アパシーやうつと心筋梗塞、脳卒中、死亡率との関連

高齢者のうつ徴候スケールにある15項目のうち3つがアパシーを代表する。このスケールによって評価されたアパシーと他の12項目によるうつの徴候(診断ではない)が心筋梗塞脳卒中、死亡率と関連するのかについて解析した報告があります[Ref. 1] 。系統的文献検索によって52の研究を同定し、個々の参加者のデータが得られた21の研究(47,625人の一般住民、平均年齢74歳、追跡期間の中央値が8.8年)についてメタアナリシスを行なっています。その結果、アパシーがあると心筋梗塞のリスクが21%、脳卒中は37%、死亡率は47%増加していました。うつでは脳卒中と死亡率に関しては同様でしたが、心筋梗塞とは有意な関連は認めませんでした。アパシーやうつ徴候と心血管系疾患を関連づける機序は不明ですが、アパシーやうつがあると健康志向の行動が減少することがあると考えられます。逆に心血管系疾患とアパシーやうつに共通の病因があるのかもしれません。高血圧などの血管危険因子により白質病変(一種の脳卒中と考えて良い)が引き起こされ、白質病変はアパシーを助長しますので[Ref. 2] 、アパシーがあると将来的に脳卒中のリスクが高まることは理解しやすいことと思われます。

 

Ref. 1 Eurelings LS, van Dalen JW, Ter Riet G, Moll van Charante EP, Richard E, van Gool WA; ICARA Study Group. Apathy and depressive symptoms in older people and incident myocardial infarction, stroke, and mortality: a systematic review and meta-analysis of individual participant data. Clin Epidemiol2018;10:363-379. 

 

Ref. 2 Yao H, Takashima Y, Araki Y, Uchino A, Yuzuriha T, Hashimoto M. Leisure-Time Physical Inactivity Associated with Vascular Depression or Apathy in Community-Dwelling Elderly Subjects: The Sefuri Study. J Stroke Cerebrovasc Dis2015;24:2625-2631.

女性の脳は守られている

出産数が5以上の女性では潜在性脳梗塞が少ないことが観察されています[Ref. 1] 。一般的に女性の脳梗塞の頻度は男性の3分の2くらいですが、潜在性脳梗塞についても同様の結果でした。その理由としては、まず女性では飲酒や喫煙が少ないことがあります(研究期間の女性[注1] では特に喫煙の頻度が1.5%と極めて少なかった)。しかしながらロジスティック回帰分析により飲酒や喫煙などの血管危険因子を多変量調整しても、出産数が5以上の女性では潜在性脳梗塞が少ないという結果は変わらなかったので、生殖活動に関連した生物学的特性によって女性は脳梗塞から保護されていることが示唆されました。一方、最終出産年齢は高いほど潜在性脳梗塞が多くなる傾向がありました。つまり「多産は良いが、高齢出産は良くない」ということのようです。この結果は脳の動脈硬化に関するものですが、「女性の脳が守られている」ことの1例と考えていいのではないでしょうか。

 

注1:誕生年と出産数の関係を見てみると、出産数は1910年生まれの女性では平均4人であるのに対して、近年に近づくほど出産数は減少し、1950年生まれでは平均2人となっていました。「出産数が5以上の女性では潜在性脳梗塞が少ない」という結果は主に1935年以前の誕生年のヒトのデータによるものです。

中等度の心血管系疾患リスクに対する血圧とコレステロール低下療法

収縮期血圧が160 mmHg以上なら、臓器障害を伴う高血圧や糖尿病、腎臓病、さらには危険因子を持たないヒトにおいても、降圧療法により心血管系疾患の発症を減らすことができることが分かっています。問題はこれより低い血圧で(だいたい心血管疾患の発症率が年間1%くらいの)中等度リスクのヒトにおいて、治療効果があるかどうかです。さらに高血圧と高脂血症を合わせると、心血管疾患リスクの人口寄与率の3分の2を説明できるので、一般人口において2つの治療薬剤を組み合わせた場合の治療効果を検討すべきであると考えられています。このような観点からの研究結果が報告されています[注1] [Ref. 1-3] 。

 

