健康なまま長生きするために

健康なまま長生きするためには何が必要でしょうか?「長生きできても、ボケたり、寝たきりはイヤだな」と誰もが思っています。年をとって必要なものはお金(と筋肉)でしょうか?「あたしが心配なのは、お金がない人生じゃなくて、やりたいことのない人生だよ」という意見もあります(注)。「やりたいことのある人生」でないと、健康なまま長生きできないことは直感的にわかる。「脳の健康」状態が良くないと、「やりたいこと」は出てこないだろう。そうであれば、健康なまま長生きするために必要なものは、「脳の健康」状態が良いことではないでしょうか。

 

注:多眼思考 (ちきりん、大和書房)

 

脳を疲れさせない—西鉄ライオンズ編

西鉄ライオンズの強打者だった豊田泰光(1935〜2016)のことを小林秀雄が書いています。誰もが嫌がるスランプの時はどうするのかと問われた豊田は「よく食って、よく眠って、ただ、待っている」と答えたそうです [注2] 。「ただ、待つ」というそのたたずまいは、あたかも座禅や瞑想をしているかのようなおもむきがあります。

 

もうひとつ西鉄ライオンズの逸話から—《よく「三原は稲尾を酷使した」といわれ、実際耳にした。しかし、監督として選手を使うとき、むやみやたらな起用ができるものではない。(中略)酷使とは、心理的苦痛を伴った状態をいう。》とあります [注3] 。からだを使うプロ野球で、結果を出すためには「脳を疲れさせない」ことが重要なのです。

 

注1:スランプ 考えるヒント (小林秀雄、文春文庫)

注2:風雲の軌跡 (三原脩ベースボールマガジン社

「ダイエットには朝食が必須」ではない

ダイエットをするときには、朝食は必ず食べた方が良いといわれてきました。「ダイエットには朝食が必須」とするガイドラインもあります。曰く「朝食をぬくと、大事な栄養を失うかもしれないし、空腹のため間食が多くなる」といった調子です。しかし、朝食の重要性に関する報告のメタアナリシスでは、朝食をぬいても体重はほとんど変わらず、朝食をとった方が摂取カロリーは多いという結果でした 。子供では朝食をとった方が、集中力が高まる(だから朝食はとった方が良い)、朝食をぬくと体重は増加する(が、身体活動度が高いといくぶん改善される)といった話はあるようですが、ことダイエットに関しては朝食が必須というエビデンスはないのです。健全な1日を始めるためには「朝ごはんが一番大事」という、やや強迫観念に近い感覚を持っていましたが、どうもそうではないようです。

(医学)論文の読み方

論文の読み方を習得するためには、(医学)論文の書き方のレクチャーを受けるのが手っ取り早いと気がつきました。論文をどう書くかは基本的に著者の自由(と責任)ですが、ある程度の基本合意みたいなものがあり、私は佐川喜一さんの小冊子をいつも参考にしてきました。この小冊子(絶版)をもとに以下「(医学)論文の書き方」についてメモしてみます。

 

初めに考えること(それだけの苦労に値するか?)

どういう独創性がこの仕事にあるか ➡︎ 原著論文の重要性

仮説の検証が明確に織り込まれているか

時に明確な仮説なしに新知見が得られることもある(魚つり、探検的手法)

はっきりとした結論が出せるか

 

序文を書いてみよう

これまでの研究で未解決な点や弱点を指摘

そういう背景と自分の研究目的とが、どのようにかみ合うのかを説明

大切なのはこの2つを、できるだけ2つのパラグラフに煮つめること

パラグラフィング(段落の切り方)が重要

1つのパラグラフには1つのアイデア、これを表す主題文を最初か最後におく

 

方法をどう書くか

どのような研究を行なったか

対象と方法:研究材料は何か、何を測定したのか

どのようにデータを解析したのか:統計解析

統計解析については、ランダム化比較試験と多変量解析が分かれば(とりあえず)よい

 

結果の記載

もっとも明確でなくてはならないところ(量的には方法や考察より短い)

データと情報(=有用なもの)を混同しない

時制は過去形を原則とする

図表の多くは結果の本文と連動している

 

考察の書き方

パラグラフ(段落)の主題を段落の冒頭か末尾の主題文に的確に集約しておく

考察の第1パラグラフでは、結果の最重要知見を集約する(小括)

