「その他の」認知機能検査

ミニメンタルテストは健常高齢者にとっては簡単すぎて(少々認知機能が低下していても、高得点がとれてします)、軽度のアルツハイマー病に対して感度が良くなく、最近ではより難易度の高いMontreal Cognitive AssessmentMoCAなどがよく使用されるようになっています。MoCAはmild cognitive impairment(MCI)のスクリーニングツールであり、多領域の認知機能(注意機能、集中力、実行機能、記憶、言語、視空間認知、概念的思考、計算、見当識)について、約10分という短い時間で評価できます。MoCAは数カ国語に翻訳されており、日本語版(MoCA-J)の教示マニュアルも公開されています。これらのスクリーニングテストを行なう際には、教育歴(通常は学校に在籍した年数)を確認し、身体・精神状態(不安、注意、やる気、身体機能の障害など)に十分注意する必要があります。

 

代表的な認知症の診断基準はアルツハイマー病を基準に作られており、血管性認知症の特徴を反映するとは限りません。側頭葉内側面が初期から障害されるアルツハイマー病では症状の中核は記憶障害ですが、脳血管障害では遂行機能障害を特徴とするという報告が多くあります。さらに、認知症の存在を診断基準の必要条件とすると、診断の時点で既にかなりの非可逆性脳障害があり、治療可能な時期を逃してしまうことになります。このような観点から、「血管性認知症」という用語を使うのではなく、血管性認知機能障害(vascular cognitive impairment [VCI])という考え方を採用しようという提唱がなされました。

 

私たちはmodified Stroop testを用いて健常高齢者の注意・遂行機能障害には潜在性脳梗塞ラクナ梗塞)が関与することを示しました。この結果は(従来から言われていることですが)、健常高齢者の遂行機能障害は脳血管障害(特に脳小血管病)の特徴のひとつであること—すなわち血管性認知機能障害としての性格を有する—を支持するものです。

 

記憶の検査はかなりの時間を要することが一般的で、一般の健診において「全体を通じて30分ほど」の枠内におさめることは不可能でしょう。私たちは、リバーミード行動記憶検査(所要時間は約25分とされています)を使用してみました(ある程度訓練を受けた医師や臨床心理士が行なうことが必要となります)。リバーミード行動記憶検査は特定の理論的な記憶モデルに固執するものではなく、普通の日常生活で記憶形成に必要とされる事柄を模倣しようと試みるものです。この検査を用いて、健常高齢者の健診でキッチリとした結果を出すことができましたが、(検査をする方も、される方も)結構大変でした。