中等度リスク群に於ける高血圧単独の治療効果については、中央値で5.6年の追跡期間中に、降圧療法群では血圧は6.9/3.0 mmHg(収縮期/拡張期)下がりましたが、主要な心血管系疾患の発症を減らすことはできませんでした[Ref. 1] 。高脂血症治療薬剤ではLDL(悪玉)コレステロール値は33.7 mg/dL低下し、高脂血症治療単独および降圧薬と高脂血症治療薬剤を組み合わせた場合、追跡期間中の1次エンドポイントの発症率は有意に減少していました[注2] [Ref. 2, 3]。

 

脳卒中に対してどうなのかが、分けて書いてないので、脳の健康という観点からの解釈が明確ではありませんが、リスクが際迫ったものでないなら、薬を飲む前にすることが(たくさん)ありそうな気がします。

 

注1:The HOPE-3 trial: The Heart Outcome Prevention Evaluation-3 trial

プラセボ群の1次エンドポイント(心血管系疾患による死亡、心筋梗塞もしくは脳卒中の発症)発症率はおおよそ年間1%と予想されるので、12,700例を2×2にランダム化して平均5.5年間追跡し、プロトコール逸脱率を23%、市販薬の追加投与などが11%、追跡不能例を1%と想定すれば、35%リスク軽減に対して80%の統計学的検出力を得ることができると試算されました。降圧剤と高脂血症治療薬投与を4週間受けて、処方を遵守でき、受け入れ難い副作用のなかった12,705例がランダム化比較試験に組み込まれました。解析はintention-to-treatの原則に従って行なっています。

 

注2:コックス比例ハザードモデルにより、1次エンドポイントに対して高脂血症治療単独ではハザード比0.76(95%信頼区間0.64—0.91、P=0.002)、降圧薬と高脂血症治療薬剤を組み合わせた場合ハザード比0.71(95%信頼区間0.56—0.90、P=0.005)でした。

 

Ref. 1: Lonn EM, Bosch J, López-Jaramillo P, Zhu J, Liu L, Pais P, Diaz R, Xavier D, Sliwa K, Dans A, Avezum A, Piegas LS, Keltai K, Keltai M, Chazova I, Peters RJ, Held C, Yusoff K, Lewis BS, Jansky P, Parkhomenko A, Khunti K, Toff WD, Reid CM, Varigos J, Leiter LA, Molina DI, McKelvie R, Pogue J, Wilkinson J, Jung H, Dagenais G, Yusuf S; HOPE-3 Investigators. Blood-Pressure Lowering in Intermediate-Risk Persons without Cardiovascular Disease. N Engl J Med2016;374:2009-2020.

 

Ref. 2: Yusuf S, Bosch J, Dagenais G, Zhu J, Xavier D, Liu L, Pais P, López-Jaramillo P, Leiter LA, Dans A, Avezum A, Piegas LS, Parkhomenko A, Keltai K, Keltai M, Sliwa K, Peters RJ, Held C, Chazova I, Yusoff K, Lewis BS, Jansky P, Khunti K, Toff WD, Reid CM, Varigos J, Sanchez-Vallejo G, McKelvie R, Pogue J, Jung H, Gao P, Diaz R, Lonn E; HOPE-3 Investigators. Cholesterol Lowering in Intermediate-Risk Persons without Cardiovascular Disease. N Engl J Med2016;374:2021-2031. 

 

Ref. 3: Yusuf S, Lonn E, Pais P, Bosch J, López-Jaramillo P, Zhu J, Xavier D, Avezum A, Leiter LA, Piegas LS, Parkhomenko A, Keltai M, Keltai K, Sliwa K, Chazova I, Peters RJ, Held C, Yusoff K, Lewis BS, Jansky P, Khunti K, Toff WD, Reid CM, Varigos J, Accini JL, McKelvie R, Pogue J, Jung H, Liu L, Diaz R, Dans A, Dagenais G; HOPE-3 Investigators.Blood-Pressure and Cholesterol Lowering in Persons without Cardiovascular Disease. N Engl J Med2016;374:2032-2043.

 

女性はなぜ、男性よりも長生きするのか?

