間欠的絶食によるダイエット

動物においてカロリー制限をすると、老化を抑制し、寿命が伸びることが示されています。その理由としては、以前は余剰カロリーから派生した酸化ストレス(フリーラジカル)による障害を軽減するからと言われていましたが、最近の考察では「与えられた(少なめの)エサを短時間で食べ尽くして、結果的に絶食の時間が増える」からではないかということのようです。このような「絶食効果」を再現するために間欠的絶食という方法が有望視されています[Ref. 1] 。食事の後では糖はエネルギーとして消費され、脂肪は中性脂肪として脂肪組織に蓄えられます。絶食中には中性脂肪が分解されてできた脂肪酸が肝臓でケトン体に変換されエネルギー源となります。ヒトではケトン体は絶食開始から8〜12時間後から増加し、24時間後にはかなりのレベル(2〜5 mM)となります。間欠的絶食により中性脂肪を分解し、エネルギーとして消費することで体重が減少(肥満の解消)すると健康面で良いのはまちがいないのですが、それだけでなく代謝面での様々な有益効果も重要なのではないかと考えられています。間欠的絶食によって肥満や糖尿病を改善し、心血管系疾患を予防し、脳の健康も増進できる可能性がありますが、長期予後を改善できるかどうかを検討した研究はありません。今後の課題ということのようです。

 

間欠的絶食プロトコールとしては2つの具体例が示されています。一つは、一日のうちで食べてよい時間を段階的に厳しい方向へ制限していくもので(決められた時間内のみ摂食可)、1ヶ月目は「10時間は食べてよい(14時間絶食)」を週のうち5日行ない、2ヶ月目は「8時間は食べてよい」を週のうち5日、3ヶ月目は「6時間は食べてよい」を週のうち5日、4ヶ月目は「6時間は食べてよい(18時間絶食)」を週7日すべてとする。もう一つは、1ヶ月目は週のうち1日のみ1000カロリー/日とし、2ヶ月目は週のうち21000カロリー/日、3ヶ月目は週のうち2750カロリー/日、4ヶ月目は週のうち2500カロリー/日とする。この4ヶ月間は医療スタッフが頻繁にコンタクトを取り、体重や血糖、ケトン体をモニターする。

 

Ref. 1: de Cabo R, Mattson MP. Effects of Intermittent Fasting on Health, Aging, and Disease. N Engl J Med2019;381:2541-2551. 

肥満とやせ どちらが認知症になりやすい?

認知症のヒトの体重は同年代と比べて低く、認知症となる10年ほど前から体重は減少し始めることが知られています。認知症になりやすいのは肥満のヒトという報告と、やせている方が認知症になりやすいという相反する報告があります。どちらにしても短期間の追跡調査(もしくは断面調査)では、適正でない体重が危険因子となって認知症になりやすくするのか、潜在的認知症になりかけた状態で行動面の変容によって体重が変化するのか、因果関係がわかりにくいのです。英国で行なわれた100万人規模の長期追跡調査では、追跡開始時の肥満が15年以上追跡後の認知症発症と相関がありました[Ref. 1] 。一方では、低体重や低カロリー摂取、不活発な身体活動度は短期間の追跡では認知症を増やすように見えましたが、長く追跡するにつれ関係性は消失しました。つまりこの3つは認知症の原因ではなく、潜在的認知症になりかけた状態で生じた行動面の変容によって引き起こされた結果ということになります。同様の長期追跡調査では、認知症となった人は発症から28〜16年前は肥満で、発症の10年前ほどで認知症のないヒトと同程度の体重となり、8年前からは低体重となっていました。やはり肥満が認知症の原因の一つなのでしょう[Ref. 2] 。認知症になりかかった状態での低体重(低栄養)が認知症発症を加速した可能性はあるかもしれませんが、肥満はおそらくは血管危険因子として働いて、認知症発症に関与するという機序が主なものなのでしょう。

 

