MRIで初めて見つかる脳梗塞—当時の状況

1990年代に脳のMRI検査が普及してきて、症状がなくても脳に病変が意外とあることがわかってきました。高血圧などの危険因子を有する高齢者ではほぼ全例にT2強調画像で「白く光る」病変があるなどという極端なものもありましたが、そこまでいかなくても高齢者の4割ほどには無症候性脳梗塞があるというものは多かったと思います。これらは白質病変や血管周囲腔の拡大を脳梗塞として含めていました(もしくは区別できていませんでした)。やがてMRIの撮像条件としてT1・T2強調画像とFLAIR画像が必須ということが共通認識となり、無症候性脳梗塞の頻度は12%ほどという数字に落ち着いてきました。もちろん脳梗塞ですから、年齢と危険因子の有無により、その集団における頻度は大きく変動します。私たちの一般住民における経験(ランダムサンプルではありませんが)では、60歳代で10人中1人、80歳代で10人中3人に無症候性脳梗塞があり、そのほとんどは脳小血管病によるラクナ梗塞[注] でした。したがってその危険因子も一般の脳梗塞と同じで、加齢以外では高血圧をはじめとするいわゆる血管危険因子でした。無症候性脳梗塞の男女比は一般の脳卒中と同じく、男性は女性より2から3割高頻度で、その差は主に(男性で圧倒的に多い)喫煙と飲酒によるものでした。無症候性脳梗塞の呼び方として、「かくれ脳梗塞」という俗名が流行しましたが、脳MRIの前ではもはや隠れることはできなくなりました。無症候性と言っても全く症状を出さないわけではなく、軽度の認知機能障害などを引き起こすので、「潜在性脳梗塞」の方が正確でしょう。