なぜ歳をとるのでしょうか?野生の動物は若い時期に淘汰されるので、歳をとってから悪さをする遺伝的素因は除去されにくいという側面があります。一方では、若い時期に良い影響を及ぼす遺伝子でも、その同じ遺伝子が歳をとってからは悪い作用を発揮する—たとえその遺伝子が老化と死をもたらす—としても、「良い影響」のためにその遺伝子は進化の過程で残っていくかもしれません。さらに生体の維持と生殖活動が対立する—限られた生物資源をどちらに振り分けるか—によって寿命が決まるという考え方もあります。たくさん子供を産むと、自分の体の維持と修復がおろそかになって、長生きできないという考え方です [Ref. 1] 。逆に、高齢で出産した(できた)女性は長寿であるという報告もあります [Ref. 2] 。エストロジェンなど生殖活動に関わる生物学的活性により、生殖期間の女性は保護されていて、種を保存することに貢献し、それが結果的に女性の長寿につながっていると考えることもできるのではないでしょうか。

 

Ref. 1: Kirkwood TB, Austad SN. Why do we age? Nature 2000;408:233-238.

 

Ref. 2: Ehrlich S. Effect of fertility and infertility on longevity. Fertil Steril 2015;103:1129-1135.

抗酸化物質による心血管系疾患の予防効果はなかった

果物や野菜に多く含まれるビタミンCやビタミンE、ベータカロテンなどの抗酸化物質によって心血管系疾患(心筋梗塞脳卒中、心血管系疾患による死亡)が予防できるはずだと信じていましたが、ランダム化比較試験では期待ハズレのことが多かったという現実があります。

 

心血管系疾患の病歴があるか3つ以上の血管危険因子がある(すなわちリスクの高い)40歳以上の閉経後もしくは妊娠の可能性のない女性を対象としたランダム化比較試験の結果が報告されています(癌の病歴のあるものは除外)[Ref. 1] 。抗酸化物質としては、ビタミンC(500 mg/毎日)、ビタミンE(600 IU/隔日)、ベータカロテン(50 mg/隔日)を用いて、8171例を2×2×2のファクトリアルデザイン(各群約1000例)により、平均9.4年追跡して比較しています。その結果3つの抗酸化物質群(それぞれのプラシボー群との比較)には心血管系疾患予防効果はありませんでした。3剤の組み合わせを解析しても心血管系疾患予防効果はやはりありませんでしたが、わずかに脳卒中発症のみがビタミンCとビタミンEの組み合わせで減少していました。

 

この研究に参加した65歳以上の2824名を対象として、抗酸化物質の認知機能に及ぼす影響についての検討が追加されています [Ref. 2] 。認知機能は2年毎に3回、電話による認知機能検査によって[注1] 調査されました。平均8.9年追跡していますが、3つの抗酸化物質によって認知機能低下を抑制することはできませんでした。

 

格段の副作用もありませんでしたが、抗酸化物質によって心血管疾患予防や認知機能低下抑制効果はほぼ皆無でした。

 

注1:全般的認知機能としてはミニメンタルテストを電話で行なうことができるようにしたものを使用し、他に言語性記憶や言語流暢性(動物の名前を1分間でどれだけの数を言うことができるか)を検査しています。

 

Ref. 1:Cook NR, Albert CM, Gaziano JM, Zaharris E, MacFadyen J, Danielson E, Buring JE, Manson JE. A randomized factorial trial of vitamins C and E and beta carotene in the secondary prevention of cardiovascular events in women: results from the Women's Antioxidant Cardiovascular Study. Arch Intern Med2007;167:1610-1618.

 

Ref. 2: Kang JH, Cook NR, Manson JE, Buring JE, Albert CM, Grodstein F. Vitamin E, vitamin C, beta carotene, and cognitive function among women with or at risk of cardiovascular disease: The Women's Antioxidant and Cardiovascular Study. Circulation2009;119:2772-2780. 

  

 

最近評判の良い地中海食 (改訂後に再掲)

地中海食とは、オリーブオイル・果物・ナッツ・野菜・穀類(精製していない炭水化物)を多量に、魚・鶏肉を比較的多く、乳製品・赤みの肉・加工した肉・甘いものを少なくし、料理と一緒に適量のワインを摂取する食事です。

 

糖尿病もしくは少なくとも3つの危険因子をもつハイリスク集団である7447名(55歳から80歳、57%が女性)を、地中海食+オリーブオイル群・地中海食+ナッツ群・対照群の3群にランダム化割付けし、中央値で4.8年追跡した研究があります[Ref. 1] 。エクストラバージンオリーブオイル(1世帯あたり1週間で約1リットル)もしくはミックスナッツを毎日30グラム(くるみ15グラム、ヘーゼルナッツ7.5グラム、アーモンド7.5グラム)のいずれかの介入を行ない、その効果が検証されました。多変量調節ハザード比と95%信頼区間は、オリーブオイル群で0.69(0.53-0.91)、ナッツ群で0.72(0.54-0.95)と、ともに有害事象(脳卒中心筋梗塞、死亡のいずれか)を3割ほど減少させていました [注1] 。

