ゆるやかな糖質制限によるダイエット

ダイエットとは(脂質を減らすことによる)カロリー制限のことと思い込んでいたが、それは「神話」でしかなかった。体重の適正化や糖尿病のコントロールには「糖質制限」がもっとも効果的であり、山田は「ゆるやかな糖質制限ロカボが人類を救う」と主張している [注1] 。要するに、(多くのヒトでは)糖質制限さえ適切に行なっておけば十分で、下手に脂質やタンパク質を制限すると何の効果もなく、逆に「低栄養」となるだけであると。

 

イスラエルで「どのような食事が肥満の解消に有効か?」というランダム化比較試験が行なわれた [Ref. 1] 。無作為に割り付けられた322名(86%は男性、平均年齢52歳、平均体重91.4 kg)の最終結果(2年後)は、低脂肪食で平均2.9 kg 、カロリー制限をした地中海食で平均4.4 kg、(わりと厳しい [注2] )炭水化物制限食で—総カロリー、タンパク、脂肪は制限しないにもかかわらず—平均4.7 kgの体重減少がみとめられた。初期の減量効果は糖質制限食で凄まじかったが、軽くリバウンドし、最終的には地中海食と大きな差はなかった。

 

「脂っこいものが悪い」「肉は食べるな」「リバウンドのためのダイエット」 無意味な努力

 

注1:糖質制限の真実 カロリー制限の大罪 (いずれも山田悟著、幻冬舎新書

 

注2:低炭水化物食群では、最初の2ヶ月は炭水化物を20 g/日とし、その後120 g/日としている。研究終了時に尿ケトン体が検出された例も同群に多かった(8.3%)。この食事はアトキンスダイエットに準じている。

 

Ref. 1:Shai I, Schwarzfuchs D, Henkin Y, Shahar DR, Witkow S, Greenberg I, Golan R, Fraser D, Bolotin A, Vardi H, Tangi-Rozental O, Zuk-Ramot R, Sarusi B, Brickner D, Schwartz Z, Sheiner E, Marko R, Katorza E, Thiery J, Fiedler GM, Blüher M, Stumvoll M, Stampfer MJ; Dietary Intervention Randomized Controlled Trial (DIRECT) Group. Weight loss with a low-carbohydrate, Mediterranean, or low-fat diet. N Engl J Med 2008;359:229-241.

地中海食は高齢者の認知機能を改善する

スペインで行われた研究 [注1] では、地中海食は有害事象の減少—特に脳卒中予防—に効果があった [Ref. 1] 。

 

この大規模研究の一部を用いて、地中海食の認知機能に及ぼす効果が検討された [Ref. 2] 。複数の血管危険因子をもつ「ハイリスク」の447名(55歳から80歳)をランダム化し、約5年間追跡した。エクストラバージンオリーブオイル(1週間で約1リットル)もしくはミックスナッツを毎日30グラム(くるみ15グラム、ヘーゼルナッツ7.5グラム、アーモンド7.5グラム)のいずれか(いずれも地中海食への指導を受けた)の介入を行ない、様々な認知機能検査を介入前後で行った。その結果、ナッツ群では記憶が、オリーブオイル群では前頭葉機能と全般的認知機能が改善していた(低脂肪食の教育を受けた対照群との比較)。予想通り介入群では(エクストラバージンオリーブオイルやミックスナッツに多く含まれる)フェノール酸やアルファリノレイン酸関連物質(脂肪酸=油の成分)が増加していた。

 

地中海食—良質の油(脂)の補給—は「脳を健康にする」!

 

[注1] The PREDIMED (Prevención con Dieta Mediterránea) trial

 

Ref. 1:Estruch R, Ros E, Salas-Salvadó J, Covas MI, Corella D, Arós F, Gómez-Gracia E, Ruiz-Gutiérrez V, Fiol M, Lapetra J, Lamuela-Raventos RM, Serra-Majem L, Pintó X, Basora J, Muñoz MA, Sorlí JV, Martínez JA, Martínez-González MA; PREDIMED Study Investigators. Primary prevention of cardiovascular disease with a Mediterranean diet. N Engl J Med 2013;368:1279-1290

 

Ref. 2:Valls-Pedret C, Sala-Vila A, Serra-Mir M, Corella D, de la Torre R, Martínez-González MÁ, Martínez-Lapiscina EH, Fitó M, Pérez-Heras A, Salas-Salvadó J, Estruch R, Ros E. Mediterranean Diet and Age-Related Cognitive Decline: A Randomized Clinical Trial. JAMA Intern Med 2015;175:1094-1103. 

最も健康に良いスポーツ種目は?