Ref. 1: Floud S, Simpson RF, Balkwill A, Brown A, Goodill A, Gallacher J, Sudlow C, Harris P, Hofman A, Parish S, Reeves GK, Green J, Peto R, Beral V. Body mass index, diet, physical inactivity, and the incidence of dementia in 1 million UK women. Neurology2019 Dec 18. [Epub ahead of print]

Ref. 2: Singh-Manoux A, Dugravot A, Shipley M, Brunner EJ, Elbaz A, Sabia S, Kivimaki M. Obesity trajectories and risk of dementia: 28 years of follow-up in the Whitehall II Study. Alzheimers Dement2018;14:178-186. 

和食の光と影

日本食とは何か?「日本の伝統的食文化としての和食」 [注1] から要約してみたいと思います。日本料理というときは、料理屋で提供される高級料理という印象があり、家庭食に重点をおいて日本食文化を見ていくとすれば和食という言葉の方が適切だそうです。和食の定義はヒトさまざまとしても、和食のもっとも基本的な要件は「ご飯」(米)であることには異論はないでしょう。ご飯と漬物は決まっていて、これに自由度の高い「一汁三菜」を加えるのが和食の基本型です。三種のお菜は一つの主菜と、副菜としてより軽い料理が二種類つき、少ない(が塩分は多い)お菜を大量のご飯とともに食べ、ご飯の量でカロリーを充足させるのが和食の基本的な食べ方です。

 

世界61地域で24時間尿を採取し、魚介類摂取のバイオマーカーであるタウリンと大豆摂取のバイオマーカーであるイソフラボンを測定して、「和食スコア」を作成した家森幸男教授[注2] によると、タウリンイソフラボンがともにもっとも多い5分位のところ(5×5=25分割でもっとも多いところ)に日本人の約90%が当てはまるということです。このように和食には魚介類や大豆の摂取量が多く、肥満や脂質代謝を改善し虚血性心疾患のリスク低下をもたらしています。一方、和食は食塩摂取量が多く、高血圧と脳卒中は増加することになります。魚介類や大豆の摂取が多く虚血性心疾患が少ないこと(和食の利点)と、食塩摂取量が多く脳卒中が多いこと(和食の欠点)が表裏一体となった和食の光と影を理解して、健康的な食事について考えていく必要があります。醤油や味噌などからの食塩摂取が過剰な今のままの和食では脳の健康に良いとはとても言えません。

 

注1:農林水産省から(http://www.maff.go.jp/j/keikaku/syokubunka/culture/wasyoku.html

注2:「世界一長寿な都市はどこにある?」(家森幸男、岩波書店

菜食主義では脳出血は(少し)増える

肉を食べるヒト(魚も乳製品も卵も食べる)、(肉は食べないが)魚は食べるヒト、菜食主義者(肉も魚も食べないが乳製品や卵は食べる)、絶対菜食主義者vegan、肉も魚も乳製品も卵も食べない)の心血管系疾患について英国での研究があります[Ref. 1] 。菜食主義者は果物・野菜・豆類・大豆製品・ナッツ・食物繊維の摂取が多く、飽和脂肪酸と食塩の摂取が少ないという結果でした。魚を食べるヒトと菜食主義者では虚血性心疾患の発症が少なかったのですが、菜食主義者では脳卒中(特に脳出血)が多いという結果でした。肉を食べるヒトと比較すると菜食主義者は、虚血性心疾患が10年間で1,000人あたり10人少ないが、脳卒中は3人多いということでした。この小さな数字にどれほどの臨床的意義があるのかよくわかりませんが、菜食主義では比較的大きい血管の動脈硬化(アテローマ硬化)は改善するが、血管の栄養状態としては悪化するという側面があるのでしょう。人類の歴史の大部分(農耕以前の狩猟採取時代、約1万年前まで)において「人類は多種多様な食べ物を食べて栄える、雑食性の霊長類[注2] 」であったので、そもそも特定の食物のみで生きていくようにはできていないのです。

 

注1:サピエンス全史(ユヴァル・ハラリ、柴田裕之=訳、河出書房新社

Ref. 1: Tong TYN, Appleby PN, Bradbury KE, Perez-Cornago A, Travis RC, Clarke R, Key TJ.

