影響について、451,743人を平均16.4年追跡調査した報告がある [Ref. 1] 。コーヒーを多く飲む群(多い方からの4分位)では、全死亡は減少した(ハザード比と95%信頼区間は、男性で0.88 [0.82-0.95]、女性で0.93 [0.87-0.98]) [注2] 。コーヒー飲用に伴う全死亡の減少は、通常のコーヒーでもカフェインレスコーヒーでも同様であった。疾患別死亡では、消化器疾患(肝疾患)と循環器疾患による死亡減少が顕著であった。脳卒中による死亡も、コーヒー多飲群(特に女性)で少なかった。

 

あなたにとってコーヒーとはなんですか? [注1]

 

注1:コーヒーの科学 (旦部幸博、ブルーバックス

 

注2:コックス比例ハザードモデル—体格指数、身体活動度、喫煙、教育、閉経、飲酒、カロリー摂取量、赤身もしくは加工した肉の摂取量、果物と野菜の摂取量を共変量として調整

 

Ref. 1: Gunter MJ, Murphy N, Cross AJ, Dossus L, Dartois L, Fagherazzi G, Kaaks R, Kühn T, Boeing H, Aleksandrova K, Tjønneland A, Olsen A, Overvad K, Larsen SC, Redondo Cornejo ML, Agudo A, Sánchez Pérez MJ, Altzibar JM, Navarro C, Ardanaz E, Khaw KT, Butterworth A, Bradbury KE, Trichopoulou A, Lagiou P, Trichopoulos D, Palli D, Grioni S, Vineis P, Panico S, Tumino R, Bueno-de-Mesquita B, Siersema P, Leenders M, Beulens JWJ, Uiterwaal CU, Wallström P, Nilsson LM, Landberg R, Weiderpass E, Skeie G, Braaten T, Brennan P, Licaj I, Muller DC, Sinha R, Wareham N, Riboli E. Coffee Drinking and Mortality in 10 European Countries: A Multinational Cohort Study. Ann Intern Med 2017;167:236-247.