定量的やる気スコア(アパシースケール)の作成

意識障害や感情的動揺、認知機能障害など、特定の原因が明らかでない状況で生じるやる気の低下のことをアパシーと言います。アパシーは頻度の多いもので、一般人口の3%、軽度認知機能障害の7人に1人、認知症では3人に1人に存在するとされています。アパシーはうつに似ているところもありますが、アパシーの本質はゆううつな気分ではなく、あくまでやる気の低下(喪失)です。2006年ごろから脳に関心をもつ内科医がアパシーに注目しだしたのは、血管性認知障害に関する提言において、アパシーと脳血管障害の関連が強調されたことが一つのきっかけです[Ref. 1] 。これよりも随分早く出雲の脳卒中研究者たちは、Starksteinのアパシースケールの日本語訳を出版しています(慧眼です)[Ref. 2] 。このようにアパシーはそんなに特別な「病気」というわけではなく、(病院を受診するヒトではなく)一般的に存在し、高齢者の血管性認知障害に深く関わる病態であると考えられていました。しかし、アパシーの評価が難しいのは、「やる気の低下」という、どうかすると哲学的な考察になりかねない案件を、いかにして定量的評価に落とし込むかということです。この辺、少し話が難解(何かいな、わけがわからん)になってきましたが、大事なところなので、も少し説明させてください。私たちがやったのは、出雲のグループが日本語に訳したStarksteinのアパシースケールの各質問項目について、「全くその通り」と「全然そうではない」の間に引いた60 mmの直線のどこかに「自分の気持ちに応じて」しるしをつけてもらい、端からしるしまでの距離を定規で測るということでした[Ref. 3] 。Starksteinのアパシースケールの14項目のうち2項目は使い物にならないことがわかりましたが(詳細は省略します)、12項目の合計点は非常に使い勝手が良いものとなりました。このアパシースケールを使ってこれまでにわかったことは、教育歴(学校に長く通った)とやる気は比例し、深部白質病変があるとアパシー傾向となり、アパシーがあると身体活動が低下するということです。

 

Ref. 1: Vladimir Hachinski, Costantino Iadecola, Ron C Petersen, Monique M Breteler, David L Nyenhuis, Sandra E Black, William J Powers, Charles DeCarli, Jose G Merino, Raj N Kalaria, Harry V Vinters, David M Holtzman, Gary A Rosenberg, Anders Wallin, Martin Dichgans, John R Marler, Gabrielle G Leblanc. National Institute of Neurological Disorders and Stroke-Canadian Stroke Network Vascular Cognitive Impairment Harmonization Standards. Stroke2006;37:2220-41.

Ref. 2: 岡田和悟,小林祥泰,青木 耕,須山信夫,山口修平:やる気スコアを用いた 脳卒中後の意欲低下の評価. 脳卒中 1998;20:318-323

Ref. 3:Yao H, Takashima Y, Mori T, Uchino A, Hashimoto M, Yuzuriha T, Miwa Y, Sasaguri T.Hypertension and white matter lesions are independently associated with apathetic behavior in healthy elderly subjects: the Sefuri brain MRI study. Hypertens Res2009;32:586-590.