Risks of ischaemic heart disease and stroke in meat eaters, fish eaters, and vegetarians over 18 years of follow-up: results from the prospective EPIC-Oxford study. BMJ2019;366:l4897.

 

〇〇〇〇〇なら肉は食べるな

「健康ためには赤みの肉は最小限に!」と言われています。最近のメタアナリシスにより赤みの肉をひかえると死亡率が下がることが示されましたが、「大人は現在の赤みの肉の消費を続ける」と結論しています [Ref. 1] 。矛盾していないでしょうか?メタアナリシスですのでもちろん統計学的には強いのですが、食事についての観察研究は問題だらけです [注1] 。食べるということは化学物質を摂取することではなくて、社会経済状況や育ち、健康志向の度合いなど様々な要素が含まれているのです。赤みの肉がわずかに死亡率を増加させるという(観察研究であるがゆえの因果関係が不確かな)結果が出ても、中立的な結論しか出せないのです。唯一のランダム化比較試験では、脂肪摂取の制限により虚血性心疾患や脳卒中の発症率に差はありませんでした [Ref. 2] 。「〇〇〇〇〇なら肉は食べるな」とえらく強い口調で言われます(攻撃的と感じるのは被害妄想でしょうか?)。今、言えるのは赤みの肉が悪いというエビデンスは無いに等しいということだけです。

 

注1:F. Perry Wilson, MDによる解説記事を参考にしました。

https://www.medscape.com/viewarticle/919507?nlid=132051_405&src=WNL_mdplsfeat_191015_mscpedit_neur&uac=207514FV&spon=26&impID=2131700&faf=1

Ref. 1: Johnston BC, Zeraatkar D, Han MA, Vernooij RWM, Valli C, El Dib R, Marshall C, Stover PJ, Fairweather-Taitt S, Wójcik G, Bhatia F, de Souza R, Brotons C, Meerpohl JJ, Patel CJ, Djulbegovic B, Alonso-Coello P, Bala MM, Guyatt GH. Unprocessed Red Meat and Processed Meat Consumption: Dietary Guideline Recommendations From the Nutritional Recommendations (NutriRECS) Consortium. Ann Intern Med 2019 Oct 1. [Epub ahead of print]

Ref. 2: Howard BV, Van Horn L, Hsia J, Manson JE, Stefanick ML, Wassertheil-Smoller S, Kuller LH, LaCroix AZ, Langer RD, Lasser NL, Lewis CE, Limacher MC, Margolis KL, Mysiw WJ, Ockene JK, Parker LM, Perri MG, Phillips L, Prentice RL, Robbins J, Rossouw JE, Sarto GE, Schatz IJ, Snetselaar LG, Stevens VJ, Tinker LF, Trevisan M, Vitolins MZ, Anderson GL, Assaf AR, Bassford T, Beresford SA, Black HR, Brunner RL, Brzyski RG, Caan B, Chlebowski RT, Gass M, Granek I, Greenland P, Hays J, Heber D, Heiss G, Hendrix SL, Hubbell FA, Johnson KC, Kotchen JM. Low-fat dietary pattern and risk of cardiovascular disease: the Women's Health Initiative Randomized Controlled Dietary Modification Trial. JAMA 2006;295:655-666.