第2パラグラフ以下数段では、過去の類似研究の成果との異同を考察する

自分の研究の意義を明らかにしていく

最後から2つ目のパラグラフでは、研究の制約(または強み)について書く

文献の知識を示すことは必要だが、それをどう使うかの方が大切

論理的にきっちりと言えることと、推察の域を出ないことを明瞭に区別する

推察は1つ2つという程度にとどめる

最終パラグラフに結論をできるかぎり明解に述べる

 

生データ(研究ノート)の管理は重要

 

著者になる権利

(知的貢献をしていること、以下の少なくとも1つを成すこと)

研究仮説および研究計画の構築

決定的な方法論上の開発

解析計画またはデータ提示

 

正しい引用には「区別」と「出所明示」が必要(コピペ禁止!)

 

長くなりましたが、原著論文を理解するために、少しでも役にたてると幸いです。

健康的な生活習慣と健康寿命

世界的に寿命は伸びています。しかし、寿命(長生き)だけではなく、糖尿病や心血管疾患、ガンなどの疾患がない状態での寿命(健康寿命をのばすことが重要です。疾患のない女性看護師と医療従事者の男性を30年前後追跡した米国での研究では、4〜5の良い生活習慣を持っている場合は、50歳からの健康寿命は女性で34.4年、男性で31.1年と8〜10年延長していました。日本からの報告では、地域在住の住民の健康寿命は男性82.8歳、女性86.8歳でした(注)。ボランティアや趣味、町内会などの社会活動への参加が1つでもあると約3年、3つあると約5年健康寿命が男女共に延びていました。

 

注:WHOによると、2019年の日本の健康寿命は男性72.6歳、女性75.5歳で、確かに世界1位です。引用した論文の数値とは異なりますが、対象集団(健常高齢者)の差によるのではないかと論文中に記載されています。

 

UKバイオバンクの報告では、4つの危険因子の集積(身体活動度低下、野菜と果物の少ない消費量、飲酒、座ってばかりの生活)により心血管疾患の発症リスクは飲酒単独と比較して3.29倍、身体活動度低下と野菜と果物の少ない消費の2つに飲酒が加わって、悪い生活習慣が3つとなると(2つの場合と比べて)リスクは25.18倍でした。複数の危険因子が集積すると、リスクは相乗的に増大し大変危険です。メタアナリシスでも、よい生活習慣がある場合は心血管疾患のリスクは0.37まで低下していました。特に30〜40歳代での生活習慣が良いと効果は大きく、健康な若い時期から生活習慣を良くしておくことが重要です。

 

以上のように、中年期から健康的な生活習慣を順守すれば、健康寿命を8〜10年ほど延ばすことができます。しかし、OECD11カ国からの28研究のシステマティックレビューによると、スウェーデンなど少数の例外を除き、寿命の延長に健康寿命は追いついていません。長生きするようになっても、健康問題や病気をかかえて生きる期間が長くなっています。

ダイエット失敗の本質2

ダイエットよりも大事なのは達成した減量を維持することです。これがむずかしくて、(ほとんど)全てのダイエットは失敗するのです。システマテイックレビューによると、減量を維持する方法は多様で、「家庭で健康的な食材をとる」「からだを動かす(身体活動度を上げる)/(有酸素)運動をする」「健康によくない食物を避ける」「野菜を増やす」「砂糖や脂っこいものを減らす」「朝食を規則正しくとる」など様々です。この中で減量維持の有効性をもっとも一貫して示したのは、身体活動度を上げることでした。何を食べればいいのか—だけではなく、「生活」そのものをとりもどす必要があるようです。

「ダイエットには朝食が必須」なのか?

間欠的絶食のダイエット効果が注目されています。絶食ではありませんが、朝食をぬくのはどうでしょうか?ダイエットをするときには、朝食はぬかない方が良いといわれてきました。「ダイエットには朝食が必須」とするガイドラインもあります。曰く「朝食をぬくと、大事な栄養を失うかもしれないし、空腹のため間食が多くなる」といった調子です。しかし、朝食の重要性に関する報告のメタアナリシスでは、朝食をぬいても体重はほとんど変わらず、朝食をとった方が摂取カロリーが多いという結果でした。子供では朝食をとった方が、集中力が高まる(だから朝食はとった方が良い)といった話はあるようですが、ことダイエットに関しては朝食が必須というエビデンスはないのです。健全な1日を始めるためには「朝ごはんが一番大事」という、やや強迫観念に近い感覚を持っていましたが、どうもそうではないようです。