 

このスペインで行われた大規模研究[注2]の一部を用いて、地中海食の認知機能に及ぼす効果が検討されました [Ref. 2]。研究方法は上記研究と同じでその結果、ナッツ群では記憶が、オリーブオイル群では前頭葉機能と全般的認知機能が改善していました(低脂肪食の教育を受けた対照群との比較)。予想通り介入群では(エクストラバージンオリーブオイルやミックスナッツに多く含まれる)フェノール酸やアルファリノレイン酸関連物質(脂肪酸=油の成分)が増加していました。

 

地中海食—良質の油(脂)の補給—は「脳を健康にする」!

 

注1:2013年の論文(N Engl J Med2013;368:1279-1290)には後にプロトコール逸脱例(もしくはその可能性)があったことが見つかり、この論文は撤回され、修正されたものが再出版されました。結果は大きくは変わりませんでしたが、ここのハザード比は訂正後の値です。

 

注2:The PREDIMED (Prevención con Dieta Mediterránea) trial

 

Ref. 1:Retraction and Republication: Primary Prevention of Cardiovascular Disease with a Mediterranean Diet. N Engl J Med 2013;368:1279-90. Estruch R, Ros E, Salas-Salvadó J, Covas MI, Corella D, Arós F, Gómez-Gracia E, Ruiz-Gutiérrez V, Fiol M, Lapetra J, Lamuela-Raventos RM, Serra-Majem L, Pintó X, Basora J, Muñoz MA, Sorlí JV, Martínez JA, Martínez-González MA. N Engl J Med2018;378:2441-2442.

 

Ref. 2:Valls-Pedret C, Sala-Vila A, Serra-Mir M, Corella D, de la Torre R, Martínez-González MÁ, Martínez-Lapiscina EH, Fitó M, Pérez-Heras A, Salas-Salvadó J, Estruch R, Ros E. Mediterranean Diet and Age-Related Cognitive Decline: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med2015;175:1094-1103. 

ビタミンやミネラルのサプリによる心血管系疾患の予防効果

心血管系疾患予防のための食事としては、(1)飽和脂肪酸トランス脂肪酸、赤身の肉を減らし、果物と野菜を多くしたもの、(2)地中海食、(3)ベジタリアン食などが推奨されています。サプリよりもこのような食事によって必要な栄養素を取るべきでしょうけど、ついついサプリに依存していないでしょうか?

 

多くのサプリについてその効果を検証した、ランダム化比較試験のメタアナリシスがあります[Ref. 1] 。もっとも一般的なマルチビタミンビタミンD、カルシウム、ビタミンCは心血管系疾患(心血管系疾患全体、脳卒中心筋梗塞)の発症及び疾患による死亡率に対して効果はありませんでした。葉酸とビタミンB群は脳卒中を減少させていましたが、ナイアシン(ビタミンB3)と抗酸化物質混合剤は逆に全疾患死亡率を増加させていました。ビタミンA、ビタミンB6、ビタミンE、ベータカロテン、亜鉛、鉄分、マグネシウム、セレニウムマルチビタミンは心血管系疾患発症と死亡率に対して有意な効果はありませんでした。一般的にサプリは心筋梗塞脳卒中など心血管系疾患に対してあまり効果はないようです。

 

食品に含まれる「成分」に惑わされるな [注1] !

 

注1:世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事 (津川祐介著、東洋経済新報社刊)

 

Ref. 1: Jenkins DJA, Spence JD, Giovannucci EL, Kim YI, Josse R, Vieth R, Blanco Mejia S, Viguiliouk E, Nishi S, Sahye-Pudaruth S, Paquette M, Patel D, Mitchell S, Kavanagh M, Tsirakis T, Bachiri L, Maran A, Umatheva N, McKay T, Trinidad G, Bernstein D, Chowdhury A, Correa-Betanzo J, Del Principe G, Hajizadeh A, Jayaraman R, Jenkins A, Jenkins W, Kalaichandran R, Kirupaharan G, Manisekaran P, Qutta T, Shahid R, Silver A, Villegas C, White J, Kendall CWC, Pichika SC, Sievenpiper JL. Supplemental Vitamins and Minerals for CVD Prevention and Treatment. J Am Coll Cardiol2018;71:2570-2584.