 

脳の健康のために (1) 脳を疲れさせない

マインドフルネス瞑想は、デフォルト•モード•ネットワークの暴走にブレーキをかけ、脳がむだに疲れないようにしてくれるので、脳の休息法としてオススメです。ヨガには心血管系疾患の発症リスクを減少させる効果が顕著でした。楽天家には心理的な利点が多いので、楽天であると長生きすることが示されています。眠っている間に意識の解毒と回復を行なうための活動が夢の役目です。睡眠に関してもっとも重要なことは「最初の90分」をしっかり深く眠ることで、良質の睡眠をえることです。睡眠の質が悪いと認知症になりやすいと言われています。睡眠不足と密接に関連するものとして長時間労働があり、長時間座ったままで仕事をしているなど身体活動度の低下脳卒中のリスクとなります。長時間労働では過度の飲酒(明らかな脳卒中リスク)となる傾向も指摘されています。睡眠薬を服用すると認知症発症リスクが増すという報告もあります。

 

よく食って、よく眠って(いい夢みろよ!)、ただ、待っているだけでなく、マインドフルネス瞑想やヨガを行ない、長時間労働と過度の飲酒を避けて、脳を疲れさせないことが楽天ポイントを貯める上で重要です。

脳の健康のために (2) 健康的な食事

てっとりばやく体重を減らそうとするなら糖質制限が効果的ですが、長い目でみたら地中海食の方が良さそうです。オリーブオイルやナッツ、果物と野菜が多く、魚や鳥肉が多い一方では赤身の肉や加工肉が少なく(加工肉が少ないと減塩にもなります)、炭水化物はなるべく精製しないものを食する地中海食に準じた食事の有益性(心血管性疾患、特に脳卒中の減少)が示されています。地中海食など「健康的な食事」では脳萎縮が抑制されていました。植物性タンパク質脳梗塞が、動物性タンパク質脳出血が減少します。を毎日1個食べると、脳出血のリスクが減少するという報告もあり、1日1個くらいの卵は食べてよいのではないでしょうか。多価不飽和脂肪酸(エイコサペンタエン酸やリノール酸)が多いと脳梗塞が減少するという報告があるものの、他の多くの結果は一致した結論を示していません。精製した白い炭水化物は体に悪いが、精製されていない茶色い炭水化物は食物繊維や栄養成分が豊富で、健康に(特に動脈硬化を抑制して)良いと考えられています。人工甘味料を加えた飲料の摂取が多いと脳梗塞アルツハイマー病のリスクはともに3倍弱まで上昇していました。人工甘味料は危険です。精製された糖質はインスリンの過剰をもたらし、過剰なインスリンは「食べるのをやめさせるホルモン」レプチンの働きをさまたげ、満たされない空腹感をもたらします。このようにして脳が食物依存症となっていくのです。依存症ですから、意志の力は無力です。食物依存の感受性が高いヒトにとって、ダイエットとはシンドイ脳の問題であると肝に銘じる必要があります。

 

野菜や果物を多く食べた方が良いのは間違いないようですが、野菜と果物だけ食べておけば大丈夫ではなく、野菜と果物が不足しているヒトは要注意ということです。健康のためには、良い食生活習慣を上乗せするよりも、(往々にして見て見ないふりをしている)悪い食生活習慣を修正することが大事です。抗酸化物質の摂取(サプリ)による心血管疾患予防や認知機能低下抑制効果はほぼ皆無でした。食品に含まれる成分に惑わされるなということでしょう。唐辛子(特に生唐辛子)により総死亡率と特定疾患(癌や虚血性心疾患、呼吸器疾患)による死亡が減少するということが示されています。確かにチョコレートには脳卒中を予防する効果があるようですが、高血圧などの強力な危険因子を持っているヒトはそちらを先に片づけておいた方がいいでしょう。チョコレートは薬ではありません。コーヒーを多く飲む群(1日2-3杯以上)では、全死亡は約2割減少していました。ランダム化比較試験はまず不可能ですが、コーヒーは明らかに健康に良いようです。

 

(脳の)健康に良い食事はどのようなものか(科学的に証明されたというより、観察研究によるものが多いので)既に「わかっちゃいるけど」くらいの状況です。問題はどのようにして(脳の)健康に良い食事を実行するのかです。それとも不健康な食生活をやめた方が効果的であることは「わかっちゃいる」ことなのでしょうか。