若い時(19から29歳ごろ)にテニスをしていたヒトは、その後の人生で心筋梗塞となることが少ない [Ref. 1] 。テニスは中年期以降も続けることが多く、比較的強度のある有酸素運動であることがその主な理由であろう。

 

どのスポーツ種目が健康に良いのか? 英国の一般住民80,306人(平均年齢52歳)を平均9.2年間追跡して、6つのスポーツ種目と死亡率の関係をみた報告がある [Ref. 2] 。水泳、エアロビクス、ラケットスポーツ(バドミントン、テニス、スカッシュなど)は全死亡および心血管系死亡の減少と—サイクリングは全死亡減少とのみ—有意な相関があった(様々な共変量で補正したコックス比例ハザードモデルによる)。ランニングとフットボールには死亡率(減少)との有意な相関はなかった。

 

「誰かテニスしない?」[注1]

 

Ref. 1: Houston TK, Meoni LA, Ford DE, Brancati FL, Cooper LA, Levine DM, Liang KY, Klag MJ. Sports ability in young men and the incidence of cardiovascular disease. Am J Med 2002;112:689-695.

 

Ref. 2: Oja P, Kelly P, Pedisic Z, Titze S, Bauman A, Foster C, Hamer M, Hillsdon M, Stamatakis E. Associations of specific types of sports and exercise with all-cause and cardiovascular-disease mortality: a cohort study of 80 306 British adults. Br J Sports Med 2017;51:812-817.

 

注1:Tennis, Anyone?—Ref. 1についたEditorials(編集後記=論評)から。

Jacobs DR Jr, Schmitz KH. Tennis, anyone? On the value of sustainable, vigorous physical activity and long-term studies. Am J Med 2002;112:733-734.

 

老化は足から

「足が衰える」ことは、単にからだだけの問題ではなくて、脳の働きにも関係している。からだの問題としては、たとえば糖尿病や大脳白質病変があると歩行速度が遅くなることが観察されている [Ref. 1] 。さらに、足し算をしながら歩くという「二重課題歩行」では—加齢に加えて—記憶力低下(という脳の問題)が歩行速度を遅くしていた。

 

「日常生活が自立し、4分の1マイルを歩くことができ、休まずに階段を10段上ることができる」一般住民193人(平均年齢73歳)の「普通に6メートル歩く」のに要する時間について、14年間追跡した報告がある [Ref, 2] 。最終判定時に104人に認知機能障害(認知症と軽度認知機能障害を合わせたもの)があった。歩行速度低下に関連していたのは、認知機能障害と右の海馬萎縮であった。歩行速度低下(厳密にいうと速度低下の傾斜が加速すること)は認知機能障害に先行する(予言する)かっこうになっていた。

 

普通に歩く速さが年々遅くなってきたら認知症の前ぶれかもしれない。

 

Ref. 1:Hashimoto M, Takashima Y, Uchino A, Yuzuriha T, Yao H. Dual task walking reveals cognitive dysfunction in community-dwelling elderly subjects: the Sefuri brain MRI study. J Stroke Cerebrovasc Dis 2014;23:1770-1775.

 

Ref. 2: Rosso AL, Verghese J, Metti AL, Boudreau RM, Aizenstein HJ, Kritchevsky S, Harris T, Yaffe K, Satterfield S, Studenski S, Rosano C. Slowing gait and risk for cognitive impairment: The hippocampus as a shared neural substrate. Neurology 2017;89:336-342.

アルツハイマー病に先行する脳アミロイド沈着

アルツハイマー病の確立されたバイオマーカーである「脳アミロイド沈着」を、アミロイドPETを用いて検出できる時代になった [注1] 。

 

複数回アミロイドPET(初回から最後まで1.3年 [中央値])を検査した260例(認知機能正常205例、軽度認知機能障害/アルツハイマー病55例)について、アミロイド沈着の経年変化—時間経過を横軸、アミロイド沈着を縦軸の—S字曲線を算出した報告がある [Ref. 1] 。このS字曲線の開始時にはアミロイド沈着はゆるやかで、中央付近で最大速度となり、やがて減速して高止まりとなる(この過程に約15年を要するということ)。このようにアルツハイマー病は長い時間をかけて進行するとして、治療的介入ができる可能性は高いと考えるべきなのだろうか。

 

知らないうちに脳にアミロイドがたまり始めるのか—15年も前から!

 

注1:ピッツバーグ化合物Bを用いたアミロイドPETによりヒトの脳内アミロイド沈着が検出できるようになった。上記研究論文の著者 [Ref. 1、2] によると、アミロイドPET論文初出は2004年である。

 

Ref. 1: Jack CR Jr, Wiste HJ, Lesnick TG, Weigand SD, Knopman DS, Vemuri P, Pankratz VS,Senjem ML, Gunter JL, Mielke MM, Lowe VJ, Boeve BF, Petersen RC. Brain β-amyloid load approaches a plateau. Neurology 2013;80:890-896.

