身体的虚弱(フレイル)と認知的フレイル

加齢に伴う身体機能低下を象徴的に示す特徴として「老化は足から」と言います。たとえば糖尿病や大脳白質病変があると歩行速度が遅くなることを私たちは観察しています[Ref. 1] 。さらに、「足が衰える」ことは単にからだだけの問題ではなくて、脳の働きにも関係しています。足し算をしながら歩くという「二重課題歩行」では記憶力低下(という脳の問題)があると、歩行速度が遅くなっていました。また別の研究では、「日常生活が自立し、4分の1マイル(400 m)を歩くことができ、休まずに階段を10段上ることができる」一般住民193人(平均年齢73歳)の「普通に6メートル歩く」のに要する時間について、14年間追跡して解析しています [Ref. 2] 。最終判定時に104人に認知機能障害(認知症と軽度認知機能障害を合わせたもの)がありました。歩行速度低下に関連していたのは、認知機能障害と海馬の萎縮(右)でした。歩行速度低下は認知機能障害に先行する(予言する)かっこうになっていました。普通に歩く速さが年々遅くなってきたら認知症の前ぶれかもしれません。

 

歩行速度を含む身体機能が衰えることを「フレイル =(体が)虚弱」としてとらえて重視する立場もあります。フレイルの診断基準としては、体重減少、倦怠感、活動量低下(運動習慣なし)、握力減少、通常歩行速度低下の5つが一般的に用いられています。この基準で歩行速度1m/秒未満を「歩く速さが遅い」とすると一般住民では[注1] 5%しか該当せず、握力低下は7.5%、体重減少(体格指数18.5未満とすると)3.5%などと少なく、逆に言うとフレイルは健常高齢者の中ではかなり身体機能が低下した状態であり、転倒や寝たきりとなるリスクが差し迫った状況のように思われます。フレイルと軽度の認知機能低下があると認知症発症リスクが急上昇することが示されており、認知的フレイルの概念として注目されています。国立長寿医療研究センターでの検討では、(身体的)フレイルのみでは認知症発症のハザード比は1.13(有意差なし)であったのに対して、軽度認知機能低下があるとハザード比は2.06、さらに認知的フレイルであると認知症発症のハザード比は3.43と急激な上昇を示していました[Ref. 3] 。このように認知症発症のリスクは単に脳だけの問題ではなく、身体面の要素(フレイル)が大変重要です。動かないでいると、動けなくなって、ヒトは病むのです。したがって認知症予防のためには、「脳トレ」のみでなく、「筋トレ」や「有酸素運動」など身体を鍛えることが重要です。

 

注1:2016〜2017年の脊振健診と2018年の吉野ヶ里健診のデータにもとづいています。

Ref. 1: Hashimoto M, Takashima Y, Uchino A, Yuzuriha T, Yao H. Dual task walking reveals cognitive dysfunction in community-dwelling elderly subjects: the Sefuri brain MRI study. J Stroke Cerebrovasc Dis2014;23:1770-1775.

Ref. 2: Rosso AL, Verghese J, Metti AL, Boudreau RM, Aizenstein HJ, Kritchevsky S, Harris T, Yaffe K, Satterfield S, Studenski S, Rosano C. Slowing gait and risk for cognitive impairment: The hippocampus as a shared neural substrate. Neurology2017;89:336-342.

Ref. 3: Shimada H, Doi T, Lee S, Makizako H, Chen LK, Arai H. Cognitive Frailty Predicts Incident Dementia among Community-Dwelling Older People. J Clin Med2018;7. pii: E250.