 

Ref. 2:Jack CR Jr, Lowe VJ, Senjem ML, Weigand SD, Kemp BJ, Shiung MM, Knopman DS, Boeve BF, Klunk WE, Mathis CA, Petersen RC. 11C PiB and structural MRI provide complementary information in imaging of Alzheimer's disease and amnestic mild cognitive impairment. Brain 2008;131:665-680. 

血管性認知症もしくはビンスワンガー病について

CTと比べるとMRIでは大脳白質病変ははるかに明瞭に描出できるようになった。大脳白質病変があると認知機能が障害され、広汎な白質病変を特徴とする血管性認知症はビンスワンガー病と呼ばれている [注1] 。

 

ビンスワンガー病の特徴は—広汎な白質病変に加えて—脳深部の小梗塞を伴うことである。そのような小梗塞(ラクナ梗塞)を有する患者の脳循環動態についてポジトロンCTを用いて検討した報告がある [Ref. 1] 。深部白質病変が中等度以上の群(9例、おおよそビンスワンガー病に近い)では、軽度以下の群(9例)と比較して、脳血流がまず減少し、酸素抽出率は上昇するも、酸素代謝もやや減少していた。このような脳循環代謝の異常は血行力学的に脆弱な半卵円中心部にみとめられた。長期間持続した高血圧があると、主要な血管支配領域の「はざま」で脳循環が障害されやすく(貧困灌流と称されている)、まさにその部位で「虚血性」白質病変を生じるのであろう。

 

ビンスワンガー病—(ある程度以上の)白質病変+ラクナ梗塞—が血管性認知症の基本型である。

 

注1:ビンスワンガー病とは、広汎な白質病変を伴う血管性認知症の1つの型である。以下のような診断基準が示されている。

ビンスワンガー病の診断基準

1. 認知症が臨床的に確実であり、神経心理検査により確認されている。

2. 以下の3項目のうち2つ以上が存在すること。

A) 血管危険因子の存在もしくは血管病が存在する証拠

(たとえば高血圧、糖尿病、心筋梗塞の既往、不整脈心不全

B) 脳血管障害の証拠

(たとえば脳卒中の既往、局所錐体路徴候や感覚障害)

C) “皮質下” 脳機能障害の証拠

(たとえばパーキンソン病様、“老人性” の歩行や筋硬直、痙性膀胱による尿失禁)

3. 画像診断上、CT上両側性の白質粗鬆化があり、もしくはMRI上2×2 mm以上の大きさの両側性、多発性、びまん性の皮質下高信号病変をT2強調画像で認める。

以上の基準は以下の項目があると無効である。

1. CTやMRIで多発性もしくは両側性の皮質病変

2. 高度の認知症(たとえばミニメンタルテストで10点未満)

 

Bennett DA, Wilson RS, Gilley DW, Fox JH. Clinical diagnosis of Binswanger's disease. J Neurol Neurosurg Psychiatry 1990;53:961-965.

 

Ref. 1:Nezu T, Yokota C, Uehara T, Yamauchi M, Fukushima K, Toyoda K, Matsumoto M, Iida H, Minematsu K. Preserved acetazolamide reactivity in lacunar patients with severe white-matter lesions: 15O-labeled gas and H2O positron emission tomography studies. J Cereb Blood Flow Metab 2012;32:844-850.

 

動かないからボケるのか、ボケたから動かないのか?

身体活動度が高い(からだをよく動かす)ヒトは認知症になりにくいと言われている。しかしながら逆に、認知症になった(なりかけた)状態だからこそ、からだを動かさないのかもしれない。

 

35歳から55歳までの一般住民10,308人を28年間追跡し、身体活動度と認知症発症の関連をみた研究がある [Ref. 1] 。最終的に認知症となった群とならなかった群に分けて、28年間の身体活動度(量)の軌跡を比べてみると、認知症群では発症の9年前から身体活動度が低下してきていた(認知症にならなかった群との比較)。追跡期間を通しての身体活動度平均値と認知症発症には関連がなかったので、著者らは「潜在的認知症になりかかった状態(原因)で身体活動が低下している(結果)」のではないかと推察している。

 

そうではなくて「動かない」と人は意外と速く病む(ボケる)というだけの話—ではないのか?!

 

Ref. 1:Sabia S, Dugravot A, Dartigues JF, Abell J, Elbaz A, Kivimäki M, Singh-Manoux A. Physical activity, cognitive decline, and risk of dementia: 28 year follow-up of Whitehall II cohort study. BMJ 2017;357:j2709